第7話 静寂
達夫の預言騒ぎから2週間が過ぎようとしている。達夫のアカウントへの反応は、さすがに落ち着いてきた。預言の投稿以降は、美味しかったカキフライの写真、休みの日に行ったキャンプの焚き火の写真、靖子が擦った車の傷の素人修復画像など、そんな日常の投稿を続けている。以前なら”いいね”は一桁だったが、今では軽く3000は超える。コメントもそこそこ付いていた。達夫はスマートフォンでSNSを見る時間が急激に増えている。昨晩も靖子に、早く寝るように小言を言われたばかりだ。
「さすがに預言騒動も落ち着いたみたいっすね。」
今日はコンビニで弁当など買ってきて、オフィスの席で昼食だ。隣には飯田が菓子パンを齧りながらPCのキーボードを叩いている。『PCの近くで飲食しないように』IT部門としてアナウンスしているのだが、実のところは、当の本人達が守っていないのだ。
「先日、吉岡さんがリポストしてくれた僕の投稿。あれも結構”いいね”もらっちゃいましたよ。吉岡さん効果凄いっすよ。」
飯田とは相互フォロワーで、飯田のIT技術周りの投稿が面白かったので達夫がリポストしたのだ。あるマザーボードとCPU組み合わせで、そこに某メーカーのメモリを組み合わると、途端にPCが起動できなくなる。BIOSと呼ばれるプログラムのバージョンを、下げるとなぜか動くのだ。この事を飯田は趣味の範囲で休日に調べて投稿したのだ。
「いやいや、飯田くんのスキルがちゃんとしてるからだよ。」
飯田のスキルが高く興味深い内容だったから反応も多かったは間違いないけど、フォロワーが多い俺がリポストしたことも影響しているだろろう。達夫は、少し誇らしげな気持ちになった。
「で、次の預言はいつですか?」
ニヤニヤと飯田は続ける。
「投稿するの前に、こっそり僕にだけ教えてくださいね。預言が降りてきたら。」
あの騒ぎから、飯田はこの調子だ。預言者の正体を知っているのは、靖子と飯田だけだ。その事が飯田にとっては余計に面白いらしい。
「いや、もう預言なんか無いよ。あれは、たまたま。」
何度も言っているのだが、面白がって次の預言を、次の預言をと聞いてくる。
実際、あれ以降耳鳴りは治まったのか『ジィージィージジジジジジジ・・・』という音は聞こえていない。耳鳴りは困るが、次の預言があるなら耳鳴りも多少は我慢できるかも。このままでは、フォロワーも減るだろうし、”いいね”も減っていくのだろう。達夫は少し寂しい気持ちになった。もう1度くらいSNS上で騒がれてみたい。あの興奮を味わいたい。
「あ、こんな時間か。酒井部長のところに行かないと。遅れると機嫌悪くなるからなぁ。また俺が話をするから、作業のほうは飯田くん、頼むよ。」
そう言って、デスクの上を片付けPCを手に二人して酒井部長の元へと向かった。
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