第14話 ミッドナイトティーパーティー

 消灯時間を過ぎてから、アイネはエレーナの部屋へ向かった。


 夜中にこっそり他人の部屋を訪れるなんて初めての経験だ。背徳感を抱きながらも、部屋の扉を小さくノックした。


「アイネです」


「入って」


 扉を開けると、可愛らしいネグリジェに身を包んだエレーナがお出迎えしてくれた。


「お邪魔します」


 緊張しながらも部屋に入ると、ふわりと甘い香りに包まれた。


 甘い香りの正体は、紅茶とお菓子だ。部屋の中央に置かれていたテーブルには、三段のケーキスタンドと花柄のティーセットが置かれていた。


「エレーナ、これは?」


「ミッドナイトティーパーティーよ。昼間はゆっくりお話しできないでしょう? だから夜中にお菓子を囲んでお喋りしようと思って」


 エレーナは口元に手を添えながら悪戯っ子のように笑う。エレーナの意図を知ったアイネもつられて笑った。


「なるほど、お誘いありがとう」


 エレーナに誘ってもらったことは素直に嬉しかった。アイネもエレーナとはもっと話をしたいと思っていたから。


 エレーナに促されて椅子に腰かける。お菓子と紅茶を囲みながら、二人はお喋りを始めた。


「アイネ。学園生活はどう? 大変じゃない?」


「それなりに楽しくやってるよ。心配しなくても大丈夫」


「ルイスには何かあったら守ってあげてほしいとは伝えたんだけど、役に立っている?」


「ルイスに守ってもらった記憶はないけど、仲良くはやっているよ。抜けているところもあるけど良い人だよね」


「そうなの! ルイスはお馬鹿でお調子者だけど、根はいい子なの! 時々男らしいところもあるし!」


 食い気味でルイスを褒めるエレーナを見ていると、微笑ましくなる。


「エレーナとルイスは、仲が良いんだね」


「そ、そうね。昔から一緒に育ってきたから」


 エレーナは恥ずかしそうに視線を泳がしながら紅茶を含んだ。


「だけど、最近はちょっと微妙なの。私が悪いんだけど……」


「どういうこと?」


 アイネが尋ねると、エレーナは視線を落としながら答えた。


「最近ルイスに冷たく当たってしまうことが多いの。多分、嫉妬しているんだと思う」


「嫉妬って、何に?」


「魔法学園に通っていること」


 視線を落としたまま、申し訳なさそうにネグリジェの裾を掴む。アイネはエレーナの言葉に耳を傾けた。


「私もね、光の魔法使いの加護を受けているの。でも魔法学園に通えるのは男の子だけじゃない? 魔法学園で楽しそうにしているルイスを見ていると、ずるいって思ってしまうの。仕方のないことだって頭では理解しているんだけどね」


 エレーナは溜息をついてから、小さな声で本音を漏らした。


「本当はね、私も魔法のお勉強がしたいの」


その言葉は、他人事には思えなかった。エレーナも自分と同じだと気付いた瞬間、親近感が沸いた。堪らなくなって、エレーナの瞳を見つめながら両手を握る。


「分かるよ。その気持ち」


 熱を込めて共感すると、エレーナは小さく微笑んだ。


「アイネなら分かってくれると思った」


 エレーナとの距離が縮まった気がした。エレーナは紅茶を一口含んでから話を続ける。


「アイネ、聞いてもいいかしら?」


「なに?」


「どうして魔法学園に通っているの?」


 こんなに直球で聞かれるとは思わなかった。アイネは言葉に詰まらせる。


 はぐらかすことはいくらでもできる。だけど純真な瞳で尋ねるエレーナを見ていると嘘をつくのは不誠実に思えてきた。アイネは意を決して、心の内を明かす。


「夢があるの。いつか誰でも通える魔法学校を作りたいって。そのために学園で勉強しているんだ」


 自分の夢を人に明かすのは勇気がいる。本気であればあるほどに。内心では震えていたが、エレーナは否定なんてしなかった。


「それ、すっごく素敵!」


 エレーナは身を乗り出してアイネの手を握る。ライトブラウンの瞳が宝石のように輝いていた。


 思い切って打ち明けたけど、ここまで興味を示してもらえるとは思わなかった。自分のやろうとしていることが、求められていることなんだと分かって嬉しくなった。


「私、アイネの夢を応援する! 私にできることがあれば、何でも言ってね!」


 エレーナから熱い視線を向けられる。アイネは力強く頷いた。


「うん。ありがとう」


~❀~❀~


 学園生活にも馴染めて、エレーナにも夢を応援してもらって、何もかも順調に行っているように思えた。


 そんな矢先、重大な事件が起こった。

 エレーナがゴーストに襲われて、意識不明の状態で運ばれてきた。

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