断章
呪い(2)
どうした?その手に持ったものを、振り上げないのか?
悪いことは言わない、今の君の手足じゃ、その剣を扱うのは無理だ。
そのテーブルに短剣があるだろう。切れ味は悪くないはずだ。それで、ここを狙え。しっかり首が落ちるまで刃を差し込め。
……ふむ、聞きたいことが他にもあると。
良かった。痛いのは苦手なんだ。前にひどい目にあってね。
……私が、彼女に初めて会ったのは、園遊会だったかな。誰が主催したものかは忘れた。そこの庭で、彼女はこそこそと、植物の葉をちぎっていた。
私は、何をしているのか聞いた。
彼女は真っ青になってね、誰にも言わないでくれと泣くんだ。それで事情を聞いた。彼女は死にたがっていた。ちぎった植物の葉に毒があると聞いて、それを食べれば死ねると思ったらしい。
だが、その植物じゃ、せいぜい腹を下すだけだと告げたら、また泣いた。
その時、彼女の話しを聞いたんだ。何故、死にたいのかと。
彼女はこう言った。もう自分には何もないと。何もない訳ないだろうと思ったが、彼女は想像以上に病んでいた。
この世に未練はないと繰り返すんだ。絶望は深かった。
それでお願いされたんだ。死ぬための毒が欲しいと。その時は、私は断った。
だが、暫くして、彼女が倒れたと間諜に報告されて、私は彼女の元にいった。
君は一度でも彼女を見舞ったか?どうせ、あの女と一緒にいたのだろう。
彼女が盛られたのはだんだんと体を弱らせる毒だった。死は確実に訪れる。
私は彼女に会い、現状を伝えてどうしたいか聞いたが、彼女はこう言ったんだ。
もう楽になりたいと。それで、すぐに楽になれる薬を渡した。それで、彼女は安らかに逝ったよ。この世に未練を残すことなくね。
死に目に会いたかった?ふざけるな。
お前が言うことじゃないだろう。笑わせるな。
私はお前に忠告しただろう?あの奸婦の本性を話したのに、お前は私に隠れてあの女を囲っていた。それで彼女は毒を盛られたんだ。
それに、お前に俺を批難する資格はない。
彼女を楽にさせたのは俺だが、お前は苦痛だけを与えて彼女を死に追いやったんだ。
お前が何をしたか分かっているのか。百合の花みたいに清純だった彼女を踏みにじり、毒婦に溺れ、その花を枯らしたのは誰だ。
彼女はあんな風に、壊れるべきではなかった。お前らが壊したんだ。意のままに操れる女だと思ったのか?だから、深く考えずに愛せない女を娶ったのか?
彼女はお前にとって、愚かな父親の尻拭いのための道具だったんだろう?だが、彼女は物じゃない。一度でも彼女の人格を尊重したことがあるか?お前はそれすらしなかった。一度も。
それで、自分の死の間際になって、罪悪感に苛まれたのか?ふざけるな。
お前なんぞに、彼女に愛される資格はない。愛する資格も悼む資格もないんだ。もちろん、赦される資格もない。
お前は後悔したまま死ねばいい。俺はそれだけを強く願うよ。
……とにかく、それが君の妻の死の全容だ。君が知りたいことは全部分かったはずだ。さっさと帰って自分の棺の準備でもしろ。
……なんだ、まだ聞きたいことがあるのか?
ああ、シューベリの呪いのことか。
まぁいい。……このまま誰にも話せずにいるのも気分が良くない。君ならちょうどいい。こんな、くだらない戯れ言に付きあわせるには、もってこいの相手だ。時間は、……まだあるだろう。
君が理解出来るかは、わからないがそれでも良いかね?
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