第17話 アトリエレーコス

 エイルへたどり着くと、そこで屋台を借りる。

 そこも全てフィンにお任せである。

 借金計二十万ゴールド追加。


 失敗したら俺達皆、炭鉱で働くことになるだろう。

 借りた屋台に『アトリエレーコス エイル支店』と書いた看板を立てる。


「一店舗しかないのに、なぜ支店と書くのですか?」


「支店と書くと、店舗がいっぱいある大手だと思ってもらえるだろう?」


 それにアトリエレーゴスの支店と勘違いしてもらえるからな。


「うーん……詐欺師の才能がありますよ」


 誰のせいでこんなことをしていると思っているんだ。

 屋台には俺が作った贋作である女神像が三つだけ並んでいる。

 値段は一つ六十万ゴールド。


「値段もかなり強気ですね」


「ブランド物ってのは値下げしたら駄目だ。その価格の物を買うってのが、購入者からしても大事なんだ」


 知らんけど。

 こうして売れないと三人のパーティが路頭に迷う命がけの商売が始まった。


「えっ!? 高すぎじゃない?」


「いやいや。今、王都バーリアで一番勢いがあると言われているアトリエレーコスの品ですから」


「そうなのねえ」


 多くの客が値段を見て驚いて帰ってしまう。

 だが、多数に売る必要はない。一部の層を狙うのだ。

 昼を過ぎた頃、仕立ての良い服を着た夫婦が足を止める。


 「これは……アトリエレーゴスの新作かい?」


 夫婦の旦那の方から声がかかる。


「アトリエレーコスの新作です!」


 何一つ嘘は言っていないぞ。


「ほう……遂にエイルにも支店を出したんだねえ。王都とは規模が少し違うが……」


 あっちと違いやはり屋台なのがネックとなるか。


「仮出店ですので。なので他よりお安くしておりますよ」


「なるほど。確かに本店より安いねえ。作りも……」


 そう言ってじろじろと見る。


「変わらないみたいだね。ラシル氏の作品は良いねえ」


「素晴らしいですよね」


 ラシル氏の作品は確かに素晴らしいぞ。目の前の作品は俺の作品だが。


「一つ貰おうかね」


「お買い上げありがとうございます!」


 俺は無駄に立派な細工を施した箱に入れ、旦那に手渡した。


「また来るよ」


「ごひいきに」


 俺は後ろで控えていた二人と目を合わせる。


「ほら、見ろ! 売れたぞ!」


「やりましたね!」


 最初は渋っていたフィンであるが、お金の魅力には抗えなかったのか顔には笑みを浮かべている。


「凄いじゃあ!」


「このままどんどん売るぞ! フィン、ルナ二人で売り子をしろ」


 二人に売り子をさせて、俺は贋作作りに集中し始める。

 この目論見は見事にあたり、俺達は一か月で六百万を売り上げた。


「ぼろ儲けだぜえええええ!」


 俺達は借金を完済し、利益まで生まれていた。


「完全にアトリエレーゴスの支店と勘違いされてますからね」


「ラツルの作品だというのに、嘆かわしいことだ」


 俺は金貨を数えながら言う。


「ん?」


 俺はこちらに物々しい鎧を纏いやって来る兵士を見かける。


「我々はエミル王国騎士団治安維持隊『アルタイル』の者だ。君がここの責任者か?」


 うーん、面倒なことになりそうだ。

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