56.面倒な物を作り出したラダリウス・クロンプトン辺境伯

「はぁ、なんて馬鹿なことを」


「馬鹿なことっていうか、面倒なことを」


「どっちもだろう?」


「もしもの事があれば、どれだけの被害が出るか。奴らは全く考えないんですかね」


「奴らに考える能力があると思うか? それができるなら、最初からこんな事はしないだろう」


「そこまでして俺達のことをどうにかしたいかね」


「その考えられない頭で、唯一考えられる事が。私達を自分の下に置き、全てを手に入れる事ですからね。今でさえ、あれほど私服を肥やしているというのに、そのせいでどれだけの住人が苦しんでいることか」


「それも奴らが作り出した物によって、さらに苦しむ事になりかねん」


「そうですね。やはりここは私達が動くしかないでしょう。あれはその辺の冒険者や騎士では、倒せる物ではないですからね」


「ふんっ!! 俺がすぐにでもやりに行ってやるぜ!!」


 話しの途中で、ジェラルドさんが部屋から出て行こうとして、ノーマンさんに叩き飛ばされた。その後は仲間のリオナに草魔法で、動かないように縛られ。そして仲間全員から、話しが終わるまで、何も話さずにじっとしいろと言われたジェラルドさん。おかしいな? 彼は勇者のはずなんだけど。


「そうです、脳筋馬鹿は少し黙って大人しくしていなさい。まったく、倒すのは簡単ですが、気をつけなければいけない事もあるのですから。あなたが突っ走ったせいで、被害が拡大したらどうするのです」


 ジェラルドさんが黙り、しゅんと下を向くと、話しが再開される。勿論これからの対策についてだ。


 今起きている出来事。それは俺達が解決するのは簡単なのだけれど、難しいことでもあって。いま みんながジェラルドさんを止めたのは、その難しい事が関係ある。


 少し前、リルがアマディアスさんに犬かきを習った事があっただろう? その時アマディアスさん達は、森に攻撃をして来た人間達を片付けた帰りで。その片付けた人間を送り込んだ人物が、今回面倒なことをやらかしてくれたんだ。


 問題を起こしたのは、この森からちょっと離れた場所にある、ギャザーンという大きな街の辺境伯、ラダリウス・クロンプトン。奴はその権力を使い、かなり好き勝手をやっている人物で。奴のせいでどれだけの住民が苦しんでいることか。


 だけど奴は面倒な事に、そこそこ、まぁまぁ? 力があるため、国も奴を認めていて。誰も奴を止めようとはせず。そのため街からこの森へ逃げて来たり、他の街へ移り住んだりす人々がけっこういる。


 だが、逃げられる人々は良いけれど、そういう人達ばかりではないからな。そういう人々は奴の、経済的、肉体的、精神的な暴力に怯えながら過ごしていると。ここへ越して来た人に聞いた事があった。


 そしてそのラダリウス・クロンプトンだけど。奴が今回やらかした事。それは俺達の森を襲うために、アンデッドを作ったと。それもただのアンデッドじゃない。呪いのアンデッドを作ったと言うんだ。


 アンデッド。それはかつて生を生きていた者が亡くなり。しかし既に生命が失われているにもかかわらず、自然の魔力や、魔法によって。命がないにも関わらず活動する事ができる者達。


 そう、俺もスッケーパパやスケさん、なんて呼ばれているけれど、立派なアンデッドだ。他にもゾンビとか幽霊も、アンデッド系の魔物だな。


 だけど呪いのアンデッドは、俺達みたいなただのアンデッドじゃない。その名の通り、呪いのアンデッドなんだ。

 今まで現れた呪いのアンデッドは、俺の知る限りでは自然に発生したもので。俺達のように意識はなく。倒さない限り周りに呪いを振り撒きながら、ただただ何処までも何処までも前に前に進んでいく存在で。


 呪いのアンデッドの呪いを受けると、悪夢に飲み込まれ、その悪夢により最大限の苦しみを味わいながら死んでいく。呪いのアンデッドの呪いは、この世界で知られている呪いの中でも、最悪の部類に入ると言われるほど最悪な物で。


 その最悪な呪い振り撒く呪いのアンデッドを、ラダリウス・クロンプトンが作ったって言うんだよ。そしてラダリウスはその呪いのアンデッドを使い、この辺では俺達以外に力を持っていると言われる、ドラゴンの群れを巻き込みながら。今俺達の森へと移動しているらしい。


 人間が呪いのアンデッドを作った? 意識がないアンデッドを、ドラゴンの群れを巻き込みながら、この森へ向かっている? 一体どうやって? 俺が疑問に思ったことを、みんなも考えていて。


「奴らはどんな手を使って、呪いのアンデッドを作った? 今までに現れた呪いのアンデッドは全て自然発生で、誰かが作り出す呪いのアンデッドは、今までに誰も成功したことがないはずだ」


「しかも意識のないはずの物を、近くで呪いも受けずに、どうやってここへ向かって来ているのか」


「何か嫌な予感がします。ですが、それは奴らを捕らえてから聞けば良いでしょう。今はまず、他にも呪いを振りまかないよう、どう消すかです」


「だから俺が行ってささっと……」


「脳筋馬鹿は黙っていなさい! 呪いのアンデッドを消すのは、勿論我々には簡単な事。ですが奴が動きを止め、その存在が消える瞬間、どれだけの呪いを振り撒くことか。子供達やこの森に住む者達が、その呪いにかかったらどうするのです!!」


 うん、ジェラルドさん、もう少し静かにしていてくれ。まぁ、ジェラルドさんんじゃないけど。確かに呪いのアンデッドを倒す事は、この森で力のある師匠やアマディアスさんやジェラルドさんにしてみれば、とても簡単な事で。


 でも言ったろ、簡単だけど難しい事もあるって。




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