第9話 的中2

翌日、電車の中で開いたSNSには様々なコメントが付いていた。概ね預言が当たるのか、外れるかを楽しんでる内容だが


『1国の首相の対して失礼だ』

『こいつ調子のノったな。ハズレたら逮捕あるべ。ないか(笑)』

『1個人に対しての預言はあまり気分が良いものではない』


などのアンチコメントもあった。確かに調子に乗ってしまったかもしれない。まぁ、SNSだし外れて騒ぎにでもなったらアカウント作り直せばいいだろう。逆に今回の預言が当たってしまったら、俺はどうなるのだろうか。SNSで炎上するアカウントも多々見てきたが、一歩間違うと自分も炎上してまうのではないかと、達夫は少しだけ怖くなった。


会社に着くなり飯田が近づいてきた。預言の話だろう。

「首相の入院っていつなんですか?」

一応、周りには聞こえないように気を使ってか小声だ。周りの社員からは、熱心に仕事の打ち合わせでもしているように見えているのかもしれない。まさか、先日の預言騒ぎの張本人が、次の預言の話をしているなんて誰も思わないだろう。

「いや、日時までわからないよ。と、いうか今回は当たらないと思うよ。」

そう言うと飯田は残念そうな顔をした。

「まぁ、でも当たったら本物ですよ。期待してますって、期待しちゃダメですよね。僕、今の首相嫌いじゃなんで」

の日は、会議やら対応やらで忙しい1日だった。


預言から4日後の日曜日、達夫は妻と野球のテレビ中継を見ていた。達夫は特に野球に興味はないのだが、妻が自分の出身地を本拠地とする球団のファンで一緒に見るようになったのだ。ファンと言っても球団のエースピッチャーがタイプの顔ということだけらしい。それでもテレビ中継があるとだいたい観ている。


子供の頃は父親が必ずと言っていいほど野球のナイター中継を見ていたし、小学校の休み時間はカラーボールで野球をするのが当たり前の時代だった。その影響もあってかビールを片手に見始めると、これがなかなか面白い。定番の枝豆も欲しい。


7回の裏、妻のご贔屓ピッチャーが本塁打を打たれ逆転された瞬間に速報が流れた。


『高梨首相が都内の病院に緊急入院しました。病状について詳しい情報はありませんが、退院までは時間かかる見込みであり、首相を辞任すると発表』


達夫は持っていたビールの缶をテーブルに落としてしまった。テーブルの上で流れていくビールをただただ見つめていた。


靖子も同じようにビールの流れを見つめていた。


「また預言が当たってしまった・・・」


震えた手でSNSアプリを開く。”いいね”が恐ろしい速さで増えていく。靖子も真っ青な顔をしながらも、こぼれたビールを拭いている。


「当たったね・・・。なんだか怖いわ。」


達夫も全く同じ気持ちだった。スマートフォンに飯田からのメッセージが届いた。


『預言当たりましたね。本当に本当にホンモノじゃなですか。凄いですよ。明日、会社でいろいろ聞かせてください!!!』


聞かせろって、何を話せばいいんだよ。気が付けば野球は贔屓のチームがボロボロに負けていた。ただただ茫然としている間に野球の試合は終わっていた。贔屓のチームは逆転勝ちをしていた。


アプリの”いいね”は無限に増え続けるのではないかという勢いで数字が動いていた。

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