第19話 スカウト

 ラツル呼びということはこれが贋作であると気付いているということだ。

 刺客が再びやってきたんじゃないだろうな、と俺は警戒心を上げた。


「私がラツルです。こんにちは」


「こんにちは、ラツルさん。私はボウヤーです。素晴らしい作品でしたので、是非作者様の顔が見たくて」


 ボウヤーさんはすらりとした長身で、にっこりと微笑む。


「どうも。どれも自信作なので是非お買い上げいただければ」


「私がお買い上げしたいのは貴方です、ラツルさん」


 ボウヤーさんははっきりとこちらを見て言った。


「貴方は天才です! この世界でもトップを取れる逸材。是非我が商会の専属彫刻家としてお雇させてください! アトリエレーゴスより何十倍も売る自信がございます!」


「て……天才!?」


「この作品、一作一作情念が籠っています。良い作家が作った作品には魂が宿るのですよ。貴方の作品からは魂が感じられました」


「ラシル氏と勘違いされているのでは?」


「いえ、ラツル氏。貴方にこそ私は惹かれたのです。また明日来ます。良い返事を期待していますね」


 ボウヤーさんはそう言って、帰っていった。


「スカウトですか? 確かに素晴らしい出来ですが、贋作でスカウトが来るでしょうか?」


 その話を聞いたフィンが首を傾げる。


「馬鹿野郎! ボウヤーさんは俺の作品から俺の潜在能力を感じ取ったんだよ! すまんが、お前等。俺は行くぞ。世界が俺の作品を楽しみにしているからな」


「大丈夫かな?」


 俺はフィンの反対を押し切り、スカウトに応じることに決めた。

 世界一の作品を作る時が来たのだ。

 翌日。


「ラツル氏、お返事を聞きに来ました」


「ボウヤーさん、お世話になります」


 俺は頭を下げる。


「ありがとうございます! 共に頂点を目指しましょう!」


「はい!」


 俺はボウヤーさんと固い握手を交わす。


「では、アトリエがありますのでそちらへ向かいましょう。とても素敵な場所なので、楽しみにしていて下さい」


「分かりました」


「稼いでくるの期待しとるけえ」


「頑張って下さいねー」


 二人から惜しまれながら送り出される。

 すまない、二人。俺は新天地で頑張るぜ。

 俺はボウヤーさんに連れられ、都市コルケットを出る。


 馬車に揺られること、二日。

 リエン街とは全然違うのどかな風景が広がってきた。

 初めは舗装されていた道路も、進むにつれてたけもの道に変わってくる。


 おいおい……大丈夫か、これ。

 アトリエレーゴスの店舗のような綺麗な所を想像していたが。

 いや、田舎にこそ美しいアトリエがある気がする。そうに違いない。


「着きましたよ、ヨイチさん」


 ボウヤーさんが指さした先は、綺麗なアトリエ。ではなく、出口を壁で埋めた洞窟である。

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