第30話 本性

 当日。朝食を食べた後のんびりしていると、ルナがやってくる。


「知らん女が家の前に居るんじゃけど、何か知らん?」


「はい?」


 俺は窓から外を見ると、家の前にクレアが立っていた。

 こちらを見て手を振っている。


「あっ。知り合いだわ」


「……詐欺にあわんようにだけ、気をつけるんじゃよ」


 ルナがこちらを見て言う。人聞き悪いことを言うんじゃないよ。


「クレア、おはよう」


「ふふ。わくわくして少し早く迎えに来ちゃった」


「今、用意してくるわ」


 俺は一瞬で準備を終えると、すぐに家を出る。


「今日は沢山栄養付けてもらわないと、って思って張り切っちゃった!」


「いいね!」


 しばらく話しながら歩いていると、綺麗な一軒家に辿り着く。


「ここ、私の家! 入って」


 中に入ると、大きなリビングが広がっている。


「大きい家だな」


 金持ちか?


「そう? ありがとう。仕込みはもう終わっているから、二階の部屋で少し話しましょう?」


「りょーかい」


 俺は二階の部屋に案内される。女性っぽい片付いた綺麗な部屋だ。

 仕込みは終わっているのは本当だろう。良い匂いが下の階から香って来る。


「今日は来てくれてありがとう」


「良い御飯が食べられると聞いたからな」 


「冒険者って聞いたけど、いつからしているの?」


「まだ二ヶ月くらいだな」


 もう二ヶ月か。長いなあ。こんな社畜みたいになるとは。


「そうなんだー。ランクは?」


「D」


「二ヶ月でそれなら速いね! 将来有望だね! 良いジョブなのかな?」


 うっ! 来てしまった、この話題。

 だが、避けては通れない話題ではある。


「そ、そうだね……戦闘系のジョブ、だよ」


「剣士とか?」


「そんな感じ」


「内緒なんだ」


 そう言ってクレアは笑う。

 まさか無職とは言えまい。


「それにしても、家まで来てくれるなんて、期待持っても良いのかな?」


 クレアはこちらを上目遣いで見る。

 これは……!? 

 ラブコメコースなのか? この作品はラブコメだったのか!?


 どう答えるのが正解なんだ?

 悩んだ末、俺が出した結論は……。


「好きに取ればいい」


 分かんねーーーー!

 俺はとりあえず、日和った答えを出す。


「ふふ、そっか。ヨイチ君も大きい家に住んでたよね? 結構稼いでるんだね」


 いや、(元)幽霊ハウスに住んでるんです。


「いや、あれはシェアハウスというかパーティ皆で住んでいるんだよ。ルナっていうメンバーが居るんだけど、大喰らいで食費が大変で」


 ルナの話題を出した時、クレアの顔から笑顔が消える。


「え? 女? ヨイチって、女と一緒に住んでいるの?」


 冷めた声色で尋ねられる。

 あれ? 急に寒くなった気がする。

 この世界って、クーラーないはずなんだけど。


「い、いや。フィンっていう男も住んでいるから!」


 急に言い訳をする浮気男みたいな回答になってしまった。


「私は女と住んでいるか聞いているんだけど?」


「……住んではいます」


「ふーん。そんな女が居ながら、私の所に来たんだね。私以外の女と一緒に住んでいるんだ?」


「いや、そんな関係じゃないから!」


「私以外の女と過ごしているんだ? 私は貴方だけを見ているのに。貴方はそうじゃないんだね。私だけじゃ不満なんだ」


 顔から表情が抜け落ちている。完全にホラー映画の敵がする表情である。


「ちょっと落ち着けって」


 俺は席を立って落ち着くよう促す。

 そんな関係じゃないのに、完全に浮気している人じゃねーかこれじゃ!

 次の瞬間、目の前からクレアが消える。

 あれ?

 いつの間にか背後にクレアが立っており、綺麗な指で俺の首に優しく触れる。よく見るとその手には料理用のナイフが握られている。


「今から貴方のために料理を作って来るから。勝手に帰らないでね?」


 低い声で言われた。


「あ、はい」


 俺の返答を聞き、クレアはにっこりと微笑みながら一階のキッチンの方へ消えていく。


「良い子で待ってて、ね?」


「勿論」


 俺は苦笑いだけを浮かべていた。

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