隣で寝息を立てる黒馬の裸の肩に、カーテンから漏れてくる冬の透き通った清い光りが落ちていた。まさか、冬にまで別荘に来てしまうとは。白馬は黒馬の寝顔を見つめ、ため息をついた。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*


 黒馬は深い眠りから覚醒しようとしていた。まどろみに漂う時、記憶は呼び覚まされる。黒馬は飛び起きた。呼吸が荒い。黒馬は自分の胸にきつく手を押し当て、激しい鼓動をなだめようとした。ほとんど眠りかけていた白馬は驚き、上体を起こすと黒馬の肩に手を置いた。「大丈夫?」白馬の声も手つきも優しく、けれど黒馬は肩に手を置かれたとたんに肩を跳ね上げ、白馬の声に鋭く振り向いた。「あ・・・」黒馬の刺すような目つきに白馬は驚き、肩に置いた手をどけた。白馬の顔をしばらく睨みつけてから黒馬ははっ、としたような顔をした。頭を抱え、「あー・・・」と小さく呻く黒馬に、白馬は気をとりなおすともう一度、さっきよりずっとそっと、今度は背中に手を置いて「黒馬、どうかした?」と訊ねた。黒馬は頭を抱えるのを止め、黙り込んだまま動かない。いよいよ心配になった白馬はだらり、と床に置かれた黒馬の手を握り、「黒馬、」と名を呼んだ。黒馬は急に白馬を振り返るときつく抱き、ベッドに沈み込ませると体に体を沿わせた。当惑した白馬はとりあえず、黒馬をなぐさめようと、そっと頭をなでてみた。黒馬が嫌がらず、一層白馬に身を寄せて頭をすり寄せるので、白馬は黒馬の頭をなで続け、ささやきかけるように歌を歌った。黒馬は白馬の体に回した腕に力を込め、時々顔を覗き込むと唇を寄せた。


 黒馬に抱かれ、白馬はまどろみの中を彷徨っていた。突然呟かれた言葉はまどろみの中を浮遊する白馬の耳にはっきりと届いた。

「白馬。」

「なぁに?」

 黒馬は白馬に生い立ちを聞かせた。世の果てのような貧困に産まれ、周囲の大人たちの虐待の中で育ったと。天文学に生命に救われたことを、黒馬は淡々と話した。空は遥か遠く、そこへ行ってしまえば誰の手も届かない。子供だった黒馬の心は死を見詰めていた。

「問題起こしながらなんとか大人になって、今はこうして白馬といる。」黒馬はそう言った。

「生きててくれてありがとう。」白馬は黒馬の肩に顔を押し付け、涙を拭いた。それからすぐに、二人は眠りに落ちていった。


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