第9話 『不穏な影』
「はぁ…この前の恋歌の水着ほんと良かったなぁ」
普段着ない服を着せられて恥ずかしかったけど、恋歌の可愛い姿も見られて幸せだ。
あのワンピース、海デートの時に着て行ったら雰囲気もあって恋歌も意識してくれるかな?
『最近あまねんと恋歌様のラブラブ具合やばくない?』
『事務所同じだし、案外…?』
『営業の可能性もあるけど、それはそれで美味しいからOK』
よしよし、百合営業の効果出てるね。
今まで通りの感じで恋人未満くらいの距離感でもいいかと思ったけれど、番組出演の時にボディタッチを多くしてみたり、ラジオの掛け合いもよりそれっぽくしてるから万全のはず。
そう自分に言い聞かせるものの恋人のイチャイチャを晒してるようで恥ずかしくなる。
演技だとそういうのは上手くできるのに…やっぱり恋歌が相手だからなのかな?
この前のバラエティの時は本当にそれが顕著で、2人で物凄く打ち合わせしてMCの役者さんの質問に応えた。
「2人って幼馴染みってことだから、やっぱり仕事も一緒にやってみたい〜とかってあるの?」
「正直言うと、してみたいって気持ちはありますね」
「昔はテレビの子役の子の真似して、2人でそれっぽい事やってたもんね〜!」
昔の私たちが演技の世界を目指すことになった時のことを話すとスタジオ内が少し「おぉ」というような空気になる。
「そういえば2人とも指輪してるけど、それって…」
「ああ、これは芸能活動10周年ってことで2人での記念です!」
「本当は恥ずかしいんですけど、天音ちゃんがテレビの前でも付けたいって言うので」
そう言って指輪をカメラに見せつけるようにかざして「ね〜」と2人で言い合う。
改めて思い返すとだいぶ攻めたことやってる気がする。
でも、これで恋歌のストーカー?も諦めてくれればいいんだけど…。
「それ、どこかお出掛けされたんですか?」
「え?あ、そうなんですよ!この前久しぶりに時間が出来たから恋歌と買い物に行ったのでその時に!」
この人は今私が出ているドラマで衣装合わせをしてくれているスタイリストさん。
仕事の時にはこの人にお願いすることも多くて仲良くなった。
「そうだ、見ましたよ『冴えない恋と、すれ違い』!恋歌さん凄く演技に入りきってらして三十路なのにキュンキュンしちゃいました!」
「ですよね!ほんとに恋歌は昔から演技には没入するタイプだからああいう恋愛ものは映えるんですよね」
意識する前はなんとも思ってなかったけれど、恋歌は昔から恋愛もののドラマに出ることが多かった気がする。
だからこそ色々勘ぐってしまって百合営業なんて切り出してしまったわけで…。
けど、恋歌が演技を通して人気なのは素直に嬉しい。小さい時からずっと恋歌と演技してきたからその気持ちには変わりはない。
「それじゃあ、収録行ってきます」
「はい、頑張ってください」
***
「ふぃ〜、今日も結構頑張った〜!」
「天音ちゃん!」
撮影も終わり、スタジオを出ようとすると聞き慣れた人の声が。
「恋歌!来てくれたんだ!」
「うん、いつも来てくれてるから今日は私から」
めっちゃ嬉しい、恋歌から来てくれるなんて。
いつ会っても嬉しいけど、やっぱり仕事終わりに恋歌と会えると癒されて頑張ろうって気持ちになる。
「ありがとう!もしかして今から帰り?」
「そうだよ、早めに終わったら天音ちゃんの演技覗き見してようかと思ったんだけど、遅くなっちゃった」
「うわ〜、残念!せっかくだから生で見てほしかった!」
多分私たちが学生がやる演劇部なら、演技を見られるのを恥ずかしがってると思う。
けれど、昔から結構自分たちの演技を見返してあーだこーだ言い合うのが日課だからむしろ存分に見て欲しい…というのが私たちの共通認識だ。
「じゃ、帰ろっか!」
「うん!」
「あ、そうだ!この前水族館のペアチケット貰ったから今度一緒に行こ!」
「いいね、行きたい!」
とりあえず目標として、まずは恋歌に意識してもらうのが大切だからできる限りオフの時には一緒に、なるべく2人で過ごす時間を増やす!
「水族館久しぶりだから楽しみ!ペンギンさんたち絶対見たい!」
かっっっっっわ…!
さん付けしてるのめっちゃ可愛すぎる!意識させるつもりなのに、私の方が恋歌の虜になってしまってる。
「楽しみにしてくれてよかったよ、そういえばいつ行く?」
「来週の土曜日なら空いてるからそこで行こ!」
「わかった、カレンダーに付けとくね」
デートの定番、水族館に行くんだから飛びっきりの想い出を作って帰りたい。
あわよくば意識してもらえるようなことが起これば…。
………水族館デートで意識しそうなことってなんだ?
「わかんないけどとにかく頑張ろう」
「……?何か言った?」
「なんにも!楽しみだね〜って言った!」
そうだ、私のことだから下手なことをしたら空回りしそうだからその場の空気で楽しもう。
***
あれから水族館デートの話は盛り上がって、気づいたら私たちの家の近くまで来ていた。
「…………」
「天音ちゃん?どうかした?」
この辺は割と人通りが少ない場所なのに、さっきから誰かの気配を感じる。もしかして恋歌のストーカー…!
「恋歌、多分だけど着けられてる」
「えっ!?…むぐ」
「しっ、おっきい声出しちゃダメ」
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