第六紹介:為替案はない

 すがる幻想げんそうも何もないのならどうしたらいいのだろう。



 本当はもっとやりたいこと、行きたいところ、楽したいこととかたくさん願いはあって今の現状はいい形ではないのは分かってる。



 でも動きたい時に限って動けない。

 動きたい時に限って周りから意味不明なアドバイスをもらう。



 ごめん。

 やっぱ馬鹿にはなりたくないし馬鹿とは関わりたくない。



◇ ◇ ◇



 ストーカー逮捕お疲れ様!

 といってもあたし達に逮捕権たいほけんなんてないんだけど。



「自覚がない行動があだになったな」



 彼氏でもないしそういう関係ではないけど相棒は今日も人間の負の側面に苛立いらだっている。



 本当は分かっている。

 家電かでんが必ず壊れることも、物がいつかなくなることも。



 そして悲しみはさけては通れないことも。



 自分達のことはたなに上げられない。

 中性的ボーイの相棒はあまりそういう考えの元で動いてないみたいだけど。



「俺達は犯罪がどうだとか正義やら善悪で動いてねえんだよ。金欠で頼まれたんだからな。治安は守っておかないと」



 そう。

 あたし達には金がない。



 旅行とか他の人間関係とか海外で思いっきりワニと戦ってみたりとかしたい。

 やっぱテレビとかスマホで誰かがやってることは自分達もやってみたいし。



 それに相棒は一人での生活を求めてる。



 考えてみれば自分達がやってる負の退治ってここで言える範囲でもそうとう危ないものばかり。




・障がい者がいないと何も出来ない悪徳福祉あくとくふくしや精神科医の始末



・グレーゾーンをいいことに暴れまくる倫理観欠如者りんりかんけつじょしゃ



強者きょうしゃだからとやりたい放題の猿人間



無法者むほうもの



 ケースバイケースではあるものの、世の中って許せないことばかり多いし



『自分は良くて人はダメ』



 なフーリガンとかサブカル界隈かいわいに二人はいない?いや三人か。



 相棒と二人で夜を共にしていつも思う。


『お前らは自分のしていることを周りと分析して一般論と自分の意思の中間を規則を守って暮らせないのか? 』



 それはあたし達が公的にさばいてもいい立ち位置にいるから許されているだけであってセキュリティを金欠で強化できない以上は自分達の身は自分の身で守るように暮らしているからかもしれない。



 そうじゃない側の力になりたいからどうしても資金を集めてこの仕事からぬけたい。

 相棒はあまりあたしを意識していないのかな?



 ずっと戦って一人で生きていきたいなんて。

 いや、変にフェミニスト的な扱いされるよりかはちゃんと一人の人間として見てくれて一緒に鍛え合ったんだからいいか。



 でも寂しい。

 命令通りの仕事をいやいややりながら愚痴ぐちってはおごって、そして向かってくるものをちぎってはなげて。



「今日は海でも行かねえか? 」



 めずらしく相棒からさそいがあって当たり前のようについていく。



 彼のバイクに乗るのも久しぶりだ。

 都会に引っ越してからほとんど彼は徒歩か自転車ばっかりでバイクを吹いてるところを見るだけだったから。



 夏場の海は混むから仕事がら穴場を見つけるのが得意な自分達は見晴らしのいい砂浜のある駐車場が空いていたのを見つけてそこへちゃんとめて薄暗い砂浜へ向かった。



 サメが出るかもしれないと相棒は海へ足をひたらせる前にチェックしてくれた。



「さっさとこんな仕事終わらせて、それぞれの道を楽しみたいよ。03年産まれでいい歳だしさ」



 そうだけど。

 あれだけ夜や暇な時は二人でボロアパートで暴れ続けたのに海へ来ていうこと?

 彼らしいけど。

 いまは自分らしく生きていくから生きづらいと仮説を立ててくれるプロのビジネスライターもいる時代なのに。



 すると彼は裸足で砂浜を蹴るかと思ったら指でなにか文字を書いていた。



「す き だ よ ? 」



「こんなよくある言葉で霧張きりうむを口説きたくなかったからさんざん都会とか田舎の図書館使ったり、高い本に金払ったり、あと怪しい店で女の子が喜ぶテクニック勉強してたけど戦ってばっかの俺にはその言葉しか使えねえ」



 そういうことか。意識してないわけないか。

 嬉しいというより長編アニメの第三クールがやっと終わって続きはどうなるんだろう?と期待がないまま終わりを見守ったような気持ちだ。



「でもさ。同じ人間で閉じて、今までの仕事で出会ったロクデナシみたいな人間になりたくないだろ?もっと立派になってから霧張きりうむとは一緒にいたいから」



 はあ。

 悪魔の返り血ってやつか。

 変なところで教養きょうようがあるの本当に二十代。

 あたしも人のことは言えないけど。



「言葉にしてくれてありがとう。でもさ、溜めすぎ!かしこくなるばかりが幸せじゃないっていつも倒してきた人間見て反省しては飲んでたのに。バカッ」



 単純に自分達は不器用だからうまくいっていたのかもしれない。

 仕事や世代的にそこまでくたびれていないつもりだったのに。

 だから言うべきかな。



「それでも好きなことで飯食いたいよね。あたし達だけじゃかたよるし。でも、ここから二人ででて違う場所に住んでたまに会うって形でもいいんじゃない? 」



 その手があったかって本当にポンッと手を叩くヤツがあるか。

 相変わらず面白いんだから。



「じゃあ次の案件終わらせてさっさと二人でやりくりしながら色んな経験しよっか」



「引っ越しも慣れてるし今更感あるけど最高の場所で永遠にデトックスもありだね」



 なんだ。

 こんな選択肢があるじゃないか。



 あと本当に彼はあたしを好きでいてくれている。

 こういう時は頭や教養じゃなくて素直な気持ちだ。



 やっと彼のことを知れたし、あたしも仕事の愚痴以外を彼と話せた。



 不器用で馬鹿だけど辛い経験を一緒にしすぎて彼が小さな努力家なの忘れてた。



 それはごめん。

 次の場所で仕事する時はあえて二人の関係を秘密にして色々と欠如した人間を倒そう。



 アンダーグラウンドとの線引きはもう充分だから。



 ぎこちなさは消えてもはや夫婦のように二人でバイクを楽しむ。



 いいよね。

 こんな恋も。



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