第15話 どうしてこうなった

 どうしてこうなった。

 俺の気持ちを一言で表すとこの一言に尽きる。

 窃盗犯を捕まえるという至極真っ当なことをしたため、表彰されるとは言わないが、近いことになると思っていたが、気付けば借金が増えてしまった。


 ルナの食費が大きく、家計は火の車である。現在の状況のままでは利息が増える一方で、皆仲良く炭鉱送りなのは間違いない。


「今の仕事だと、返済の目途が立ちませんねえ」


 ギルドメインホールで椅子に腰かけたフィンが言う。


「分かってる。俺がこの灰色の脳みそで天才的なアイデアを考えてやる」


 現状、俺のジョブがはっきり分かっていないうえフィンも居るためギルドの仕事で一攫千金は困難だろう。

 俺の取り柄……それは異世界から来たことだ。

 だが、よくある度数の高い酒や紙を作って大儲けは俺には不可能。


 そんな作り方知る訳がない。

 俺の特技と言えば手先が器用なことくらいだが……。

 突如、俺の脳内に雷鳴が轟く。


「フィン、この世界に著作権という概念はあるか?」


「なんですか、それ?」


 フィンは初めて聞いた単語とばかりに首を傾げる。


「彫刻や絵画など創作したものを、模倣した際に罰則等はあるのか?」


「そうですね……はっきりした罰則は現在国では規定されていないはずですが、やりすぎると注意は受けますよ」


「法的に罰則はないんだな?」


「確かに法的にはないですが……何をするつもりなんですか?」


 フィンが怪訝な顔でこちらを見る。


「俺は手先だけは器用なんだよ」


「何か真似て作るつもりですか? 価値があると言えば、武器や防具でしょうけど……」


「武器や防具は専門的な施設の用意が必要だから却下。彫金系も同様の理由で却下。最近この国で売れているものはなんだ?」


「武器や防具以外だと、絵画や彫刻でしょうか?」


 絵画か彫刻……。

 絵は無理だ。


「彫刻にしよう」


「そんな簡単じゃないですよ」


「まあ、一回やらせてみろ。最近最も売れている彫刻家は誰だ?」


「アトリエレーゴスのラシル氏の作品でしょうか?」


「なるほど。早速見に行くぞ」


 俺達はフィンの言うアトリエレーゴスの商品を見に行く。

 アトリエレーゴスはリエン街ではなく、随分離れた貴族向けの綺麗な住宅街に大きな店を構えていた。

 店の前には警備員が立っており、客も確かに金持ちが多い。


 中に入ろうとすると、警備員に嫌な顔をされたが止められることはなかった。

 中には立派な木造彫刻がケースに入れられて飾られている。

 確かに凄いな……。


 美しい女神が赤子を抱きながら、天に上っている様子が見事に表現されている。

 俺があった女神に似ている気がしなくもない。

 値札を見ると、九十万ゴールドと記載されている。


「た……高っ!」


 思わず声が出る。

 それを聞いた綺麗な服を着た老人の店員がこちらにやってくる。


「失礼ですが……身の丈にあった商品の方がよろしいかと。身なりを見るに、駆け出しの冒険者のようですがこの店は貴族にごひいきにされている店ですので。貴方程度では買うのは困難でしょう」


 少し侮蔑を含めた口調で言われる。

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