第9話 クーリングオフ

「どういうことだ?」


 俺はしばらくして体力が少しだけ回復したフィンに尋ねる。


「実は……ドルトムントは十秒しか動かせないんです」


 フィンは顔を少し逸らしながら答える。

 十秒? 何を言っているんだ?

 いや、待て。慌てるな、俺。

 あのデカブツが役に立たないのであれば他の魔法を使ってもらえばいい。


「なるほど。なら実践では難しいんじゃないか? パーティを組んでいる間は他の魔法をメインに使ってもらいたい」


「僕は泥戦士(ドルトムント)以外の魔法を使えません」


 どゆこと?


「また役立たずじゃねええかああ! なんでこんな奴しかこねえんだよおおおおおおおおおお!」


 俺は天に向かって叫んだ。


「あの……」


「お疲れさまでした。明日からパーティ探し頑張って下さいね」


 俺は優しく微笑む。これ以上穀潰しを養う余裕はない。


「契約書、ありますよね」


 フィンがにっこり笑う。


「ぐう」


 俺の逃がさないための契約書が仇となってしまった。

 自分の策が自分の首を絞めることになるなんて。


「てめえ! 何があらゆる魔法が使えるだよ! 詐欺じゃねえか!」


「あらゆる魔法を使える魔導士のジョブを持っていると言っただけで、私が使えるとは言っていません」


「屁理屈を……!」


 こいつをクーリングオフしてやりたい。


「雇って下さいよおおおおおおお! 皆に断られていく場所がないんです!」


 フィンが俺の足にしがみつき、懇願する。

 この間も似たような光景見たんだよ!


「当たり前だろうが! 十秒しか戦えない魔法使い雇う余裕ある訳ねえだろう!」


「契約書書きました~~~~!」


 契約書がある以上こちらが弱い。

 高い金出して買ったのにあんまりだ。

 結局俺はフィンもパーティに入れることとなった。

 俺は冒険者ギルドの机で項垂れている。


「賢者と剣聖みたいな花形職業とパーティを組むはずが、なんでゴリラとロボットオタクなんだよ!」


 意味が分からない。

 カオスが過ぎる。


「男が何を悩んでるんじゃ。うじうじするな。あっ、お代わりで!」


「お前が現在進行形で悩みの種だよ! キャンセルで」


 俺はルナのおかわりをキャンセルした後、今後について考える。


「フィン、他の魔法を覚えろ」


 それしかない。


「お断りします」


「このままじゃろくに戦えねえだろうがああああああああああ!」


「僕のドルトムントは最強ですので、安心してください」


「どこからその自信が来るんだ……十秒しか動かないのに」


「僕は最強のロボットを作るために魔法を志した。それ以外をするつもりはない。あれは十年前のこと……」


「あ、回想始まる感じ?」


 フィンは頼んでもないのに、過去を話し始める。

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