第6話 注目

電車に乗って1駅過ぎたところで目の前の席が空く。座っていてたのは、大きなリュックをパンパンにした、坊主頭がすがすがしいスポーツ少年だった。部活帰りの高校生だろうか。空いた席にすかさず座りSNSのアプリを開いてた。


昼間に見たような”いいね”の数が凄まじい勢いで増えていく様子は止まっていた。さすがに打ち止めなのか、それとも万単位の数になっているので数字が増えているのが見えないだけなのかもしれない。リポストも似たようなものだ。


コメントにも目を通す。


『これヤバくね?』

『マジもんの預言者じゃん』

『俺、山形県人だけど預言のおかげで生き延びたわ(笑)』

『ついにホンモノが現れたな』

『この前の預言者より正確だよな、すげーわ』


似たような内容のコメントばかりだが、これだけの大量のコメントをされた事のない達夫は時間を掛けてでも全てに目を通そうと頑張ったが追いかけきれない。気が付くと、電車は自宅の最寄り駅に到着していた。慌てて降車した。


「おかえりなさい!SNS凄いことになってるわね。」

靖子は目をキラキラさせながら自分の事のように舞い上がってる。昨日の預言を言葉にしたのは靖子だったし、SNSで話題になっている事が嬉しいのだろう。

「スマホの通知切ったよ。ずっと鳴りっぱなしだったから。」

靖子は夕飯の準備をしながら言った。

「後でじっくり話を聞かせてね。とりあえず夕飯にしましょう。」


夕飯は焼き魚と味噌汁、白米を中心とした和風のメニューだった。最近腹回りが気になるので脂っこいものを避け魚や野菜を中心としてメニューしてもらっている。でも、原因はビールだろう。これだけは止められない。苦し紛れに糖質オフのビールにしているが、本数が増えれば変わらないだろう。結局、預言の事もあり、気分がいいのでビールも2本目突入した。


靖子に”いいね”だけではなく、大量のDMも来ていることを伝えた。

「一躍、時の人じゃない。夕方のテレビでも流れてたわよ。預言者現るって。取材のDMを送ったが今のところ返答はないって。返してないの?」

慌ててスマホのDMを見てみる。山形の放送局から取材の申し込みがきていた。その他にも普段から見ているニュース番組などからもDMが来ていた。

「俺、超有名人だから、しばらくは取材お断りだな。」

達夫は冗談半分に勝ち誇ったように言った。実際のところ、これで取材なんか受けたら大変だ。自分は預言者でもなんでもないのだから。


「ねー、とりあえず何か投稿しておいた方が良いんじゃない?」

確かにそうだな。こういうことに関して靖子はとても気が利く人間なのだ。


『皆様、たくさんの反応ありがとうございました。まずは被災された山形にお住まいの方々、どうかご安全にお過ごしください。今回、たまたま当たっただけで、私は預言者などではありません。これからも、くだらない投稿になりますが、よろしくお願いいたします。』


こんなもんでいいか。続けて


『DMで取材のお申込みいただきましたが、今回だけの事なのでお断りさせていただきます。お声を掛けていただきありがとうございました。』


投稿ボタンをタップした瞬間にも、”いいね”の数が増加していく。80人にも満たなかったフォロワーが、今では6000人を超えてる。


『世預言者キターーーーーー』

『この預言者さん丁寧だろ』

『次の預言待ってます』


コメントも次々と書き込まれる。なぜか以前に投稿したエビフライの写真にも”いいね”とコメントが大量に付き始めてるている。不思議なものだ。いつまでも追っていたら朝になりそうなので、アプリを閉じ、眠りにはいった。ぐっすり眠れそうだ。

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