第3話 預言1

「ただいま。」21時過ぎに帰宅した達夫は、カバンを放り出しリビングに入ってきた。靖子は夕飯を待っていてくれたようだ。

「先に食べてて良かったのに。」

冷蔵庫からビールを取り出しながら靖子に言う。

「私も結構遅かったのよ。正子サマがあれこれ始まっちゃって。」

正子サマとは靖子の会社のお局様のことだ。基本的には良い人らしいが、何か間違った事や問題が起こると徹底して解決するまで残業してても仕事を終わらせるのだ。靖子は結婚前か、雑貨を取り扱う小さな問屋のような会社に勤めている。靖子もそろそろお局様の領域じゃないかと、達夫は密かに思っているが口には出さない。

「そっか、お疲れだったね。」

二人で軽くワインで乾杯をして夕飯を食べた。


風呂も済ませ寝室でのんびり涼んでていると、昨日のようにまたジィージィージジジジジジジと耳鳴りのような音が聞こえてきた。またかよ、こりゃ病院行かないとダメかもな。達夫は病院が大嫌いなのだ。病院に行って病気と医者から告げられると、途端に重病みたく具合が悪くなる。だからなるべく病院には行かないようにしているのだ。

「ジィージィージィー・・・アシ・・・ジジジジジジジ・・・タンノ・・・ジィー・・・・ジジジジジジジ・・・14ジニン・・ヤマガ・・・ジィージィー・・・タデー」

達夫はジィージィーという耳鳴りから何かが聞こえたような気がした。注意深く耳鳴りを聞いてみる。

「ジィージィージィー・・・アシ・・・ジジジジジジジ・・・タンノ・・ジィー・・・・ジューヨージニン・・ジジジジジジジ・・・ヤマガ・・・ジィージィー・・・タデー・・・ジヒン・・・シンドウ・・・ジィーゴー」

なんだ?ジィージィーという音の途中に何か聞こえるような気がする。

「ねー、何をそんな怖い顔してんのよ」

寝室に入ってきた靖子が言う。

「いや、また耳鳴りなんだけどね・・・」

「あら、明日にでも病院行ったら?って、あなた病院嫌いだもんね。」

靖子には病院嫌いはバレている。


「いや、それがさ、なんか耳鳴りの合間っていうの?そこに耳鳴り以外の音というか、声みたいのが何か聞こえる気がするんだよ。ちょっと書き出しみよう。」

そういって、スマートフォンのメモ帳アプリを開いた。

「ジィージィージィー・・・アシ・・・タンノ・・ジィー・・・・ジューヨージニン・・ヤマーガ・・・ジィージィー・・・タデー・・・ジヒン・・・シンドウ・・・ジィーゴー」

耳鳴りに集中する。ジィージィーという音以外の声に聞こえる部分をメモ帳に入力してみる。

『アシタンノジューヨージニンヤマーガタデージヒンシンドゥゴー』

入力してみたが言葉の意味はわからない。声に出して読んでみる。

「アシタンノジューヨージニンヤマーガタデージヒンシンドゥゴー」

隣で聞いていた靖子が言った。

「ねぇ、もうちょっと早口で言ってみて」

達夫は言われた通り少し早口でなんどか声に出してみた。

「わかった!明日の14時に山形で地震。震度5。じゃない?ちょっとした預言みたいじゃん。なーんて、そんな訳ないよね。」

靖子はたまに突拍子もない事を思いついたりするのだ。


「預言か。面白いな。そうだ、ちょっとSNSに投稿してみよう。」

今朝見かけた”いいね”を大量にもらっていた投稿者の事を思い出したのだ。達夫は早速SNSに投稿した。

『預言が降ってきた。明日の14時に山形地方で震度5の地震あり。気を付けてください。当たりませんように(笑)』

投稿を済ますと耳鳴りは治まってきた気がする。冗談でも地震なんか来るなよ、そう思いながら達夫は眠りについた。

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