第五紹介:典型的なパターンをいやがる

 許せない者にたいしてそのまま見逃すことが倫理観なのか?



 理不尽りふじん不条理ふじょうりがまだ続いている状態で必要がなくて冷たい自己啓発じこけいはつ自己実現じこじつげん蔓延まんえんしていてすぐに売られるこの現実で幸せを求める?



 何年も前のことを引きずっているくせに新時代がどうだの。



 実際じっさいはないものを盲信もうしんしながら昔から続く格差かくさを広げるだけ。



 そんな世界で馬鹿ばかにはなれねえよ。




◇ ◇ ◇



 長年行動を共にしていた仲間が殺られた。

 元々コンプラのこともあって一人で過ごしていく必要があったからすぐに孤独こどくなんてなれると思っていたが堪えるねえ。

 大切な人はいなくなってからそのありがたさを知るって。



 俺達おれたちはかはないからデータ化された仲間の表に出せる範囲はんいのプライベートだけ見られる仮の家でながめていた。



 一面いちめんでしかないと分かっているから何度観ても感動はない。



 俺達の日々は常に裏の仕事ばかりおしつけられて地上波ちじょうはや夜にはびこるフィクションみたいな美しいとされる世界なんて経験したことがない。



 書店に行っても心動かされる物語なんて超えるほど俺達の非日常は刺激的しげきてきだがオチも感動もなんにもない。



 死んだ仲間は太った中年女性の保身行為ほしんこういで殺された。



 そいつはターゲットでもあって電車で狙った時に仲間が痴漢冤罪ちかんえんざいにされかけて俺達が常にカメラを仕込んで監視していたから証拠をつかむことができ、ターゲットの中年女性が逃げ出すところを二人で鍛えた運動神経で追いかけていた。



 そこを仲間が中年女性を追い詰めた時、中年女性の旦那に撃たれて死んだ。



 最初から痴漢冤罪ちかんえんざいをねらわせて追いかけてきた俺達を殺すつもりだったんだろう。



 間一髪よけた俺は旦那の元へパルクールを駆使くししてつかまえ、逃げられた中年女性の行方を探している。



「お前の愛する肉布団にくぶとんがどこにいるのかはやく教えてくれないかな?遅くなればなるほどお前の身体から生気せいきは失われるだけなんだけどなあ」



 俺達の仕事に「殺し」は入っていない。

 あくまでターゲットの抹消まっしょう

 ターゲットをつかまえて機関きかんに送るシンプルな理由。



 こちらに武力を使う権限けんげんは与えられていない。



 だが仲間を殺されて平気な顔なんてできない!

 つかまえた旦那は口を閉じ続け、中年女性の場所をはかない。



 それはそれで拷問ごうもんに近い形で旦那を痛めつけられるから復讐ふくしゅうにはもってこいだがな。



「よほど愛しているんだな。あの肉布団にくぶとんを。体型の割に逃げ足がはやいのもコンプラによって運動神経を隠しているのは分かっている。はやく言わないと自然死しちまうぜ?それくらいの工作こうさくはできるからな」



 もちろんこんなことをしていてもらちが明かないからその間でも外出時や支給された端末やPCパソコンを使ってインターネットで探しているが簡単に中年女性はつかまらなかった。



 許せない。

 自分だけ手を汚さず仲間を殺しておいて。

 しかもあんな醜い見た目で女を売る図太ずぶとさに。

 国はあんな人間をあがめて男性を軽蔑けいべつしていると聞く。

 根深い歴史と理不尽な法律に役に立たない警察を俺は憎む。



 まあ今回はそんな役たたず達じゃどうにも出来ない罪人ざいにんをたおすために十代になるまえから鍛えられた孤児こじでもある俺達がこの仕事から解放かいほうされるために厳しい訓練を終えてターゲットをつかまえているわけだからあまり人の事を言えないかもしれない。



 だからといって仲間を殺していいはずがない。

 狙った殺人だったので旦那も逃げている中年女性も機関きかんからマークされてつかまえれば多額の懸賞金けんしょうきんが手に入る。



 そうなると金目当てで他の訓練経験者……俺達とかつて行動を共にしていたライバルも狙ってくる。



 そんな状態から今まで逃げ出している中年女性の生命力は賞賛しょうさんあたいする。



 だからこそ俺の手でつかまえてやるのだ。



 中年女性の行動ルートは都内を次々と更新している。

 それでも県外や国外に逃げられるわけがない。



 そういえば中年女性は痴漢冤罪ちかんえんざいを狙って俺達の行動をさえぎっていた。



 個人的につかまえた旦那は相変わらず口はわらない。

 だが小言でどこか場所を言っていた。



 なんらかの仕掛けでまだあの二人はやり取りをしている。



 仲間が殺された時も逃げた場所は計画的に誘い込んだ路地裏には見えなかった。

 それなのに旦那が現れて仲魔を殺した。



 つまり旦那には中年女性の掛け声ひとつで行きたい場所に行ける能力があるのかもしれない。



 いちかばちかかけて旦那への悪口をやめた。

 このままでは怪しまれるからいつも通りを心がけた。



 多分回収した銃以外にも武装はある。

 そこまでは手が出せず放置ほうちしていた。



 さりげなく旦那の身体をさわり、変な趣味ではなく時を待った。



 まだ旦那は俺の推理に気がついていない。



 旦那をあえて油断させるように距離を取った時、旦那の身体は光り輝いていく。



 やはり連動していたか。

 旦那は瞳孔どうこうを開き、チャンスを狙った俺の行動に驚いていた。



 そして場所はどこかの屋上へ。

 ワープってやつをまさか経験できるとは思わなかった。

 少し吐きそうだ。



 しばらくして俺は旦那につかみかかる?



「やつの場所はどこだ?」



 もちろん答えるわけがない。

 しかしこれは旦那にとっても計算外。



 身分がわれている中年女性の場所の特定はこのエリア付近。



 つまり他のライバル達も中年女性の痴漢冤罪をくぐりぬけて追いつめているかもしれないってことだ。

 他の反応も多すぎるし。



「あんたが肉布団どどういうコミュニケーションをとっているか分からないがこのままですむと思うか?あんたらにこんな能力があるとは思わなかったがさっき更新したよ。そのデータを。もう逃げられないぜ」



 次にワープされないよう、またはされてもいいように旦那の口にタオルを巻き、壁際に動けないようつかまえてある。

 伊達だてに鍛えてないんだよこっちは。

 フィクションのような能力者だろうとしったことか。



 必ずかたきは撃つ。

 そして旦那は抵抗の弾を売ってくるはずだ。



 中年女性がこのエリアにいるのは分かっている。

 座標ざひょうの位置の特定は俺の得意分野だった。



 さあ、抵抗してくれよクソ野郎。

 こいつは奥さんと違って保身に走らない。

 なら証拠を隠すために自害する可能性もあった。



 もちろん奥さんと共に・・・・・

 だからこの二人に未来がないことをある程度具体的に伝えておいた。



 もっとも仲間が殺されていなくてもこいつらの未来は変わらない。

 むしろ仲間を殺したことで懸賞金がかけられてもう逃げるしか道がない罪人なのだから。



 それか俺を巻き込んで死ぬ可能性もあった。

 まあ、それもいい。

 孤児になって自由になれた時間はほぼ少なかった。

 こいつらを倒せばこれまでの仕事を忘れて二人でなんてことのない日常を過ごすことは確実だった。



 だが機関きかんから見放みはなされた俺達は他の連中にその権利を奪われ、懸賞金さえ俺達には払われない。

 そして俺の仲間は死んだ。



 旦那がどこからか範囲の大きい弾丸を打ち出した。



 それからの記憶は俺にはない。

 もしかしたら、俺達の仕事はとっくになかったのかもな。


 かたき、とれてなかったらごめんな。


 はじめて話しかけてくれた時からここを出ようと何度も任務を達成してきたのに何もできなくてごめんな。


 ダチよ。



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