第26話 レミー

「え? なんだって?」


 そこには背中の丸まった九十近い婆さんが居た。


「お婆さんのお名前はレミーさんですか?」


「ええ!? 風邪薬ならそこの棚だよ!」


 やべえ。全く会話にならねえじゃねえか。


「名前はなんですか?」


「あんだって? 腰に聞く薬はそこの棚だよ!」


「名前はなんですかああああああああああああああああああ!」


 俺は耳元で告げる。


「うるさああああああああああい!」


 次の瞬間、俺は婆に杖で殴られる。


「ぐえええ!」


「私はレミーだけど、そんな家には住んでないよ」


 結局この婆さんは探している娘ではないらしい。この一言を聞くのに三十分かかったぜ。


「ボケてるから本当かも分からんぞ」


「けど、年取りすぎていると思いますよ」


 俺達はとぼとぼと幽霊の居る家に戻った。


「見つかりましたか!?」


 俺は無言で首を振る。


「もう除霊いいだろ。フィン、憑いてもらえ。幽霊背負って戦えば少しは接近戦でも戦えるだろ」


「そんな気軽に幽霊背負える訳ねぇだろうがあああ! 武器じゃねえんだよ!」


「仕方ないですね。成仏はできませんが共に生きることはできます。フィンさん、これからよろしくお願いします」


 深々と幽霊が頭を下げる。


「お前ら、僕の意向をきけーー!」


「幽霊とゴーレムの二刀流じゃけえ」


「絶対に嫌です! なんとしても見つけましょう!」


 幽霊との同居を提案されたフィンがやる気をみなぎらせる。


「なんで今更財産について伝えたいんだ?」


「……消える前にただ謝りたいんです。レミーは昔、医者になりたいと言っていた。医者になるには金が要る。そのために僕は一生懸命働いたんだけど、無理をし過ぎたのか体を壊して早死にしてしまった。馬鹿だよなあ。結局妻にもレミーにも余計に迷惑をかけてしまった。そして……色々言ってますけど、ただ会いたいんです。今も貴方達に迷惑をかけていますね。もうこの街には居ないのかもしれません。諦めます」


「馬鹿野郎。そんな未練残されちゃこっちが困んだよ。もう少しだけ待ってろ」


 俺はそう言って再び家を出て探し始める。


「どこ探すんじゃ?」


「刑事も基本は足で探すんだよ」


 俺達は再びリエン街をさ迷う。だがさ迷うこと数時間。

 全く見つかることもなく、俺達はレミーはこの街にはもういないのではないかと思い始めていた。


「おい、ヨイチ! 仕事にも来ずに何やってんだ!」


 そう怒鳴るのは、土木作業の仕事でお世話になった親方である。


「別に俺は正式な作業員じゃねえだろうが! 爺さん、レミーって婆さん知らねえか?」


「レミーねえ。そういや昔、レミーって子が冒険者として働いていたな。今は引退して広場で店をやってるって聞いたが」


「何十年前の話だよ……」


 だが、他にあてもないため爺の言葉を信じ広場へ向かう。

 広場は、俺が転生してすぐの時に来た場所である。

 懐かしさを感じながら屋台を見て回ると、知っている顔があった。


「げっ! あの時の柄杓ババア!」


「誰が柄杓ババアだい。また食らいたいようだね」


 そこには俺に水をぶっかけた婆さんが変わらずに営業していた。

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