第18話 ラツルです

「ヨイチさん、まずいですよ。彼等は王国の盾と言われるくらい強いことで有名な騎士団です」


 横から囁いているフィン。


「そうですが、どうかなさいましたか?」


「この品が偽物ではないかと、市民から報告を受けた。これはアトリエレーゴスのラシル氏の品で間違いないか?」


「いえ、違いますね」


 俺ははっきりと否定する。


「なにっ!? 貴様、堂々と偽物を売ったと認めるのか?」


「なんのことですか? こちらにはアトリエレーコスと書いてあるでしょう? レーゴスではないです」


 俺は堂々と言ってのける。


「なんてふてぶてしいんだ……」


 後ろでフィンが呆れたように言う。お前も片棒担いでるんだよ。


「ここにラシルとかいてあるではないか!」


 騎士の顔が怒りで赤く染まる。


「ラツルです。私の雅号です」


「よくもぬけぬけと……! どう見ても贋作だ! この女神像もラシル氏の新作そっくりではないか!」


「いえいえ、全然違いますよ。彼の作品は女神の羽衣の丈が長いんですが、私のは短いので」


「屁理屈を!」


「私も真剣に作っているので言いがかりをつけられると困ります! 何かこれを罰する法はあるんですか?」


「ぐぬぬ……。ラツルとやら、覚えておけ!」


 やはり罰則はないのか、治安維持隊とやらは帰っていった。


「段々目立ってきましたね……」


「有名になる前に売り抜けるぞ」


 俺達は気にせずに商売を続ける。


「今日はもう店閉めるか」


 日が暮れ始めた頃、俺達は店を閉め始める。


「もう閉めるのか?」


 フードで顔を隠した男が店の前に立っていた。


「すみませんね。また明日来て頂ければ……」


 俺がそう答えた次の瞬間、男は腰から剣を取り出して俺の首を狙う。


「うおっ!」


 俺は本能的に首を下げて躱す。


「てめえ、なにしやがんだ! ポチッ!」


「誰がポチじゃ!」


 俺の言葉を聞き、上からルナがかかと落としを男に叩き込む。


「ぐうっ!」


 男は剣でルナの一撃を受け止めてそのまま一歩下がる。

 後ろからぞろぞろと十人程顔を隠した刺客が追加で現れる。


「いやー……こんなにお客さんが来たら、完売しちゃうね」


「死ね」


 こうして、突然の乱戦が始まった。


「目立ちすぎたか」


 俺は腰から剣を取りつつ、刺客と真っ向から斬り結ぶ。


「こいつ、本当に彫刻家か? 強いぞ!?」


「彫刻家じゃねえよ!」


 俺が四人ほど斬った間に、ルナが残りを倒していた。


「ようやくわしの出番じゃけえ。張り切ってしまったわ」


 一方フィンは敵が出た瞬間、店の奥に隠れていたようだ。

 お前も戦わんかい。


「遂に強硬手段に出ましたね。誰からの刺客でしょうか?」


「アトリエレーゴスかねえ? 分からんが。場所を変えるか」


 売り上げも落ちてきているため、場所を変えることに決めた。

 俺達は新天地を求めて、店を都市『コルケット』に移転した。

 そこではまだ偽物の悪名は広がっておらず、再び売上が伸びた。


 よしよし。ルナの食費を踏まえても貯金が増えている。

 このままいけば、働かなくても生活ができるかもしれない。

 店の奥でいつものように彫刻を彫っていると、フィンが顔を出す。


「ヨイチさん、男性の方がラツル氏に会いたいと」


「ラツルに?」


 俺は首を傾げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る