第27話 別れ

 その手には再び柄杓が握られている。


「婆さん、レミーって婆さんを探しているんだが知らないか?」


「あんたがなんで私の名前を知ってるんだい?」


 え?


「なんだってええええ!? なにが美少女だ図々しい!」


「誰も美少女なんて名乗ってねえだろうがあああ!」


「ぐえええ!」


 柄杓で顔面を殴打される。強ええ。


「はあ? 幽霊になった父が探している? 確かにあの家には住んでいたけど、そんな詐欺に引っかかるほどボケちゃいないよ。帰んな」


 事情を説明するも、詐欺呼ばわりだ。

 まあ怪しすぎる。

 だが、あの家に住んでいるということはこの婆さんが幽霊の娘に違いない。


「あんたが子供の頃住んでいた家に居る。財産について話したいんだってよ。どうか来てもらえないか?」


 俺は頭を下げる。


「お願いしますううう! このままじゃ貴方のお父さんとバディを組むことになるんです」


 必死で懇願するフィンに顔を引きつらせるレミーさん。


「はあ……分かったよ。市場が終わった後なら行ってやるよ」


「ありがとうございます!」


 俺達は市場が終わるまで待った後レミーさんを連れて家に戻る。

 家ではそわそわしている幽霊が待っていた。


「父さん!?」


 レミーさんは幽霊の姿を見て口元を押さえる。

 幽霊はレミーさんを顔を見て、呆然とする。


「レミーか……老けたな」


「言いたいことがそれだけなら、帰らせてもらうよ」


 レミーさんは呆れた顔を浮かべて、帰ろうとする。


「冗談だ、冗談。パパジョーク!」


「はあ……昔と何も変わってないようね」


 レミーさんはそう言いながらも笑っている。


「レミー、財産についてなんだが……」


「ああ。どうしたの?」


「実は……それは嘘なんだ。そういえば来てもらえると思って。迷惑ばかりかけた俺の元に来てくれるにはそう言うしかないと……すまない」


「なんだって!?」


「本当にすまない!」


 幽霊のおっさんは深々と頭を下げる。


「ふざけるんじゃないよ! そんなもののためにわざわざ来たと本当に思っているのかい!?」


「え?」


「この年にもなると財産なんて多く持っててもしょうがないさ。それにうちに金がないことなんて知ってるよ。久しぶりだね、お父さん」


 レミーさんの言葉を聞いて、幽霊は涙を流す。


「レミー……! 久しぶり。あれからずっと心配で、心配で」


「色々あったけど、元気にやってたよ。冒険者になって、馬鹿やって。だから何も気にしなくていい」


「そうか。流石私の自慢の娘だ。愛しているよ。愛しのレミー」


 幽霊のおっさんは頬をすかり涙で濡らしながら体が消えていく。


「ヨイチさん達もお世話になりました。ありがとう。レミー、また天国で会おう」


 幽霊はそう言うと、笑顔で消えた。


「さようなら、父さん」


 レミーさんは小さく呟いた。


「あんた達もありがとうね。それにしてもあんた、本当に冒険者になるとはね。借りができたね」


「別にいいさ」


 この家がようやく借りられるからな。

 こうして俺達はようやく念願の家を借りることができた。

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