第6話 ジョブ 正義の味方(自称)
「あいつはこの間の!」
部下の一人が大声をあげる。
皆の視線が屋根に乗っている俺に集まっている。
決まったな。
わざわざ屋根の上に登った甲斐があった。
「またあいつか。誰か知っているか?」
クドーが部下に尋ねる。
「ジョブが全くなくて話題になった男です。無職のヨイチと呼ばれ馬鹿にされてずっと土木作業員をしていたはずです」
「人聞き悪いこと言うな、バカヤロー。こちとらジョブは正義の味方だ!」
俺は颯爽と屋根から飛ぶ。
「いったぁ……」
思ったより高かった。
俺は痺れる足を抑える。
やばい。カッコいい登場シーンなのに、あちらさん互いに顔を見合わせているよ。
「お前、屋根の修理でもしてたのか?」
クドーが心底疑問そうに尋ねてきた。
やべえ、その場のノリで出てきたと思われてんじゃねえか!
「そこの女には貸しがあるんでな。その前に攫われちゃ困るんだよ!」
そう言って、俺は拳を握る。
「ジョブなしなんて初めて見たぜ。殺せ」
クドーの言葉と共に、周囲の部下達が襲い掛かって来た。
「ジョブがねえってことは無限の可能性があるってことなんだよ。必殺・レンガ投げ」
俺は職場から持ってきたレンガを部下共に投げる。
「「げっ!」」
突然のレンガに驚いた部下共の顔面にクリーンヒットする。
それで倒れた敵から剣を奪う。
剣を握ったのは生まれて初めてだ。
だが、不思議とよく手に馴染んだ。
吸いつくように手から離れる気がしなかった。
体が軽い。
「剣を持ったことはあるのか? 大工さんよお!」
二人の敵が目前まで迫る。
次の瞬間、俺は襲い来る二人を斬り伏せた。
「人を斬っちまった」
俺は一瞬顔を歪める。
だが、その感情と裏腹に、目は次々と襲い掛かる敵を捉えている。
更に五人がかりで襲い掛かって来た敵の攻撃を避け、一人一人斬っていった。
「くっ……ジョブなしじゃねえのかよ!」
「明らかに前衛職……それも上位職のような動きだ。ジョブ無しはデマだな」
クドーはそう言うと、長刀を抜く。
「強いな……良いジョブを持っているらしい。だが、経験不足!」
クドーは一足飛びに距離を詰めると、その長刀を振り下ろす。
俺はその一刀を受け止め、澄んだ音が裏路地に響く。
「ヨイチじゃ勝てないじゃき!」
「うるせえ! いまさら逃げられるかよ!」
心配するな、すぐ助けてやる。
「やられる前に檻だけでも斬ってほしいじゃ!」
「てめえ! 俺の心配をしろ!」
なんて女だ。
くだらない会話をしているうちにも、クドーの連撃が襲い来る。
だが……なんとか捌ける。
「あいつ……本当にジョブなしか?」
「クドーさんと互角に渡り合ってやがる」
周囲のギャング達が息を呑む。
「一斉に飛びつけ!」
クドーが叫ぶと、ギャング達が一斉に俺を捕えようととびかかって来た。
くそっ、多いんだよ!
襲い掛かるギャング達を一人一人斬るも、なにぶん数が多すぎた。
遂に一人のギャングが俺の腰にしがみつく。
俺の動きが止まった瞬間、クドーの突きが俺の右わき腹に突き刺さった。
「ガアッ!」
俺は口から血を吐く。
「ヨイチ!?」
ルナの悲鳴が聞こえる。
「女一人のためにでしゃばるから死ぬんだぜ? この程度のこと、リエン街じゃ日常茶飯事だ」
クドーがこちらを見ながら笑う。
本当にね。
「リエン街がどうとか関係ねえのさ。あんな大食らいでも、うちの二人目のパーティだからよ」
俺は痛む腹部で顔が歪むも、クドーを睨みつける。
「こいつ、まだ!? 放すなよ、次は首を——」
ここまで至近距離まで近づかれたら、長刀も剣も関係ない。
「返してもらうぜ!」
腹部の痛みも。腰にしがみつく敵も。全てを忘れて。
俺は全ての力を込め、一閃。
その一撃はクドーの腹部を深く斬り裂いた。
「ちっ……こんな若造にも負けるなんて……俺はやっぱり向いてなかったらしいな」
クドーはそう言うと、その場に倒れた。
「クドーさんがやられたぞ!」
トップがやられたギャング共はパニックになり、すぐに逃げ去って行った。
俺はクドーのポケットから鍵を取り出し、ルナを解放する。
「行くぞ」
「うん!」
こうして俺はなし崩し的にパーティを組むこととなった。
「もっと食べていい?」
現在地は冒険者ギルド。もう二日も食べていないと泣きながら熱弁するルナのために、一品だけという約束で食堂へ来た。
目の前には再び食べ終わった後の大量の皿が積まれている。
せっかくあの爺に頭下げて稼いだ金が……。
「前言撤回していいか?」
「駄目じゃ。他に行くところもないけえ」
俺は怠惰に生きるどころか社畜への道を歩んでいる気がしてならなかった。
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