第25話 人探し

「喋ったあああああああああ!」


 俺達はパニックに陥る。


「落ち着いて。食べたりしませんので。皆、姿を見せると逃げるんですよ」


 幽霊は頭を掻く。冷静な幽霊を見て、こちらも冷静になってきた。

 どうやら敵意はなさそうだ。


「でかくなるからだろ」


「久しぶりに人に会えたから興奮して」


「それ、街で言ったら逮捕だぞ。さっさと成仏してくれ」


 俺にこの家を譲れ。


「いやーしたいのは山々なんですけどね? やっぱ未練があって」


「はい、ありがちなやつね。聞いてやる」


「ありがとうございます」


「実はね…もう一度だけでいい。娘に会いたいんです。我が家の財産について伝えたい」


「娘って……。おっさんは、何年前からここに居るんだよ」


 この幽霊が何年前に死んだか分からねえが、もう死んでいるんじゃ……。


「分かりません」


 幽霊のおっさんは申し訳なさそうに項垂れた。

 情報がなさすぎる。


「無理だ、おっさん。帰るか、お前等」


 俺が踵を返そうとすると、幽霊が足を掴んできた。


「待って下さい! やっと訪れたチャンスなんです! 家でなく貴方に憑きますよ!」 


「うおおおおおおお! 離れろや! おっさんが足にしがみつくことに需要あると思ってんのか! 取れねええええ! 呪いの装備かお前は!」


 いくら足を振っても幽霊が取れる気配がねえ。

 しばらく暴れたが取れないから諦めた。


「分かったよ……。この家を建てて何年くらいで死んだんだ?」


「十年も経たないくらいだと思います」


「築六十年と考えると生きていてもおかしくないでしょうが、今この街に住んでいるかも分からないですからね」


「不動産屋に聞いてやる。娘と会ったら大人しく成仏しろよ」


「それは勿論」


 俺達は家を出て、不動産屋に戻る。


「わざわざ幽霊になってまで伝えたいなんて、そんな凄い財産なんでしょうか?」


 フィンが首を傾げる。


「どうかねえ……」


 俺はそう呟いた。


「貸主は最初に住んでいた方とは別ですよ。最初に住んでいた家族? 奥さんは死んだと思いますが、娘さんの行き先までは……」


 やはり不動産屋も行き先は知らないらしい。当然か。


「やっぱそうか」


「どうしてそんなことを? やっぱり出ましたか?」


 不動産屋が興味津々で聞いてくる。


「お前、隠してただろ! 事故物件にもほどがあるだろうが!」


「いやー、あの物件誰も借りてくれなくて困っているんですよ。皆、幽霊見て帰っちゃうから。大きさと場所を考えると破格だと思いますがどうですか?」


「借りるかもしれねえから待ってろ」


 俺は不動産屋にそう伝えた後、幽霊の元に戻る。


「不動産屋じゃ分からなかった。もう少し情報はないのか?」


「名前はレミーです。金髪の美少女です。私に似ずに本当に可愛い子で……」


「ババアだよ、今は」


 結局名前と髪の色しか分からなかった。

 俺達は金髪のレミーを探すため街に繰り出す。


「レミーっていう婆さん知らねえか?」


「次は人探しかよ、ヨイチ。人より職探した方がいいぞ」


「お前は嫁さん探せバカヤロー」


 冒険者仲間に尋ねるも、ろくな回答がない。


「レミー? 一人だけ知っているな」


「本当か!?」


 冒険者仲間の一人からようやくレミーの情報を入手した。


「確か、三番街の薬屋の婆さんがレミーって名前だったはずだ。髪も金髪だったような?」


「薬屋か……行ってみよう」


 俺達は情報を元に、薬屋に向かった。

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