40.不穏な影

「くそっ!!」


 ガシャーンッ!!


「まだ騎士共の体調は戻らないのか!!」


「ラダリウス様、申し訳ございません。ですが、魔王の攻撃による闇の力が抜けず、立てるようになった者はまだ半分ほどで、通常通り動けるようになったものは、更にどの半分程度でして」


「さっさと治癒師に治させんか!! あれからどれだけ経っていると思っている!!」


「国のすべての治癒師で対応しておりますが、やはり魔法の力が強く……」


「煩いっ!! 言い訳はいらんのだ!!」


 ガシャーンッ!!


「っ!?」


「よいか。後3日でどうにかせよ。もし3日のうちに全員回復しなければ、お前を処罰する!! 次回の奴らとやり合う時、先頭に立たせてやる!!」


「ひっ!? す、すぐに騎士達は回復させます!!」


 バタバタバタバタッ!! バタンッ!!


「まったくどいつもこいつも、わしを馬鹿にしおって。何故回復するだけにこれだけの時間がかかる!」


「ラダリウス様、こればかりは仕方のないことです。騎士達をあの状態にしたのは、魔王の魔法によるもの。そに辺の者が使う魔法とは違います。そしてその強力な魔法による体の異常は、やはりそれ相応の治癒師でなければ、簡単に治療することはできません」


「分かっておるわ!! だが、それにしても、国中の治癒師を集めたのだ。それで半分も回復できていないとは。わしはすぐにでも動きたいというのに」


「ですがこれからの事を考えれば」


「それも分かっておる!! だから他の国にもわしを手伝うよう伝えたのだ。だが、この前奴が警告し回ったせいで、最近まで動こうとしてた国の者達も、今はまったく動きを見せなくなってしまった。まったく役に立たない奴らめ。こうなってしまったら、わしだけで動くしかないだろう。せっかくあれを仕掛けたのだから。もうすぐあれが目覚めるのだぞ」


「後1、2週間といったところでしょうか」


「ああ。あれに厄災を振り撒きさせ、奴らを弱らせることができれば……。これに成功し、更に奴らをわしが使えるようになれば、わしはこの世界の頂点に、この世界の全てを手に入れる事ができるのだ!! そのためにも騎士どもを回復させなければならん。あれのおかげで、奴隷はほぼ死んでしまったのだから」


「しかし騎士達だけでもつかどうか。新たに奴隷も用意した方が良いのでは?」


「今からではたいして集まらん」


「あの者に頼むのはどうでしょうか?」


「誰だ?」


「シメオンです。奴隷が大人ではなくなるため、どれだけもつかは分かりませんが。いないよりはマシなのでは?」


「シメオンか。そういえば新たに村2つ分の奴隷を手に入れたと、噂になっていたな。しかしそのシメオンの居場所は、奴が信用する特定に者しか分からんのではなかったか?」


「そのシメオンが、2つ隣の街に現れたという情報が」


「何? 本当か!?」


「はい。ですので今から向かえば、余裕で奴隷が手に入るかと」


「よし! すぐに奴と交渉を。金はいくらかかろうと構わん!!」


「はっ!」


           ○*○*○*○*○*○*○*○*○*


『皆避難を開始したか


『はい、近くの者達は避難を。少し離れた所に住む者達も、すぐに避難を開始する予定です』


『子供達は?』


『子供達はすでに避難を終えています』


『よし。ではここからは私だけで良い。お前もすぐに避難するのだ』


『ですがウォット様!』


『……我らの仲間の中から、アンデッドが出るなど。こんな悲しいことはない。私達は皆、平和に暮らしていたというのに。これも全てあの忌々しい人間達のせいだ。何とか助けられればと思っていたが……。私もこの有様だ』


『ウォット様……』


『おそらく近々人間達がやって来るだろう。アンデッドになってしまった、我らの同胞を使うために』


『……』


『私にできることは、少しでも周りを傷つけてささないことと、あの問題の人間達をできる限り消すことだ。今の私の力でどれだけのことができるか分からんが。だがそれでも、できる限りのことはやらなければ』


『私もそれに同行することは』


『私はこれから死に行くのだ。お前が付き合う必要はない。ふっ、そういえばまだ言っていなかったな。今回のことが落ち着いたら、後のことはお前に任せる。私の後を継げるのはお前だけだ。皆のことを頼むぞ』


『そんな私など!?』


『お前以外誰がいると言うのだ。お前にはそれだけの力がある。私はお前に全てを教えてきた。そしてお前はその全てを習得した。これ以上私が教えることはないし、きっとお前なら私以上に、皆をしっかりと守ってくれるだろう。だからお前にこの後の全てを任せる』


『っ、ウォット様』


『それにお前、子供が生まれたばかりではないか。そんなお前が死ぬようなことがあれば、私は死んだ後でもロイナに呪われ、死後も苦しむことになりかねん』


『それは……』


『ふっ。まぁ、そういうことだ。……後のこと、頼むぞ』


『はっ!!』


『よし、確認が済み次第、皆の元へ』


『はっ!!』


 バサバサバサッ!!


『……どこで何をやらせるつもりなのか。目的が何であれ、命に変えてでも必ず止めなければ』

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