36.森へ向かって来るのは?

 アクアの話しに、皆の頭の上にハテナが浮かんだ。魔獣の絵は、おそらく家紋で間違いないだろう。だけどその家紋と同じ頭をしている奴とは? ここへ向かって来ているのは獣人か?

 獣人だとすると、1番近い所で、この森から10日ほどの所に、獣人が納めている街がある。


 獣人の名はドレッドソンだったか? クマの獣人で、あまり人に良い印象を持っておらず。排除するまではしないが、自らは関わらないようにしている。

 前にアマディアスさんと話したことがあって、魔王や勇者のように、全ての種族達と共に生きる事は、今はまだ難しい。だが、こちらからこちらに攻撃をするような事はしない、と。そう言っていたと。


 もしかしたら、考えが変わって、話しをしに来たのか? それとも全く別の、この前森を襲って来た人間達と同じ、面倒な獣人達が向かって来ているのか。


「アクア、その絵の魔獣の種類は何でしたか?」


『う~ん、たぶんブラックウルフ? でもなんか変なブラックウルフだった。ブラックウルフのブラックおじさんはカッコいいのに、絵のブラックウルフは、カッコ悪いブラックウルフ』


 ブラックウルフ? それじゃあもしかしたら……。


「カッコ悪いブラックウルフですか……。これですかね」


 アマディアスさんが再び光り魔法で、空中に絵を描いた。そしてその描かれた絵は、俺が、いや他の人達も思いついたであろう絵で。


『これ!! カッコ悪いブラックウルフ!!』


 アクアが嫌そうな顔をして、足蹴りしながら思い切り返事をした。


「やはりそうでしたか。イントッシュ•アッシュフィードですね」


 イントッシュ•アッシュフィード。この森から20日程の所に、かなり大きな街があるんだけど。そこで領主をしている男だ。彼自身は差別意識はなく、どちらかと言えば、俺達と同様、差別のない世界が良いに決まっている、という考えの持ち主である。


 だけど、まぁ、色々と問題があって。俺達の所とはあまり深い関係を築いてはいなかった。だいぶ昔に、いつかはこの森といい関係を築きたい、とは言っていたみたいだけど。


 ちなみに、彼は獣人ではない。人族だ。おそらくアクアが家紋と同じ頭と言ったのは、兜をかぶっていたんだろう。彼しか被ることができない、家紋に使われているブラックウルフの形をした兜を。


 そしてアクアがカッコ悪いと言った家紋だけど。魔獣を普通に描けば良いところを、更にカッコよく、家紋に合うように描きかえるため。普通の魔獣の姿ではなく、色々と描きかえられた魔獣の姿に。


 彼の家紋のブラックウルフも、そうやって描き変えられているために。アクアにはそれがカッコ悪く見えたんだろう。

 なにしろこの森には時々、小さい子達に大人気。いや、若者にも大人気の。とっても格好いい、本物のブラックウルフのブラックおじさんが遊びに来るからな。本物には敵わない。


「彼がここに……。一体何をしにここへ?」


「あの問題が解決したんじゃないのか? それで俺達と改めて、友好関係を築きに来たとか」


「どうなのでしょう。ついこの間、問題が起きたばかりですからね」


「そういえば、その後の情報が届いていなかったの」


「ええ。そろそろとは思っていたのですが。……カーソン、アライアに、彼らのことをすぐに調べるよう伝えてください」


「はっ!!」


「ジェラルド、あの方に限ってないとは思いますが。一応戦闘の準備はしておきましょう。あの方の力は、いつも来るような連中とはレベルが違います」


「大丈夫じゃないか? あいつそんな奴じゃないだろ? それに何かあれば俺がすぐに行って止めるさ」


「……そう言っていて、彼と同じような力の人物に、やられそうになったのは誰でしたか? これだからその場その場で動こうとする連中は。リオナに伝えて来ます」


「何だよ、俺だって色々と考えて……」


「伝えて来ます」


 それぞれが、これから来るだろう彼らのために動き始める。


「アクア、どれくらいの人数でしたか?」


『静かなキンキラ乗り物が1つと、荷馬車が2つ。後は騎馬がいっぱい。30くらい』


「分かりました。それも皆に伝えておきましょう」


 イントッシュは住民のためのお金を使う方だからな。馬車も最低限のお金しかかけておらず、他よりも飾りが少ない馬車に乗っていると聞く。

 だから普通の馬車に比べればキラキラしているが、権力者が乗る馬車にしてみれば、キラキラしてはおらず。それでアクアは静かなキンキラと言ったんだろう。


「そういえばアクア。先ほど絵と同じ頭の人物が、怒られていたと話していましたが。その怒られていた内容は分かりますか?」


『うん! 覚えてる! 隣の馬に乗っていた人が、どうして馬車に乗って移動しないのですか。まだ完全に命を狙われなくなったわけではないのですよって。それでブラックウルフ頭が、堅苦しい馬車に何日も乗れるか。それに何かあっても、返り討ちにしてやるさって。そう言って、列の先頭に行こうとしてまた怒られた。的になるつもりですかって。そうしたら、ここに的があるぞ!! ガハハハハハッ!! って笑って。その後物凄く怒られて、キンキラの中で書類? 仕事していなさいって、押し込まれてた』


『……』


「……」


「……」


 何してるんだ?

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