34.帰ってきたもう1人の家族、目覚まし鳥のアクア

 アオとモッチー騒動から数日後。いつも通り仕事を終え、リルに今日は屋台街のご飯が良いと言われた俺は、2人で屋台街にやってきていた。屋台街と言っても、施設の中にある屋台街だ。


 ただ、街の中にある屋台とはちょっと違う。街の中には沢山の屋台が出ているけれど、施設の中の屋台は、ちょっと日本風な食べ物で集めてみた。ラインナップはお好み焼きやたこ焼き、焼きそばに、ふかし芋。甘い物だとりんご飴や、チョコバナナに、リルが好きなワタワタ。


 と、お祭り風な屋台を揃えてみた。いやぁ、最初は大変だったよ。もちろんまったく同じ材料がこの世界にはあるわけもなく。似ている物を探してきて、何回も何回も作って。しかも俺は味が分からないからさ。


 アマディアスさんとジェラルドさんと師匠、従業員達や、いつも何かと手伝ってくれる、街の人々に食べてもらって。これは美味しいと言ってもらえたら、商品化していくって感じだった。


 だから出来上がった料理の味が、日本の屋台の味かと言われると。もしかしたらぜんぜん違う味かもしれないけれど。見た目は完璧に、日本のとお祭り屋台の物と同じだ。

 ご飯の時間になると、行列ができる程には人気があるから。この世界の人達が気に入ってくれているのなら、味が違っていても、まぁ、良いだろう。


『リルねぇ、10枚乗せが食べたいの。お魚さんとお肉、どっちもだよ。こうねぇ、グワっとお口に入れるの』


 リルが言っているのはお好み焼きのことだ。今のリルのお気に入りは、お好み焼きを何枚も重ねて1度に食べること。


 海鮮お好み焼きと、お肉のお好み焼き、それから野菜のお好み焼きに、果物と木の実の、ちょっと甘めのお好み焼きを用意してあって。それぞれの種類の中でも、また何通かのお好み焼きが用意してある。


 リルはその色々な種類のお好み焼きを重ねて、自分オリジナルのお好み焼きを作って食べるんだ。毎回違う味や食感になって面白いらしい。

 他の人達も、基本的なおこのみ焼きは決まっているけれど、自由に具材を変えられるようになっているぞ。


『こんにちは』


『スケさん、リル、いらっしゃい!! 今日は何にしましょう!!』


 まだそこまで並んでいる列は長くなく、いつもよりも早く順番が回ってきた。リルが、アレとコレとと具材を選んでいく。と、その時だった。


『スッケーパパ! リル! ただいま!!』


『アクアお兄ちゃん!! アクアお兄ちゃんだ!!』

 

『アクア!! お帰り!!』


『ただいま!!』


 久しぶりのアクアにリルは戯れそうに。俺もアクアとそのまま話しそうになって、慌ててそれをやめ、リルのことも抑えた。今はお好み焼きを買っている最中だ。俺達の後ろには何人もお客さんが並んでいるんだから、先にお好み焼きを買わないと。


『リル、遊ぶのは後だ。アクア、お腹は?』


『すきすき』


『分かった。今ご飯を買い始めたばかりなんだ。先に買って、ゆっくり家で話しをしながら食べよう』


『ボク、甘いお好み焼き。アクアサイズ』


『アクア、久しぶりだな。アクアサイズ、了解だ!』


 屋台のおじさんが俺達の話しを聞いていて、リルのお好み焼きの隣で、アクアのお好み焼きも焼き始めてくれた。アクアサイズの可愛いお好み焼きだ。枚数は……、5枚だけど。


 こうして最初のご飯を買った俺達は、その後も次々にご飯を買って行って。俺はそのご飯を全て魔法で浮かせて運ぶ事に。


 リルはアクアが帰って来て、とても嬉しかったんだろう。るんるん気分のまま、いつもよりも多めのご飯を買い。

 アクアも余程お腹が空いていたのか、自分の体の5倍はあるんじゃないか? って程のご飯を買っていた。お好み焼きだけで5枚だったからな。


 こうしてみんなが俺達のご飯の量に、ちょっと驚いている中を歩き、家に着くとテーブルの上に全てのご飯を並べ。飲み物の準備も完璧に。だけど食べる前に、まずはアクアに、もう1度お帰りと言った。


『アクア、お帰り』


『アクアお兄ちゃんお帰りなさい』


『ただいま!!』


 アクア。俺のもう1人の正式な家族だ。この施設で最初の目覚まし鳥達を雇った時から、アクアはこの施設で働いてくれていたんだけど。働いていた当初から、何故か俺に懐いていたアクア。1ヶ月もしないうちに、俺と家族になりたいと言ってくれて。


 そんなに俺を好きになってくれたのかと、とても嬉しかったけれど。流石に出会って1ヶ月じゃあ、俺のことをよく分からないだろうってことで。まずは1年間、俺のことを知ってもらう事に。

 そして1年が過ぎても、俺と家族になりたいと思ってくれるのなら、家族になろうと約束をして。そうして1年後、俺達は家族になったんだ。

 

 後から理由を聞いたんだけど、俺と出会った瞬間、家族になる人だと感じたらしい。こうビビっときたと。

 この世界では血のつながりは勿論大事だけれど、こうやって本能で家族を見つける人達や魔獣達がいるんだ。だからもしかしたら、アクアもそんな感じで、俺を選んでくれたのかもしれない。


 ちなみにアクアという名は俺が付けた。それまではただ、目覚まし鳥と呼んでいたからな。家族になったのに、それじゃああまりにもってことで。アクアは綺麗なアクアマリン色だったから、アクアと名付けた。


 ところが、アクアに名付けたことのよって、何故か家族じゃない目覚まし鳥達も名が欲しいと言い始め。家族は関係なく、結局全員に名を付けることのなったが。

 それがどれだけ大変だった事か。何十羽と名を考えたんだぞ。俺はもう家族になる魔獣以外、あまり名は考えたくない……。


 と、いうことで、挨拶が終わると、勢いよくアクアとリルがご飯を食べ始めた。


『ムシャムシャムシャッ!!』


『トトトトトトトッ!!』


『……』


 話しをしながらゆっくりご飯、と思っていたんだけどな。そうだったよ、この感じ。2匹はお腹が空いていると、話しどころじゃなくて、フードファイターのように、一心不乱にご飯を食べるんだった。あ~、この光景。やっと家族が揃ったって感じだな。


 それにしてもリルは体が大きいから、まぁ、ご飯の量が多少多くても気にならないけど。アクアのあの小さい体に、どうやったら自分の5倍はあるご飯が入るのか。本当に不思議だよ。お腹も一応普段の2倍くらいには膨れるけれど、それでもな。


 俺はアクアを見ながら、そっと自分のご飯石の魔力を吸い取る。今日は勿論お好み焼き味だ。


 こうして怒涛の食事が30分ほど過ぎると、ようやくアクアが落ち着いてきた。リルはまだまだって感じだけど。


『ふぅ、食べたぁ』


『デザートはどうする?』


『デザートもだけど、まだ食べる。バクバク食べるのが終わっただけ』


『……そうなのか』


 まだ食べるのか。よっぽどお腹が空いていたんだな。今まで何も食べていない、って事はないだろうけど、そんなに食べずに移動していたのか?


『ご飯はどうしていたんだ?』


『ちゃんと食べた。でも、途中から急いで帰って来た。遊ぶ所1ヶ所寄らなかった』


『そうなのか? ゆっくりしてきて良いって言ったのに』


『本当は遊ぼうと思ってた。でも変なの見たから、みんなと一緒に急いで帰ってきた』


『変なもの?』

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