第3話.バチバチ


「はぁ・・・疲れる。全くあの生徒会長の変態っぷりはどうにか出来ないものかな。」

「あ、かー君。こっちこっち。」

「ん・・・?また残ってたのか?こんな時間まで?」

「うん。かー君と一緒に帰りたいなぁって。」


 この茶髪ショートの髪先が少しウェーブがかった小さくて可愛い生き物なのに、大人の色気溢れる美少女は『北城きたしろ みやび』だ。

 俺の幼馴染である。

学校では小さい事から『オサナ姫』と呼ばれている。

 全く、何故異名がみんなこんなにしっくり来るのだろうか?


 みやの家は、俺たちの住んでいる家から徒歩数秒。

 隣にあるのだ。

 父親同士が互いに小学生時代から仲が良すぎて、隣同士に立てたらしい。

 義母もみやの母も速攻仲良くなって、毎日のメールを送り合う中なのだとか。

 まぁそのおかげでこうして美少女と幼馴染なのだからありがたい。


「今日は何がいい?」

「ん〜。カレー・・・?」

「なぜに疑問形?」


 みやの両親も共働きで夜が遅く、中学の頃からこうして俺の家で飯を食っている。


「えへ・・・。かー君のご飯はなんでも美味しいから・・・。」

「ぐふぅッ。」


 大ダメージです。

 癒されすぎて逆にダメージ入っちゃってるよこれ。

 あの発情魔人とは大違いである。


「どうしたの?」


 こてんと可愛らしく小首を傾げるその仕草に、癒されながら奏多はみやびと共にスーパーの中へとはいる。


「カレーか・・・。具材なんにしようかな・・・。」

「あ!じゃあ茄子入れて欲しいかも・・・。」

「茄子は美味しいしな。了解。」


 二人はカレーの具材を次々とカゴの中に入れていく。


「じゃあ人じ・・・おい。みや。誰がお菓子買って良いって言った?」

「え、だ、だって・・・。お菓子が買って欲しそうにこっちみてたから・・・。」

「お菓子に目があるわけねえだろ。戻してきなさい。」

「で、でも・・・。」


 上目遣いでこちらを見るみやび。

 うるうるとした瞳・・・。

 胸元で大事そうに抱えられたお菓子。


「ぐ・・・だ、くそ。一つだけだぞ。」

「やったぁ!ありがと!かー君。」

「また負けた・・・。」


 毎度毎度この手法でみやびは、お菓子を勝ち取るのだ。

 こんないつも通りのやり取りを繰り広げ二人はレジへと向かう。


「あら、高校生夫婦来たわね。」

「こんちは。あと夫婦じゃないですからね?」

「ふ、夫婦だなんて・・・。」


 顔を真っ赤にして、俯くみやび。

 冗談を真に受けるんじゃないよ。ポンコツが。


 二人はいつも気さくに話してくれるベテラン店員田中さんと雑談をしレジを通し追えると、奏多はお金を払い、みやびは袋詰めをしていた。


「あら・・・。やっぱり夫婦のような連携ね・・・。」

「た、田中さぁん。」


 だからなんでお前は真に受けてんだよ。アホ。


 それから、袋を奏多が持ち二人でスーパーを出る。

 家では恐らく腹を好かせて待っている可愛い可愛い義妹が。

 最近は更に甘え度が増している気がするが、兄と認めてくれているからこそであろう。

 嬉しいことである。


「そ、そういえばかー君。美鈴ちゃんとは・・・何も・・・何も無いんだよね?」


 真剣な面持ちでこちらにずいっと顔を寄せてくるみやび。

 身長が低いため若干背伸びになっているのが可愛らしく思える。


「んー。特に何も無いぞ。膝の上に乗せて甘やかしたり。寝る前にハグしてあげたり。どうしても寝付けない時は添い寝して背中トントンしてあげたりな。」

「・・・・・・へ、へぇ。」


 謎の間を置いたその返答に首を傾げた奏多。


「今日泊まる・・・。」

「ふぅん・・・・・・は?」


 今何を言った?


「今日かー君のとこ泊まるッ!!」

「ちょ、ちょっと待て。なんでいきなりそんな話になるんだよ。」

「だって・・・」


 ボソボソと奏多に聞こえない小さな声で呟いているみやび。

 なんの事だかさっぱりな様子の奏多だったが結局はみやびの押しに負けて泊まることを許可する。

 流石に一人であれば、こちらも立派な男子高校生なので拒否するところだが幸い家には義妹も居る。

 ならば大丈夫であろうという奏多の判断だ。


 そこからのみやびは別人のように行動が早く、両親に泊まることを連絡し、家に戻り荷物を纏め直ぐにこちらの家にやってくる。


「・・・・・・家で風呂入った方が早いのでは?」

「そ、それはあれだよ。せっかく泊まるのなら雰囲気を・・・ね?大事にしなきゃ。」


 そういうものなのか。

 よく分からん。


「それよりもかー君。何か手伝う事ある?」

「んー、じゃあ二人で野菜切るか。」


 みやびは、ピーラーで人参やジャガイモの皮を剥き奏多が野菜を全て切る。

 見事な夫婦技と言っても過言ではないほどに無言で息のあったプレイ。


 そこでドタドタと足音が聞こえてくる。

 おそらく二階からお腹を好かせた義妹が・・・。


「かな・・・おにぃ。」

「おう美鈴。今日はみやも家に泊まるからよろしくな。」

「・・・・・・乳牛。」

「なっ!!」


 顔を真っ赤にし、胸を抑えるみやび。


「危な!お前一応ピーラーでも怪我する可能性あるんだから気をつけろよ・・・。」

「ご、ごめんねかー君。」


 慌てて怪我をしていないか、奏多はみやびの手を取り見る。

 みやびの顔は真っ赤だったが、奏多は気付いていない。


「ちっ。」


 あれ?今誰か舌打ちした?

 我が義妹・・・・・・は舌打ちをするはずがない。

 そうだ空耳だ。


「・・・よ、よろしくねぇ?平均サイズさん?」

「平均サイズの方がおにぃは好き。乳牛は後々垂れる。」

「そ、そんな事ないもん!かー君は時々私のおっぱい直視してくるもん!」

「グブファッ!!」


 謎のダメージが入り、膝を着く奏多。


「お、おにぃ本当なの?」


 何故か若干涙目の美鈴だったが、奏多の心は既にここに在らず。


「サァーカレーニコムヨォ。」


 奏多が煮込んでいる間に、美鈴とみやびは交代で風呂に入りそれからしばらくしてカレーは出来上がる。

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