第22話 決行は深夜

「昼飯の時間だぞ、お前等!」


 ビトーの怒号が響く。

 これだけが楽しみだぜ!

 俺は牢屋から出ると、席に座る。

 昼飯は薄いがハムがあった。


「いただきま~」


 次の瞬間、ビトーの手によって俺の皿が机から落とされた。

 皿の割れた音だけが食堂に響く。

 ビトーはそのまま俺の飯を踏みつける。


「おっと、手が滑っちまったよ!」


「何てことすんだよ!」


 俺は咄嗟にビトーの胸倉を掴む。


「誰の胸倉を掴んでいるんだ!」


 ビトーは腰に持った鉄の棒で俺を殴りつける。

 しばらくその殴打は続き、最後に俺の耳元で囁く。


「ここで長生きしたいのなら、あまり俺を舐めないことだ」


 ビトーは笑いながら、去って行った。

 俺の飯が……。

 俺の……この地獄での唯一の楽しみが。


 目が覚めた。

 こんな地獄に居るべきではない。


「大丈夫かい、二十号?」


 七号が心配そうに尋ねてくる。


「大丈夫ですよ?」


 必ず脱走してやる。

 俺のプリズンブレイクが始まる。

 俺はノルマを終わらせた後、脱走の計画を立てる。


 脱走するには少なくとも三つの扉を抜ける必要がある。

 俺の牢屋の扉、食堂の扉。そして俺が入って来た扉の三つだ。

 牢屋の鍵と食堂の鍵は何とかなる。


 ビトーが持っている鍵を見て、木で作成すればよい。だてに狂ったように毎日彫刻を作っていないのだ。

 俺のコピーテクニックはもはや下手なプロより上な自信がある。

 だが、俺が入って来た扉は鍵を見た記憶もないし作成は不可能だ。


 うーん、やはり強行突破しかないか?

 俺はプランを立てたのち眠りについた。

 翌日、俺はビトーに会うと、頭を下げる。


「昨日は御指導ありがとうございました」


「随分素直じゃないか。上下関係が分かったか?」


 俺の素直な言葉を聞いて大男が笑う。


「はい。雇い主に逆らうなんて愚か極まりない行為でした。私は彫刻を極めたいと思います。より大きな彫刻を作りたいのですが、ビトー様のお力でなんとかできないでしょうか?」


「……良いだろう。だが、大きくてもノルマは最低二個は必要だ」


「了解しました」


 俺は頭を下げる。

 要望通り明日から一回り大きな彫刻と、彫刻用の木材が届けられた。

 俺は普通の彫刻を彫りながら、一つだけ中を空洞にする。


 その空洞分の木材で俺は木剣を彫った。

 覚えていろ……ビトー。

 決行は深夜。

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