第15話 洗脳傀儡門

 隣の和室へと連行されていった俺は、その場にうつ伏せで寝かされ彼女にマッサージをしてもらうことになった。


「おい袴田?」

「どうしましたか?」

「ここまでしてもらわなくてもいいんだぞ?」

「いえいえ中谷くんへの恩はこの程度で返せるとは思っていませんので」


 いや、こいつこれを言えば何でも許されると思ってんだろ……。


 当たり前だが転生してから妹以外の女の子にこんな風にスキンシップをされるのは初めてである。必死に自制心を働かせるつもりではあるが、ベビードール姿の袴田に触れられて平常心を保てる自信は俺にはない。


「じゃあ中谷くん、体の力を抜いてリラックスしてくださいね?」


 ということで袴田が俺のお尻の辺りに腰を下ろして、背中に触れてきた。


 あーやばいやばい……。袴田のしなやかな手は俺の背中を一通り摩ってから背中上部で停止する。そして、親指でぐいぐいと指圧を始めた。


「あ、あぁ……」


 性懲りもなく情けない声が漏れて死にたい。


「やっぱりかなり凝っていますねぇ……」


 なんて的確に気持ちいいポイントを刺激してくる彼女の指使いに、理性が吹き飛びそうになる。


「あぁ……そこはヤバいかも……」

「いいんですよ? もっとヤバくなっても」

「…………」


 いや、良くないぞ俺。


 彼女は俺に恩を感じているから、なにをしても拒むことはしないだろう。けれど、俺はそういう弱みにつけ込むようなことは絶対にしたくない。


 俺は『星屑のナイトレイド』のキャラクター全員に幸せになってもらいたい。


 彼女には本当に愛している相手以外には心も体も開いて欲しくないのだ。弱みにつけ込んでしまったら、例の撮影会のカメラマンと一緒になってしまう。


 だから俺は堪える。お尻のあたりに感じる彼女の重みにも、時折触れる彼女のベビードールの感触にも、彼女の手の温かさにも必死に堪える。


「なんだか体に力が入っていますね? もっとリラックスしてください」


 いや、リラックスなんてしたら理性を抑えられなくなる。


 なんて自分自身の弱さと戦いながら歯を食いしばっていたら俺だったが、ふと袴田が「あ、そうだっ!!」と口にするので顔を上げる。


「ん? どうかしたのか?」

「私、とっても気持ちいいつぼを知っています」

「気持ちいいつぼ? なんじゃそりゃ……」


 なんかよくわからないが嫌な予感しかしない。


 額に冷や汗を描きながら身構えていると「少し待っていてくださいね」と彼女は一度立ち上がると、どこかへ歩いて行くとノートのような物をもって戻ってくる。


「そのノートは?」

「え? あ、あぁ……え~と……これは昔父の肩たたきをしていたときに付けていたマッサージメモです……」


 なんじゃそりゃ……。あと、めちゃくちゃ嘘くせぇ……。


 明らかに目が泳いでいる袴田に一縷の不安を覚えないでもなかったが、彼女が有無を言わさず再び俺の尻の上に跨がると、ノートを片手に右手を背中に乗せる。


「え、え~と……右肩の中心辺りからお尻の方に30センチぐらい移動して……」


 なにやらノートを音読しながら俺の背中の上で指をなぞる袴田。


 あぁ……それくすぐったいから止めて……。


 と、そこで袴田はつぼの場所を発見したようで、親指でぐいぐいと背中を押す。


 ん? ここ……本当につぼなのか?


 それまでは的確に気持ちいいところを指圧してきた袴田だったが、なんというか今彼女が押してくれているところはそうでもない。


「あ、あれ……おかしいなぁ……ここであってるはずなんだけどなぁ……」


 なんて彼女はノートと背中を交互に眺めながら首を傾げていた。


 いったいこいつは何のつぼを探しているんだ? 不安になっていると彼女は「あ、ここだっ!!」と言ってさっきよりも少し右にずれた場所を指圧してきた……のだが。


「ぬおっ!!」


 彼女が指圧した瞬間、俺の脳に電流が走った。


 え? なに……これ……。


 なんというか気持ちいいとか気持ちよくないとかそういう次元の感覚ではなかった。


 指で背中を押された瞬間、一瞬にして全身から力が抜けて目の前の和室の風景が暗転した。


 いや、これ……どういう状況っ!?


『中谷くん……中谷くん……聞こえますか?』


 なんて暗闇の中で袴田の声が聞こえてくる。


 ん? なんだなんだ? 幻聴か?


 そんな彼女の言葉に返事をしようとするが、口は開かない。


 呼吸はできるがまるで金縛りにあったように体も唇も全く動かない。出来るのはせいぜい体が動かない恐怖に呼吸を荒くすることだけだ。


 俺は起きているのか? それとも眠っているのか? そんなことも理解できずに焦る俺だが、俺の焦りとは反比例するように頭が徐々にぼーっとしてくる。


『中谷くん……今、私は中谷くんの脳に直接話しかけています……』


 いや、やっぱりこれ、どういう状況っ!?


※ ※ ※


【誰もやってない】星屑のナイトレイド4【クソゲー】


189 ナナシの変態紳士

なんじゃこのシナリオ……頭おかしいだろ……


190 ナナシの変態紳士

頭おかしいシナリオって言われても全部頭おかしいんだから、どのシーンのことを言ってんのかさっぱりわからん


191 ナナシの変態紳士

美優ルートだよ

お前らがお風呂シーンヤバいって言ってたけど、その後のマッサージシーンの方が頭おかしいだろっ!!


192 ナナシの変態紳士

安心しろ

こんなのまだ序の口だ。この程度で頭おかしいとか言ってたらクリアなんて無理だぞ


194 ナナシの変態紳士

なんだよ

洗脳のツボって……どんだけ都合のいいツボなんだよ……

リアリティ皆無じゃねえかよ


195 ナナシの変態紳士

そもそもこのゲームにリアリティとか求めている奴いるのか?


196 ナナシの変態紳士

いや、さすがに都合良すぎだろ

せめて伏線は貼っておけよ


197 ナナシの変態紳士

伏線なら貼ってたぞ

美優の両親がババアに嵌まったきっかけはババアが経営するマッサージ屋だって序盤に出てきただろ


198 ナナシの変態紳士

TIPSに書いてたけどこのツボ洗脳傀儡門って名前らしいぞ


199 ナナシの変態紳士

直球で草

もう少し捻れよ


200 ナナシの変態紳士

ってか、これどういうこと?

京介の夢を操ってるってこと?


203

>>200

いや、それもTIPSに書いてある

ツボを押された瞬間、そいつの神経が指を伝って押した奴の脳に直結するらしい

意思疎通はお互いの神経を通じて脳で直接できるらしい


204 ナナシの変態紳士

チートで草


205 ナナシの変態紳士

美優ちゃんすげえええええええっ!!


206 ナナシの変態紳士

他人を洗脳する術を手に入れた美優が、その能力を使って全力で洗脳されにいくの草


207 ナナシの変態紳士

>>203

いや神経を直結できる=洗脳できるってわけじゃないだろ?


208 ナナシの変態紳士

>>207

だからしっかりTIPS読めって言ってんだろ

洗脳傀儡門でツボを押している側が話しかければ、相手の脳内でドーパミンがドバドバ出るんだよ

だから相手の言葉を従いたくなるって書いてる


209 ナナシの変態紳士

マジで書いてて草

もうなんでもありじゃねえかよwwwww


210 ナナシの変態紳士

まあ旧制作会社のクーデターって言われてるしな


211 ナナシの変態紳士

むしろこれぐらいぶっ飛んでくれた方がクソゲーは楽しめる


212 ナナシの変態紳士

ナイトレイドモードをプレイしている時点で実質洗脳傀儡門を押されてるのと一緒みたいなもんだろ

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