37.思い出をを持ち帰る?

『絵ですか?』


『うん! この前友達の友達に、絵を描いてあげたらさ、すっごく喜ばれて。次の遊びに来た時、また描いてくれないかって言われたんだ』


 昨日のアクアからの情報で、これから森へ来る可能性が高い、イントッシュ•アッシュフィールドのことは、アマディアスさん達が調べ対策してくれるということで。俺は何も変わらず、いつも通りの生活をしていたんだけど。


 その日の夕方。仕事を終えた俺の所へ、ジェラルドさんの仲間のグランヴィルが、話しがあるとやって来た。


 ジェラルドさんの仲間では1番年下だけど、かなりガタイが良く、ジェラルドさんよりもかなり大きい格闘家だ。少し魔法も使えるけれど、魔法で何かするよりも、ただ殴る蹴るをするだけで、簡単に相手を倒してしまう。

 そしてガタイが良いのを利用して、ジェラルドさん達の盾として、常に前線で守り戦ってくれる。ジェラルドさん達がとても信頼してる人物だ。


 そんなグランヴィル。やはり森のために敵と戦い守ってくれているんだけど。それ以外の日は何をしているかといえば。街に家があるにもかかわらず、街ではなく森のその辺に、すぐに取り壊しができる小さな小屋を建てて。そこで魔獣達と過ごしている。


 グランヴィルは魔獣達が大大大好きなんだ。それはそれはあまりの溺愛ぶりに、初めて会った人達は必ず引いてしまうほどに。

 まぁ、別に悪いことじゃないから良いっていえば良いんだけど。暇な時に会えば、魔獣の話しを永遠に聞かされて。グランヴィルを知っている俺達でさえ、最後ぐったりしてしまうこともある。


 そしてそれは、魔獣達も同じで。魔獣達が大好きなグランヴィルは、魔獣達が何か困っていれば、必ずそれを解決し。魔獣達の幸せを1番に考えてくれる優しい人物のため。勿論そんなグランヴィルのことを魔獣達も大好きなんだけど。

 時々その思いが暴走し過ぎて、魔獣達にも引かれることが。この前も抱っこされていたリスに似ている魔獣リッスーが。思い切り引いている姿を見てしまった。


 と、ちょっと困った所もあるグランヴィルだけど。魔獣達と過ごす以外の趣味が、絵を描くことで。とても素晴らしい絵を描く。


 それでこの前、施設にグランヴィルの友達家族が遊びに来たらしく。その時思い出に絵を描いてくれと頼まれたと。そにためグランヴィルはその家族の子供が、1番気に入っていた遊技場を背景に、家族の絵を描くことに。

 そうして出来上がった絵を受け取った友人家族は……。かなり喜んでくれて、また遊びに来た時に描いてくれと、興奮気味にお願いされながら帰って行った。


 その喜んでくれた姿が、とても嬉しかったグランヴィル。その事を絵描き仲間にすぐに話したらしい。

 すると他の絵描き仲間も、時々そういう思い出の絵を描いてくれと、頼まれたことがあったことが発覚。


 そのためさらに詳しい状況を確認し、話し合った結果。もしできるのであれば、この施設へ遊びに来た人々が、思い出を持って帰れるように。この施設の一角にお店を出させてもらえないか、と。グランヴィルが代表して、俺に話しを持って来たんだ。


 それを聞いた俺。なるほどなと思った。この世界で絵を描いてもらうのは、お金持ちが多い。それは絵を描いてもらうのに、かなりの金額を取られるからだ。

 もちろん一般市民も描いてもらわないこともないが、ぼったくる画家もいて、有名画家に頼むことはほとんどない。この世界では画家は結構面倒な連中なんだ。


 ただ絵を描くことが好きな住民はいるから、そういう人達が時々絵を描いて、お金を稼いでいるが、他の街だと取り締まりの対象になる時も。


 その点この森にある街では、そんなことは一切なく。絵を自由に描いている人達が多い。そしてグランヴィルは、かなりの腕前の持ち主で。彼の友人も同じくらい絵が上手い。


「思い出を持って帰るなんて、俺、今まであんまりそういうの考えたことなかったよ。楽しく絵が描ければ良いって。その時の事を描き留められれば、それで良いって。でもさ、楽しい時の事を家に持って帰って。それでその絵を見るたびに、みんなが楽しかった時の事を思い出して、また楽しい気持ちになってくれたら。それもとっても嬉しいなって」


 そうか、そうだよな。この世界には写真やビデオカメラなんて、そんな機会ないんだもんな。思い出は心の中にが普通だ。

 それがもしも目に見える物として、持って帰ることができるのなら。グランヴィルの言うように、より楽しい気持ちを味わってもらえたら。


『うん、良いじゃないか!! ただ、そうなると、やはり料金が問題になるな。友人にはプレゼントで良かったが、商売となるとな』


「それなんだけど。紙をさ、買うんじゃなくて、自分達で作れる、簡単な紙を使おうと思って。それでかなりお金が浮くんだよ」


 俺はその辺、よく知らなかったが、どうも簡単に作れる紙があるらしい。特別な魔獣の力を借りるそうで。グランヴィル達はその魔獣達と契約をしていた。紙を作ってもらう代わりに、魔獣達が必要な物を用意する。

 そうして簡単な紙を作って、たくさん絵を描いていたと。もちろん質は下がるが、絵を描くことに問題はないらしい。売っている紙は高いんだよ。


 そして絵の具の方も。お店で売っているような絵の具は、きちんとどの素材を使うって決まっていてそこそこの値段がするんだけど。

 グランヴィル達はその辺の自然の物を使って、ささっと絵の具を作るため。毎回少しの色の変化はあるが、その色の変化も楽しみながら絵を描いているらしい。


「人によって、色が変わっちゃうけど、それでもかなり金額が抑えられるからさ。そうしたらかなりのお客さんが、絵を依頼できると思うんだ。ええと、みんなで話してて、絵の大きさで金額を変えようって。3種類用意したんだ。1番小さいのが……」

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