第10話 現実でシナジーが働くことは中々ない

「あれは十年くらい前のこと。僕は親と古代遺跡の一つを観光していたんだ。その最深部には、現代では動かすことのできない古代兵器がいくつも眠っており、国によって厳重に管理されていた」


「そのうちの一つを見た瞬間、僕は息をするのも忘れて魅入ってしまった。そこには巨大な古代ゴーレムが置かれていた。現代技術じゃ動かすことは全くできないため、兵器として使われることがなく観光地に置かれていた。僕は彼を動かしたい、そう思い魔法を志した。全く同じ見た目のゴーレムを作成し、それを召喚魔法で喚んでいるんだ」


 フィンはうっとりとした顔で語っている。


「その古代ゴーレムは昔、その体でドラゴンを倒し国を救ったと言われている。ドルトムントもいつか必ずそうなってくれる。ドルトムントは僕のヒーローなんだよ! この道を究めるためには、他の魔法なんて覚えている暇なんてないんだ」


「なるほどな。そこまでの覚悟ならもう何も言わねえよ」


「ヨイチさん、分かってくれたんですね!」


「これからもよろしく頼む……っていう訳ねえだろうが! とっととホ〇ミ覚えろ、てめええ!」


「お金稼いでこいよ、てめえええ!」


 俺とルナでフィンを締め上げる。

 フィンを締め上げても何かが生まれる訳ではない。

 どうするか。


「仕方ない、わしがギャンブルで稼ぐしかないんじゃな」


「お前は黙ってろ!」


「フィン、お前はどうやって生きてきたんだ?」


「お恥ずかしながら……リエン街北にあるパン屋さんが良く廃棄のパンをくれまして」


「それは是非わしも知りたいけえ」


「お前が行くと店潰れるよ」


 結局、すぐに画期的な策が見つかるはずもなくその場は解散となった。

 フィンが帰った後、他の冒険者に声をかけられる。


「フィンを仲間に入れるとは、お前もやるな。あいつはゴーレムオタクとして昔から居るやつの中では有名なんだ」


「だから笑ってたのかよ」


 なんかいい感じにシナジー働かねえかな。

 ないか。

 俺は考えることを止めた。


 ◇◇◇


 フィンは久しぶりのパーティ加入に喜びながら帰っていた。


「おっ、フィン君! 今日はご機嫌だねえ。遂にパーティ決まったのかい?」


 お世話になっているパン屋の主人から声がかかる。


「そうなんですよ! やっと決まりました! これからはガンガン稼ぎますよ!」


「そしたらいっぱいうちのパンを買ってくれ!」


「勿論です! 今日は買わせてもらいます!」


「いいのかい? 入ったばかりだろう?」


 フィンはその日、パンを沢山買って帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る