第14話 協力プレイ

「しくしく……」


 フィンは泣きながら、もがれた頭をつけている。


「魔力が尽きたから修理に数日かかりますよ、これ」


 フィンが二人を睨む。


「帰るか」


「楽しかったけえ」


 ヨイチとルナはフィンを放ってギルドに戻る。


「少しは申し訳なさそうにしろおおおおおおお!」


 フィンは怒号をあげるが二人は聞いていなかった。

 ギルドに向かって歩いている途中、ヨイチはフードを被った男にぶつかられる。


「いたっ」


「すまんね」


 男はそう言うと足早に去ろうとする。


「窃盗犯よーーーーーー! 鞄が!」


 前方からマダムの大声が響く。


「まじかよ。本当に物騒だなこの街は。ろくな奴がいねえぜ。早く帰るか」


 ヨイチはそう言った後、先ほどぶつかった男を思い出し金を入れた布袋を探す。

 だが、ポケットに布袋がない。


「あの野郎……! ぶっ殺してやる!」


 振り向くも既にあの男は十メートル以上逃げている。


「窃盗なんて許せない! ドルトムント!」


 フィンがドルトムントを召喚する。


「げえ! なんだあのバケモンは!?」


 窃盗犯は両腕のない不気味なドルトムントに大声を上げる。


「捕まえろ!」


 命令を聞き、ドルトムントが動き始める。

 軽量化が功を奏したのか、いつもより少しだけ速い。

 あっという間に距離を詰める。


「ひいい!」


 ドルトムントに追いかけられる窃盗犯から悲鳴が上がる。


「よし、そのまま踏みつぶせ!」


 ヨイチが叫ぶ。

 だが、あと一歩と言った所で突然ドルトムントの動きが止まる。

 ヨイチが隣を見ると、真っ青な顔で倒れるフィンが居た。


「なんて肝心な時に役に立たないんだ……」


 ヨイチが呟く。


「任せえ! 協力プレイじゃき!」


 ルナはその凄まじい脚力にり一瞬でドルトムントに追いつくと、ドルトムントの足を両腕で掴む。

 そしてそのままドルトムントにジャイアントスイング!

 凄い勢いで回転すると、そのままドルトムントを窃盗犯目掛けて投擲する。


「えええええええええええ!」


 窃盗犯が自分目掛けて飛んでくるドルトムントを見て悲鳴を上げる。


「ドルトムントオオオオオオオオオオオオ!」


 同じく大事なドルトムントを投げられたフィンからも悲鳴が上がる。

 投げられたドルトムントは見事に窃盗犯に命中する。

 周囲の建物も破壊しながら。

 結局、窃盗犯は重傷を負い警備の者に捕まった。


「ご協力ありがとうございます」


 警備の者が三人に頭を下げる。


「当然のことをしたまでじゃけえ」


 ルナはどや顔で言う。


「では、こちらを」


 警備の者に渡されたのは、請求書。ゼロがいくつも並んでおり、家の修繕費と書かれている。


「三百万ゴールド!?」


 それは日本円でも三百万円程の金額である。


「彼女が一人でやりました。俺は関係ありません」


「この男の命令でやったんじゃ!」


 ルナがヨイチにしがみつく。


「放せ! 俺達は今から他人だ!」


「絶対離さん! これ以上借金が増えたら生きていけんけえ!」


「お前達パーティだろう? 三人で仲良く借金を分けるんだな」


「僕はドルトムントを破壊された被害者なのに……」


 結局ヨイチのパーティは仲良く借金が増えたのであった。

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