第7話 『久しぶりの買い物デート』

 今日の私たちのラジオ収録が無事に終わり、SNSの反応を確認する。


『今日も天恋カプの絡みが尊かった』

『来月からの恋歌ちゃんのドラマ、原作読んだけどめっちゃ面白かったから観るの確定』

『恋歌様が出るだけで観ない理由がない』


 うんうん、結構世間の反応も良さげで良かった。

 私もこの小説は恋歌に勧められて読んでたから、恋歌がどんな風に演じるのかすごい楽しみなんだよなぁ。


 正直、恋歌への想いに気づいてからは複雑だけど好きな作品に主役として出られるのは役者としてはとても嬉しいことだし、応援してあげたい。


『これ、あまねん的には気が気じゃないんじゃない?共演の俳優ワンチャン恋敵になる可能性も…?』


『あまねんと恋歌ちゃんの絆がぽっと出のやつなんかに盗られるわけないんだよなぁ』


 ブフッ!?ゲホッゲホッ!?

 な、何言ってくれちゃってんのこの人達!?は?恋敵?


 いやいや、たしかにそれも危惧しての百合営業ですけれども…。

 なんなの?もしや天恋カプって冷やかしじゃなくて共通認識的なやつなの?


「や〜、ないない」


 自分の中での世間の反応から目を背けつつも、実際に目にしてしまうとむず痒く感じてしまう。


「天音ちゃん、大丈夫?」


「ファ!?あ、あぁ!大丈夫、ですよ?」


「ふふっ、なんで急に敬語?」


 取り乱している私をよそにいたずらっぽく笑う恋歌。

 可愛いけど、なんか私ばっかり意識してるみたいで少し寂しい。


「またエゴサ?今度はどんなこと書かれてたの?」


「読みたいの?」


「うーん、私はいいかな?何を書かれてるのか分からないけど気にならないし」


「恋歌は相変わらず冷静だなぁ…」


 恋歌は昔からSNSはあまり見ない子だけど、気にならないのかな?

 でも昔聞いた時は「嫌なこととか書かれて傷つきたくない」って言ってた気がする。


「そんなことより今日はこれで仕事終わりだし、寄り道して帰らない?」


「賛成〜!どこ寄って帰る?」


「新しい夏服と、水着買いに行きたいからいつものデパートかな」


 確かに。最近は仕事で休日一緒にいる時間が減ってたし、どこかに出かけたいと思ってたから嬉しい。

 恋歌の水着姿久しぶりに見たい。絶対可愛い。想像したらテンション上がってきた!…でも平常心。


「おっけ〜、お買い物デートだね!」


「も〜、天音ちゃん恥ずかしいよ〜」




 家の近くのデパート、色んなお店があって昔はよく恋歌と学校帰りに寄り道していた思い出の場所。


「服屋デートとか久しぶりだから楽しみ🎶」


「も〜、デートとか言わないでよ〜!ほら、早く見て回ろ!」


「はーい!」


 意識するまでは何の気なしに使ってた「デート」って言葉。思った以上に心臓にくるな。

 さっきからドキドキしっぱなしだ。恋歌の水着姿とか見たら死んじゃうんじゃない私?


「わ、これ可愛い!恋歌ちょっとこっちみて!」


「…いいのあった?」


「このワンピ、恋歌にめっちゃ似合う!」


「私?天音ちゃんが着る服だと思った」


「だってワンピと言えば恋歌じゃん?いつもの格好も可愛いけど、気合い入れておしゃれしてる時の恋歌は国宝だから!」


 なんかさっきから自分で言ってても恥ずかしいことばかり言ってる気がする。でもホントのことだしね?


「もう!天音ちゃん恥ずかしい!」


 そういう恋歌に頬をつねられる。

 小っ恥ずかしいけど、2人のこういう空気はほんとにデートみたいでこの時間が永遠に続いてほしい。


「ごめんごめん、久しぶりで楽しくなっちゃって」


「むう…そんなこと言うなら天音ちゃんがこれ着てみてよ!」


「はぇ!?わ、私はいいよ!」


 いつも着ないワンピースを必死で拒否するものの恋歌の押しが強くて試着室まで連行される。

 なんか珍しく墓穴を掘ってしまったかも…?


「ほら〜、早く早く」


「ちょ、急かさないでよ!初めて着るから慣れてない…」


 まだ見られてないのにカーテンを挟んだ先に恋歌が待ってるのを想像すると身体中が沸騰するみたいに熱くなる。


「……お待たせ致しました」


「か、かわ…!」


 やっぱりだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。

 ていうかまじまじと見られると…下もいつもジーパンだからスースーして落ち着かない。


「これ、似合わないでしょ…脚めっちゃ出てるし落ち着かない」


「そんなことない!めっちゃ可愛い!なんというか!…えと、犯罪的!」


「犯罪的!?」


 なんかめちゃくちゃ絶賛されてる…素直に喜んだらいいのかもしれないけど、恥ずかしさが今のところ勝ってる…。


「ねぇ?もうこれ脱いでいい?…」


 カシャ


「は?えっ!ちょっ!?何撮ってんの!?」


「可愛いからいつでも見返せるように保存しとこうと思って」


「や、やめてよ恥ずかしい!」


 私のワンピース姿、そんなにいいものかな。

 恥ずかしいけど恋歌にここまで褒められたら悪い気はしないかも?


「じゃ、じゃあこれ買っちゃおうかな?」


「うん!」


 恋歌の押しに簡単に折れてしまう私。でも稀に見る興奮具合の恋歌が可愛いしいっか。


「ていうか、服でわちゃわちゃやってるけど、水着も見るんでしょ?」


「はっ!そうだ、天音ちゃんが可愛すぎるから忘れてた」


「えぇ…」


 もう、私ばっかり恥ずかしい思いしてなんか悔しい。

 ていうかあのワンピ、恋歌に着せるために選んだのに、カウンター大きすぎない?


 こうなったら恋歌の水着は私が選んで恥ずかし返しを…!





 それから軽く2人の服を何着か選んでからついにお待ちかねの水着選びに。


「水着、水着、さすがに際どすぎなのは恋歌嫌がるだろうし、私もあんまり好きじゃないから落ち着いた感じの……はっ!」


「天音ちゃん?いいの見つけた?」


「見つけた…!さっきはカウンター喰らったけど今度は恋歌がこれ着てみてよ!」


「う、さっきの仕返し?…ドンと来い」


 なんか、思ってた反応と違うけどいつまで続くかな?


 と、言ったものの本当に犯罪をやってる気が拭いきれなくて無難なかわいい系を選んでしまった。

 私以外にえっ…魅力的な姿は見てほしくない。


「どう?着れた?」


「うん、開けるね」


「え?」


 シャーッと勢い良くカーテンが開き、恋歌の水着姿があらわになる。


「どう、かな?」


「…………こ」


 可愛い…というかもうなんというか、神々しい?

 自分でも何言ってるか分からないけどこれは犯罪的だ。恋歌の言ってたことがなんとなくわかった気がする。


「……今年は絶対水着デートしよ!」


「う、うん?」


 その後の記憶はほとんどなくなった。

 とにかく今言えるのは私は恋歌の魅力にやられたことと、今年はどれだけ忙しかろうと、必ず時間を取って2人で海に行こうと固く誓ったということ。

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