第9話 試験勉強

 六月十日、月曜日。


 今朝は委員長の呼びかけでHR前に皆で集まっていた。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう。昨日電話で言ったと思うけど、ウチと山下くんの喧嘩に皆を巻き込んでしまってごめんなさい」


 佐倉が壇上に上がり、皆に訴える。


「昨日、山下くんと直接会って仲直りをしました。だから皆さんも、もう山下くんをからかうのは止やめてください。お願いします」


 佐倉の謝罪に、皆はざわめき、暫くすると皆が俺の方に寄ってきた。


「山下俺達関係ないのに酷い事いっぱい言って悪かったな!」


「私も酷いこと言ってごめんなさい」


「俺も」「あたしも」「ごめん」


 など沢山の謝罪を受けて、とても安心した。


 良かった。


 これでまた平和な毎日がやって来る。


「佐倉、ありがとな。お陰で助かった」


 自分の席に戻り、遥と話している佐倉にお礼を言った。


「ううん。ウチが悪いんだもん。これくらい当然よ」


 こうして昨日の騒動は佐倉のお陰ですっかり収まった。

 




 放課後。


 今日からテスト二週間前。


 この学校は規則は緩いが一応進学校なのでどの部活も今日から休みらしい。


 だから今日から部活が休みな夕夜と、掃除終わりに図書室に来たのだが既に委員長と遥、佐倉が勉強をしていた。


「あれ、皆もう来てるんだ。早いね」


「うん。今週は掃除当番じゃないから。あっそうだ、もし良かったらわたしが勉強教えようか?」


「え、いいの?良かったな、夕夜」


 委員長は学年2位。これほど心強い人はいない。


「あぁ。佐倉たちも良かったら一緒にどうだ?」


 佐倉は一瞬、俺の方をチラリと見たが、夕夜からの誘いに嬉しそうに答えた。


「え~いいの~?じゃあ夕夜くんは遥に教えてもらったら?遥、学年1位だし!」


「そう言えば水瀬は頭良いんだったな。よろしく頼むよ!」


「ま、まぁ別にいいけど…」


 俺と委員長が向かい同士、遥と佐倉の向かい側に夕夜が座る形になった。


「具体的に苦手な部分とかある?」


 席に着いてすぐ委員長が尋ねた。


「あっ俺、数学が苦手なんだけど特に関数の問題が苦手なんだけど……」


「これはーーだからーーそれでーー」


 委員長の教えは授業よりも分かりやすく、スラスラと頭に入る。


「委員長ってさ普段から勉強してるでしょ?」


「え?うん、そうだよ」


 俺は問題を聞きながらさりげなく話しかける。


 委員長は俺の問いに「当たり前」と言いたそうな顔をしている。


「俺なんて1週間前になんないと勉強する気なくてさぁ……。特に家では絶対にしないもん」


「そうなの?ダメだよ、勉強は毎日コツコツやんないと。身に付かないよ」


「確かに。俺が勉強するのは試験で赤点取らないためだし」


「テストの復習とかもしないでしょ?そんなんじゃいい大学に行けないよ?」


「いい大学ね……。別に行きたい大学とか、なりたい職業とかもないんだけどな…」


 俺みたいな奴を「ゆとり」じゃなく「さとり」と言うらしい。


「そっか……わたしはね、K大の教育学部に行こうと思ってるの」


 教育学部!?


「って事は先生?いいじゃん!教え方も上手いし、優しいし相談にものってくれるし。委員長ならいい先生になれるよ!」


「ありがとう!」


「あっ、それって俺がこの前言ったから?」


 先週の木曜日、委員長に相談した時同じような事を彼女に言った。


「実はあの時から先生になりたいって思ってたけど自信なくて……。でも山下くんのお陰で自信が持てたの。ありがとう」


「そっか。どういたしまして」


「だから山下くんも自分にむいているものから考えてみればいいんじゃないかな」


 自分に向いている事……ね。


「俺にはそう言うのないよ…。何をやっても中途半端で、直ぐ飽きちゃうんだ」


「そんな事ないよ!山下くんだって優しいし、はっきりと自分の意見を言える。わたし、そういうところ尊敬してるんだ!」


「そっか……。委員長にそう言われると嬉しいよ」


 俺の方こそ委員長の事、尊敬しているんだよ?


 そんな調子で約二時間の勉強会は終了した。


「本当にありがとう、委員長!今日でかなり理解できたと思う」


 勉強道具をしまいながら礼を言った。


「オレもけっこう理解できた。ありがとな、二人共!」


 夕夜も礼を言うと佐倉は嬉しそうにしていた。


「よし、じゃあもう六時だし帰ろう!俺と遥は委員長を送るから夕夜は佐倉を送ってやってくれ」


「分かった。じゃぁ三人共、また明日な」


「遥、また明日ね」


 二人は仲良さそうに帰っていった。


「じゃ、俺達も帰る?」


「うん、そうだね」


 俺達も直ぐ近くにある委員長の家まで送っていき二人で帰路を歩いた。


「ねぇ……」


「……何?」


 委員長が居なくなると急に気まずくなる。


「夏休みに夏コミってのがあるんだけどさ、香純と二人で行きたいって話をしてたんだけど、あんたも来なさいよ」


 夏コミというのは八月の中旬、金土日の三日間を使って東京ビッグサイトって所で開催されるものらしい。


 聞いたことあって一度行ってみたいと思っていたけど……。


「金がな……。貧乏な俺にはそんな金はねぇよ…」


 金が入っては直ぐ使っちゃう俺の財布には小銭しか入ってない。


「どうせあんた、直ぐ使っちゃってないんでしょ?だったらバイトしなさいよ」


「バイトか……」


 俺としては働きたくないけど……。


「何よ。女の子二人であんな人がいっぱいいる所に行けっていうの?」


 確かにそれは危ないな……。


「そ、そうだな……俺もバイトで稼いだお金で着いていくことにするよ」


「ほ、本当!?やった!早速、香純に電話しよーっと」


 遥はそう言って携帯を耳にあて委員長と話出す。


 はぁ……働きたくないなぁ……。


 ちょっぴり憂鬱になりながら自宅へと向かった。



 その日の夜、リビングでテレビを見ていると、委員長から電話がかかってきた。


『こんばんは、山下くん。夜分遅くにごめんね。今、大丈夫?』


 俺は慌てて自分の部屋に戻る。


「大丈夫!テレビを見てただけだから」


『そっか。あのね、遥ちゃんから聞いたんだけど、山下くんも夏コミ行くんだって?』


「うん、そうだよ」


『嬉しいなぁ、楽しみだね!』


 声のトーンが少し上がり、本当に嬉しそうに聞こえる。


「うん、だからさ夏休み補習にならないように明日からも委員長に勉強を教えてもらいたいんだけどさ、いいかな?」


『そういう事だったら喜んで!』


「ありがとう。じゃ、また明日、学校で」


『うん。おやすみなさい』


「おやすみ」


 電話を切った俺は、つい、


「よっしゃー!!」


 と叫んでしまった。





 翌日から、俺達は朝、昼、放課後とあわせて四時間くらい、毎日勉強した。


 苦手勉強した。苦手な数学、英語は前回赤点ギリギリだったので、その二つを中心に委員長に教えてもらった。


 家に帰っても委員長が作ってくれたノートを読んで復習をした。






 一週間後、テストが返ってきた。苦手な数学と英語は72点と78点。その他の教科は全て80点以上だった。


「やった~、ありがとう!委員長のお陰だよ!」


「ううん。山下くんの努力の成果だよ!」


 クラス順位も八位で初めての一桁だった。


「これでも八位ってやっぱり皆、頭良いな…」


「まぁうちは新学校だしね」


 委員長は相変わらず、二位だったようだ。


 それを聞いていた遥がメールを送って来た。


『これで、皆でいけるわね!』


 あいつ……今、授業中だぞ!


『そうだな。委員長のお陰でだよ』


 さりげなく先生の目を盗んで返信すると、


『良かったわね(怒)』


 と何故か怒っていた。意味が分からない…。

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