20.ケットシーのケシーさんのやらかし、生け簀になった露天風呂

 この娯楽施設は、基本24時間営業だ。そのため掃除の時間もその時その時で違ってくるんだけど。露天風呂と温泉は、必ず1日に1回は清掃作業を行なっている。


 もちろんみんなルールを守ってくれていて。湯船に入る前には、備え付けの大きな樽からお湯を出して体を洗ったり、水魔法や水魔法を変化させたお湯で体を洗ったり。他にもクリーン魔法があるから、それで体を綺麗にしてから、湯船に浸かってくれている。


 だけどやっぱり色々あるからさ。毎日の掃除は大事だ。他にも清掃専門の従業員を雇っていて、温泉だけじゃなく、施設全体を綺麗にしてもらっているぞ。


 それで温泉なんだけど、なるべく人が少ない時間帯にとりあえず温泉を閉鎖。そして入っていた人達がみんな出たら、一気に掃除をして、お湯を溜めてからまた再開するという感じで。


 施設に来て、始めに受付に寄ってもらった時に。露天風呂と大浴場は、空いてる時間がいつも違うから、いつ掃除の時間になるか分からない。そのため、もし閉鎖していたら、2時間くらい様子を見てから行ってください、と説明をしてもらっている。


 そして今いる魔獣と魔物専用露天風呂なんだけど。掃除したのが深夜2時頃。掃除は問題なくいつも通りに終了し、止めていた温泉が出てくる線を抜いて、あとは掛け流しだからそのまま放置。

 一応お湯が溜まった頃に確認に来て、しっかり溜まっているのを確認し大丈夫なら、また温泉の営業が再開する。


 だから今回も朝方4時頃確認しに来てくれたんだけど。すでにそこには今の光景が広がっていたと。


 大量のお酒の樽の横で、酔っ払って寝ているケシーさん。従業員はケシーさんに声をかけながら、周りを確認し、周りはお酒の樽以外問題はなしだったと。いや、お酒の樽も問題は問題なんだぞ。


 だけどすぐに、違和感を覚えた従業員。恐る恐る違和感を感じた、浴槽の中を除いてみると、浴槽の中が生け簀になっていたと。


 発見してくれた従業員は、すぐに問題レベル5と判断。それで俺に連絡が来たんだ。と、ここまでが俺が呼ばれるまでの流れだった。


 次は問題のケシーさんの方だ。今回のことだけど、やらかしたケシーさんが悪いのは勿論なんだけど。ケシーさんが施設へ来たタイミングに悪かった。そう、タイミングが。


 まずケシーさんが住んでいる森の近くには海があって。ケシーさんは海でよく、そのままの姿で魚の獲ったり、普通に釣りをして過ごしている。

 そして数日前も魚釣りをしようと海へ出かけたケシーさん。すると何故か、今、浴槽に入っている魚が大量発生していて。食用の魚だったため、ケシーさんは空間魔法を使い、その空間に魚を収納。空間魔法には、生き物を生きたまま収納できる物があるんだよ。


 大量の魚にニコニコのケシーさん。が、その後すぐに、今度はケシーさんが住んでいる森で、天然のお酒が大量に湧き出し。それもささっと作った樽に入れて、空間魔法で収納して。


 大量の魚に大量のお酒。ケシーさんはこれだけの量があるんだから、みんなで宴会をしようと思いつき、施設まで来てくれたんだ。そう、ここまではとっても嬉しい提案で、問題はなかったんだけど。


 俺達が住んでいる森へ到着しても、森をフラフラ、他の街に寄ったりして。俺達の住んでいる街に着いたのが今日の朝方だった。おそらくそのフラフラしている時に、師匠に情報をくれた人と会ったんだろう。


 そして着いたはいいけれど、着いた時間に俺が寝ているのを知っていたケシーさんは、俺に来たことを知らせずに露天風呂の方へ。露天風呂で時々お酒を飲んでいる人達がいるから、一緒にお酒を飲んで、魚を食べながら、俺が起きるのを待とうとしたらしんだ。


 だけどその時間は、掃除のために全部の温泉に人はおらず、お湯が完全に溜まるちょっと前の頃で。お湯が少し少ないなんて、毎日来ている人じゃないと気づかないだろうからな。

 それで何で誰もいないんだろう? とは思ったらしい。だけどまぁ、そのうち誰か来るだろうし、みんなが来るまでに用意しておこう。


 魚は浴槽の中へ入れ、お酒は周りに並べて。今回の魚は、淡水や海水なんか関係なく、しかも露天風呂の温度は40度くらいなんだけど、それくらいなら余裕で生きられる魚だったため。魚は浴槽の中を元気に泳ぎ回り。


 用意が終わったケシーさんは先に晩酌を始め、みんなを待つことに。その場で魚を獲り食しながら、お酒を飲むケシーさん。

 だけどこれまで遊んでいた疲れからか、すぐにお酒が回ってしまったらしく。酔っ払い、いつの間にか床上で、大の字で寝てしまった。そんなケシーさんを、確認しに来た従業員が発見。こうして俺に連絡が来たと。これがこちらとケシーさんの流れだった。


 まったくみんなが利用する露天風呂に魚を放つなんて。ここは魚を食べるために用意してある露天風呂じゃないんだぞ。お客さんにゆっくりしてもらおうと、清潔に保っているのに。いや、別に魚がそこまで汚いってわけじゃないけど。


 この世界の川と海は、底が完璧に見えるほど綺麗なんだ。だからそこに住んでいる魚も綺麗だし、とっても元気だ。だから別に悪いって事はない。ないけれど。

 それでもここは温泉なんだ。決して魚を入れる場所ではない。はぁ、これじゃあ少しの間、この露天風呂は閉鎖だよ。掃除をし直さないといけないからな。


『まったく、何度言えば分かるんですか。必ず、必ず!! 何かするなら、俺に話してからにしてくださいって言っているのに。これ以上何かやるようなら、出入り禁止にするかもしれませんよ!!』


「うう、それは」


『何も全部やらないでください、と言っているわけではないんです。話しを聞いて大丈夫だと判断できれば、俺や従業員が手を貸しますよ。今回だって、魚やお酒を持ってきていただいたことはとても嬉しいです。でも今の状況にする前に、しっかり話してくれていれば、今頃楽しい時間が過ぎせていたかもしれないんですよ』


「本当に申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい。でもすぐにでも魚を食べ、お酒を飲みたかったものだから。それにみんなすぐに来ると思っていたのよ。それで先に始めてしまったの。本当にごめんない。すぐに魚とお酒を片付けて、ここを掃除するわ」


『掃除はこちらでします!! あなたは何もせずにそこで見ていてください。何もせずに!』


 これ以上何かされたらたまったもんじゃない。だけどそうだな。確かに魚とお酒は片付けてもらわないとだな。


 そう思って、じゃあ魚とお酒だけは片付けてもらおうと、ケシーさんに声をかけようとしたその時。向こうで湯船の中を覗き込んでいたリル達の話しが聞こえてきた。


『うまく取れないねぇ』

 

『ねぇ、ツルッと滑っちゃう』


『難しい』


『でもさ、うまく取れたら嬉しくて、きっとジャンプしちゃうよね』


『うん! きっとジャンプしちゃう。それに取れないのも楽しい』


『魚掴み取りだね』


『これお片付けするのかな?』


『うん、すると思うよ』


『お片付けの前に、もう少しだけ魚掴みさせてもらえないかな?』


 ここは露天風呂で、魚を掴み取って遊ぶ場所じゃないんだぞ。まったく、ケシーさんのせいで、リル達が変なことを考えるようになったらどうしてくれるんだ。はぁ、すぐに片付けを……。


 ん? 魚掴み取り? ……それだ!!

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