第9話.親友とぶらり


「紬たち服屋行ったし、俺らは本屋にでもよるか。」

「そうだな。俺もちょうど今日出た新刊買いたかったしさ。」


 紬と美鈴が、服屋へ行くのを見届けた二人は、のんびりと歩きながら本屋へ向かう。


「しっかし、美鈴ちゃんめちゃくちゃ可愛いな。」

「まぁな。俺の可愛い妹だから。ただナンパとかされてたら・・・。」

「そこに関しては大丈夫だと思うぞ。お前も知ってるだろ。」

「ん・・・あぁまぁ紬ちゃん格闘技経験者だもんな。」

「基本的にその手のバカは、紬がぶちかませば終わるだろ。」


 信頼からくる言葉なのか、それとも身近で一番紬の攻撃を受けているから出てくる言葉なのか。

 奏多は若干哀れみを含んだ視線を送る。


「いやでも・・・お前はいつも自業自得か・・・。」

「人をそんな視線で見といて自己完結してんじゃねえよ。」


 そんな他愛もない話をしているといつの間にか本屋に着いていた二人。

 奏多は迷わずラノベコーナーに向かい、それに着いてくる和希。


「とりあえず今日は、『好殺』の新刊発売日だし。」

「好殺?なにそれ」

「『好意と殺意は紙一重。』っていう一応ラブコメなんだけど読むか?」

「中々印象的なタイトルだな。」

「まぁ、ヒロインがみんなヤンデレだからな。ツンデレであれクーデレであれヤンデレなんだよ。」

「何言ってんのかわかんねえよ。」

「んや、とりあえず主人公を愛しすぎるがあまりに危ない行為に走ろうとするヒロイン達を上手くかわすラブコメ?だぞ。」

「へえ。やっぱ分からんわ。」


『面白いんだけどなぁ。』と奏多は新刊を手に取り漫画コーナーへと向かう。


「あ、これ紬が見てるやつだわ。」

「紬ちゃん漫画見るのか?」

「おう。何か昔は全く興味なかったみたいだけど、最近はよく見てるな。確かあれだあれ。この前お前に貸してもらった漫画本あったろ。」

「ん?あー。あれか『オンミョ〜ジ!!』か。」

「そうそう。奏多から借りたもんだから触るなよって言ってのにいつの間にか読み耽っててな。」

「予期せぬ布教になったわけだな。」

「あぁ、結構ハマってたぞ。特にヒロインが一度死に追いやられるところで泣いてたしな。」

「あそこは熱い。まじでやべえよな。まぁそれがトリガーとなってヒロインの中の能力が目覚めた時は更に盛り上がったしな。」

「まぁあそこは俺も泣きながらみたわ。あ、あと言い忘れてたけど、そのシーンがあるオンミョ〜ジ7巻は俺の鼻水ついてるから。」

「殺すぞ。買い取れ。」


 二人でのんびりと漫画本を眺めながら話し込み、

 いつも美鈴の事で文字通りお世話になっているので

 紬になにかプレゼントする事を決めた奏多。


「んー。あいつ結構人形とか持ってるしな。クマさんとかウサギさんとか言ってなんか名前もつけてたな。」

「やめてやれよお前仮にも兄貴だろ。」


 和希はいたって真剣なんだろうが・・・。

 自分のいない所でそんなカミングアウトをされる紬ちゃんの気持ちを思うと・・・。

 うん。こいつ酷いわ。


「あの子めっちゃ好きって言ってたな。ヒロインと一緒に行動してるあの変な小動物みたいなキャラ。」

「あー。ヤタちゃんね。」

「それと、最近あいつキーホルダー無くしてるんだよな。」


 そこで和希は、目の前にあったアニメグッズコーナーへと目を移す。

 こいつこういう時だけは本当に有能なのだ。

 普段無能なだけに余計に株が上がる気がする。


「でもアニメのグッズで喜ぶJKなんて居るのか・・・?」


 問題はそこだ。同級生の女子生徒とすらほぼ関わりのない奏多。

 周りにいるのは何故か四天姫と呼ばれるうちの三人と親しく、そして親友の妹である一人ギャップ姫の紬ちゃんだけだ。


 みやびは、交友関係は広いだろうが基本的に俺と行動することが多く、休日なども一人でゲームしていることが多い。

 桜花先輩は・・・発情魔人。

 美鈴は・・・・・・だめだこりゃ。


 結局、そういう類の相談をできる女友達が居ないのだ。


「喜ぶんじゃねえかな?誰だって貰えると嬉しいもんだろ。」

「そんなもんか?」


 結局は、キーホルダーと買い手に持っていたラノベを別のレジで購入し本屋を後にした二人。

 時刻は14時でどうやらあの二人はまだ、服屋を回るらしい。


「んじゃあ、ゲーセンでも行っとくか。」


 奏多と和希はゲーセンへ足を運ぶ。

 何が悲しくてこんな男と二人でショッピングモールを歩かなければならないのか。


「レースゲームでも久しぶりにやろうぜ。」

「お前俺に勝てたことねえだろ・・・。」

「ははーん。」


 なんだその顔は。腹立つな。


「負けるのが怖いんだろ?」

「・・・・・・は?」

「大丈夫大丈夫。もうやらないから。奏多君は負けるのが怖くて・・・・・・」

「よしやるぞ。」


 某有名ゲームと同じく8人で行うレースゲームで、序盤は圧倒的奏多の優勢だったが次第に雲行きが怪しくなっていく。


「まてまてまて・・・。お前何かめちゃくちゃ上手くないか?」

「はっ。バカにすんなよ。こっちは負け続けてたから特訓に特訓を重ねてるんだよ。」


 お前そんなことに使う時間あるなら勉強しろよ・・・。

 結構単位あぶねえって担任と話してんのこの前聞いたんだぞ・・・・・・。アホが・・・・・・。


「よっしゃぁ!!!!俺の勝ちぃッ!!!」


 結局ギリギリのところで和希にアイテムを使われ、

 一位から二位に転落した奏多だったが、悔しさ等は一ミリもなく・・・ただひたすらに親友のアホさに頭を抱えるのであった。







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