第8話 佐倉美月
月曜日の朝。
廊下を歩いているとふいに声をかけられた。
「山下くんちょっといいかな?」
振り返って驚いた。
声をかけてきた主は遥の友達の佐倉美月だ。
俺は今まで佐倉と話した事はないし、今後も話すことはないと思っていた。
「な、なに?」
「山下くんさぁ~最近、遥と仲いいよね?」
「そ、そうかな?」
「はっきり言って迷惑なんだよね」
佐倉は教室で聞く甘い声とは間逆の低い、冷めた声で話す。
俺はとても驚いた。
「……は?お前には関係ないじゃん」
一方的に上からものを言う佐倉に俺は少しイラッとした。
「はぁ?ウチは遥の親友よ。だから遥の心配をして何が悪いの?」
「別に悪くはないけどさ……」
「だったら言う事聞いて!」
「てか何で俺と遥が出てきたの?俺達が話してる所、見た事ないよね?」
俺と遥は学校では一言も話した事はない。
だからこいつがそんな話をするのが可笑しいのだ。
「ウチ見ちゃったんだよね。土曜日、あんたと遥と小原が駅で会ってる所」
マジか……。あれを見られてたのか……。
「お前に一言いいたかったんだけどさ、俺が幼馴染みの遥と仲良くしちゃダメって何でお前に決められなきゃいけないの?」
俺は少し強めに言った。
こいつには怒りが溜まってたからな。
「はぁ?遥からも聞いたでしょ。世間体よ!あんたは良くても遥が周りから変な目で見られたら困るの。そんな事も分からないわけ?」
「そんなの知った事か。お前の偏った理屈だろ。それを俺達に押し付けんな」
「っ……!?あぁもう、ほんとうざい!死ね!」
バチン!
佐倉は怒りで顔を赤くしながら俺の頬をおもいっきり叩いて教室に駆け込んだ。
廊下にいた周りの人達はクスクスと笑っている。
ホント最悪だ。
何とかならないのか、あいつ。
教室に戻ると佐倉は泣いていて、クラスみんなが俺を睨んでいた。
クソッ…!あいつ俺を悪者にする気だな…!
俺は佐倉をなめていた。
あいつ、俺以外の男には媚を売っているため、男子みんなが佐倉の味方をして俺に嫌がらせをしてきたのだ。
「「死ね!クズ!二度と学校くんな!」」
放課後、みんなからそう言われて俺は教室を出た。
正直言って挫けそうだ。
だけど俺には仲間がいる。
俺は遥と委員長と夕夜に家に来てくれと頼み、学校を出た。
暫くすると、インターフォンが鳴った。俺は慌てて返事をする。どうやら三人一緒に来てくれたようだ。俺は嬉しくなって玄関のドアを開ける。
「おーっす大樹!大丈夫か!」
「助けに来たよ。山下くん」
「……」
遥は何やらふてくされていた。
「「お邪魔しまーす」」
遥は相変わらず何も言わずに靴を脱いだ。
俺は三人を自分の部屋へ案内し、カーペットの上に座らせ頭を下げた。
「頼む、助けてくれ!」
小学校の頃に虐めにあった時、友達の大切さを知った。
だから素直に助けを求められたんだと思う。
「なに言ってんだ。俺なんか今日何も出来ずにお前を見てた。ごめん」
「わたしも委員長なのにクラスのトラブルに何も出来なかった……。ごめんなさい」
二人の素直な謝罪に涙が出そうになった。
「……で、お前は?」
さっきからずっと黙ってる遥に声をかける。
「……ふんっ。あたしは助けたりしないんだから。それに美月を泣かせたのあんたでしょ?」
「ばっか……あれは完全に嘘泣きだろ」
「……」
図星だったのか遥はバツが悪そうにそっぽを向く。
「大体、喧嘩を吹っ掛けてきたのはあっちだぜ?まぁ俺も言い過ぎたかもしれないけど……」
そう言った後、沈黙が続いたがやがて夕夜が口を開いた。
「……ま、ここでこうしてもしょうがないな。オレはクラスの皆に電話してみるよ。こうしてる間にも誰かが噂を流してるかもしれない。そうしたら事態を収集するのは困難になるからな」
「そうだね。わたしも皆に電話してみる」
二人は片っ端から電話をかけて皆に誤解を解いてくれるみたいだ。
「遥も頼む。佐倉をなんとか説得してくれ」
遥は不満そうにするも佐倉に電話をかけた。
「もしもし……うん、あたし……あのさ、大樹と仲直りしてほしいんだけど……うん、でもそこを何とか……うん、うん……分かった。じゃあ大樹ん家に来てくんない?住所はーー」
ソワソワと遥の電話を待っていると、やがて電話を切り、
「今こっちに向かってるって」
「そ、そっか……」
夕夜達は未だに電話で説得を繰り返している。20分が過ぎると、夕夜達は電話を切った。
「皆、一旦は納得してくれたみたいだな……」
「あとは明日、皆の前でちゃんと話し合いの場を設けておいたから」
「二人共、ありがとう」
俺はいい友達をもったなぁ……。
「美月もあと五分くらいで着くって」
「あっ遥ちゃんも佐倉さんに電話してくれたんだね。ありがとう」
「……別に。香純がお礼を言うじゃないでしょ」
「ふふ、そうだね」
委員長は嬉しそうに笑う。
夕夜も二人を見てウィンクをする。
それが無駄に格好よくて少しイラッとする。
暫く経つと、インターフォンがなった。
遥が玄関まで佐倉を迎えに行き、部の前まで連れてきた。
「入って」
と遥に促され、佐倉は渋々部屋に入った。
俺は気まづくて、佐倉の方を見れない。向こうもこちらを見ていないと思うが。
「あーその……なんだ……悪かったよ」
そっぽを向いたまま一応謝ったのだが
「山下くん、ちゃんと目を見て言わなきゃ」
委員長に注意され、恐る恐る佐倉を見る。
彼女はやっぱりこちらを見てはいなかった。
「ほら、美月も」
佐倉も遥に促され、渋々俺の方を向いた。
「悪かったな。……言い過ぎた」
まだ納得はしてないけど、先に謝った方が有利だと思って頭を下げた。
「ウチもごめん……。ウチが先に喧嘩を売ったのに山下くんを悪者扱いして……」
「……あぁ」
「クラスの件は安心して。ウチが皆に言っといたから。それに明日皆の前でちゃんと謝るわ。あと、夕夜くん、小原さん、それに遥もごめんなさい。ウチと山下くんの喧嘩に巻き込んじゃって……」
佐倉はバツが悪そうにみんなにも謝った。
「…そうだな。大樹をクラスの悪者にしたのは少し怒ってるけど、ちゃんと謝って皆を説得してくれたんならもう責める事は出来ないなぁ」
「わたしも逢坂くんと同じ意見かな。でも良かったぁ。クラスのトラブルが解決して」
夕夜は少し強めの口調で、委員長は安堵した口調でそれぞれに言った。
「……美月。あんたがあたしの事を心配してくれるのは凄く嬉しいけどさ、大樹の話を聞いて一つ言いたい事があるの。あたしが大樹と仲良くするかどうかはあたしに決めさせて」
遥は意外にも強気で佐倉を説得する。
「ーーっ!?」
佐倉はとても驚いて下唇を噛み締めている。
「……分かった。好きにすればいいわ」
佐倉はそう言って立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ってよ~!」
部屋を出ていく佐倉を遥は慌てて追いかける。
「……さて。無事解決したし、俺達も帰るか」
「そうだね。山下くん、じゃあまた月曜日ね」
「またね、大樹」
「うん、またね。二人共」
そう言って二人を玄関まで送る。
二人は「「お邪魔しました」」と言ってドアを開けて出ていった。
ふぅ…一見落着だな、と思ってリビングに戻るとひかりが腕を組んで待っていた。
説明しろ、言っているようだ。
それから数十分かけて俺はひかりに今日の事を細かく説明した。
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