第3話 この少女には問題がある

 少女は五人前はあろうパーティ用のプレートに盛られた豚の丸焼きを一人でぺろりと平らげる。

 既に少女の目の前には十皿以上の皿が積まれている。


「お前、食いすぎ! ちょ、お前、金もってんだろうなあ!」


「おごりと聞いたけえ」


「おごれる訳あるか! 何十人前食ってんだ!」


「一ゴールドもないけえ、頼んだじゃき」


「ならいますぐ食うの止めろや!」


「ラミーポテト三人前と、デラ牛の煮込み三人前追加で頼むじゃあ」


「あいよっ!」


「どれだけ食うつもりなんだ!」


 俺は積まれていく皿を見て恐怖を覚える。足りるのか、これ。


「わしの名はルナじゃ」


 追加の料理もぺろりと平らげた少女がようやく名を名乗る。この細い体のどこに吸い込まれたか謎だ。


「……ヨイチだ。お前まだ若いだろう、親とか居ねえのか?」


 親が居たら、絶対親に請求してやる。


「去年、十四の時にパッパとマッマに修行のためとリエン街に放たれたんじゃ」


「スパルタだなあ……獣人ってそんなもんなのか?」


「マッマは別れの時、泣いてたじゃなあ」


「それもそうか。愛娘との別れだもんな」


「やっと食費が浮くって」


「捨てられてんじゃねえかああああ!」


「違う! その後私はこの美貌を活かして様々な冒険者パーティに入った」


 絶対ゴリラな力を活かしてたわ。


「けれど、最後はどこも泣いて、お前ほどの大物はうちよりももっと大きいパーティに入った方がいいと言うんじゃ」


 絶対食費のせいだ……。


「多くは望んでない……ただおなか一杯食べたいだけなのに」


「そうだよな……飯くらい腹いっぱい食べてえか」


 確かにルナに罪はない、か。


「そのためわしはカジノに向かった」


 罪しかなかった。


「そうはならんやろがい! 真面目に働けや!」


「稼げるかと思ったら、文無しになってしまったんじゃ。おかげで今も毎日極貧生活じゃけえ」


「殆どお前のせいじゃねえか」


「ヨイチも冒険者か? 恰好は冒険者というより大工じゃけど」


「冒険者だよ」


 本当に名乗っていいのかは疑問であるが。


「わしが入ってやってもいいぞ」


「あっ、丁重にお断りします」


「なぜじゃ! わしは強いぞ!」


 そう言ってルナが足にしがみついてくる。


「放せ! お前みたいな大食らいとパーティ組めるか! いくら稼いでも飯代になくなるだろうがあああ!」


「飯代さえ出してくれればいいから! 今までのパーティも皆クビになったんじゃ!」


「当たり前だろ、何十人前も食いやがって! お前雇う金で何十人も雇えるわ!」


「今なら借金もついてくるけえ」


「尚更要らんわ! てめえ、絶対ここの飯代返せよ。俺も金ねえんだからな!」


「出世払いで頼む。わしはもっと名を上げたいんじゃ。立派な冒険者になって名を揚げれば、きっとパッパとマッマに会えるじゃろうからなあ」


 少しだけ寂しそうに言った。ならギャンブルは辞めた方がいいぞ。

 結局まじで一ゴールドも持っていなかったので、俺が飯代を払うことになった。

 結局剣を買えなかったのは言うまでもない。

 再び俺は土木作業に従事することとなる。

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