第23話 真面目が一番

 皆が寝静まり警備がビトー一人になった時を狙う。

 鉄格子から周囲を覗くと、ビトーは遠くの食堂の椅子に腰かけうつらうつらとしている。

 俺は木で作った鍵を使い、慎重に、慎重に鍵を開ける。


 ガキッ!

 鍵が開く音が響く。

 起きたか!?


 いや、ビトーに反応はない。

 俺は静かに扉を開けると、ビトーに闇に紛れて接近する。

 そして剣を構えて、顔面にフルスイング!


「グエエエエエ!」


「お返しじゃボケエエエエエエ!」


 俺は今までの恨みを晴らすべく、木剣でぼこぼこにする。


「お前こんなことしていいと思っているのか? うちはレイヴンだぞ? 今ならまだ許してやる。早く剣を捨てて牢屋に戻れ」


「本当ですか!」


「ああ、本当だとも」


 ビトーを笑いながら腰の剣を取ろうと手を伸ばす。


「ありがとうございまーーーーす!」


 俺はビトーの剣を思い切り木剣で弾き飛ばす。

 そして、ビトーの脳天に渾身の振り下ろしを叩きこんだ。


「ガアッ!」


 ビトーはそれにより、気絶する。


「何がレイヴンだ。この中二病野郎が。お前が入れ、おっさん」


 俺はビトーから鍵と武器を奪った後、自らの檻に放り込む。


「ビトーは叩きのめした! 今こそ脱走の時! 鍵は開けてやる! 出ろ、お前等!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 他の者達も最初は驚いていたが、俺がビトーを倒したことによって脱出の可能性を感じ取ったのか大声を上げる。

 俺は全員の牢屋の鍵を開けたのち、食堂から出口に向かう扉の鍵も開ける。

 扉の先には、既に先ほどの騒ぎを聞きつけた警備兵が駆けつけてきている。


「かかれー!」


 人数はこちらの方が上だ。

 敵は武器を持っているのもあるが、人数差で混戦となった。

 俺はどさくさに紛れて、出口とその鍵を探す。


 出口の近くに、管理する部屋があるはずだ。

 俺は部屋を見つけると、その扉をけ破る。

 するとそこには隠れていたボウヤーの姿があった。


「ヨ、ヨイチ君……!? なぜこんな所に。心配していたんだよ」


 ボウヤーは驚いた顔を見せた後、両手を広げる。


「ボウヤーさん、僕も会いたかったです」


 俺はボウヤーと抱擁を交わすと、そのまま両手でがっちりとホールドを決める。


「ん? ヨイチ君?」


「お前に復讐せずに帰れねえからよおおおおおおおお!」


 俺はボウヤーを持ち上げると、そのままジャーマンスープレックスを決める。


「ぐえええええええええええええええ!」


 悲鳴を上げた後完全にのびたボウヤーから金と鍵を頂戴する。

 部屋を出ると、俺は静かに出口の鍵を開ける。


「出口の扉が開いたぞ、お前等―――――!」


「「「「よっしゃああああ!」」」」


 俺の言葉に囚人達から歓声が上がる。


「なぜ!? ボウヤーさんが持っていたはず?」


 警備兵は驚きの声を上げていた。

 俺はそのままこの地獄から出て、三週間ぶりに外の空気を吸う。


「ああ……やっぱりシャバが一番だな」


 俺は外に繋いであった馬車に乗ると、馬を走らせる。

 俺は皆の待つリエン街に向かった。


「ただいま」


 俺はリエン街でフィンとルナに久しぶりに会う。

 ぼろぼろの姿の俺を見て、フィンは全てを察したようだ。


「だから言ったのに……」


「馬鹿じゃけえ」


 ルナはぼろぼろの俺を見て笑っていた。


「やっぱり真面目が一番だわ」


 俺はそう呟いた。

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