第13話 初めてのテスト
「なあ、アイネ。またゴーストが出たらしいぜ。怖いよなー」
「そう。大変だね」
机の前にしゃがみ込んで話しかけてくるルイスを素っ気なくあしらう。まるで興味を示さないアイネを見て、ルイスはムッと口を尖らせた。
「全く興味ないのな、つまんねー」
なんとでも言えばいい。実際興味がないのだから。
ルイスはゴーストに襲われた生徒がいると騒いでいるが、誰が襲われたかまでは分かっていない。生徒が襲われとなれば、もっと大事になるはずだ。騒ぎになっていない時点で、噂は噂でしかないのだろう。
「アイネ、何の本読んでんの?」
「魔法医術の本。知ってた? 魔力って他者にも分け与えるんだって」
「どうやって分け与えられるの?」
「もっとも簡単なのは口移しだって書いてある」
「口移しってキスのこと?」
「じゃない? 人工呼吸と同じ要領だと思う」
「へー……」
ルイスは興味の薄い反応を見せる。ゴーストなんかより、こっちの方が有益で面白いのにと思いながらも、それ以上は話を広げることはしなかった。
休み時間の終了を知らせる鐘が鳴ると、魔法史の教師が教室に入ってくる。
「先日実施したテストの採点が終わった。今から返却する」
教室内に「うわ……」と沈んだ声が溢れる。憂鬱そうにしている生徒が大半だったが、アイネはあまり悲観していなかった。リヒトに勉強を見てもらったおかげもあり、初回のテストは手ごたえがある。
「まずは成績上位者を発表する」
教室内に緊張感が走る。魔法史の教師は教室内を一周見渡してから、一位の生徒の名を挙げた。
「一位、アイネ・ブラウン」
アイネは目を丸くする。手ごたえはあったが、まさか一位になれるとは思わなかった。
クラス内からは「スゲー」「流石リヒト様の弟」と賞賛の声があがる。みんなから注目されると気恥ずかしくなった。
その一方で、ライアンは悔しそうに表情を歪める。
「あいつが一位? この間まで落ちこぼれだった奴が?」
嫉妬にまみれた言葉が飛んできたが、気付かないふりをした。
「二位、ライアン・アストン。一位とは僅差だな」
二位だったことがよっぽど不服だったのか、ライアンは盛大に舌打ちをした。
~❀~❀~
昼休みになると、リヒトが教室に飛び込んできた。
「アイネ! 聞いたぞ! テストで一番だったんだって?」
一体どこから情報を聞きつけたのか? ギョッとしていると、リヒトはアイネのもとに駆け寄ってきた。
「凄いじゃないか! それでこそ僕の弟だ!」
リヒトはわしゃわしゃとアイネの頭を撫でまわす。クラスメイトの前で大騒ぎするのはやめていただきたい。
「リヒト様、やめてください」
「ああ、すまない。嬉しくてつい」
リヒトは頬を緩ませたまま謝る。アイネは「まったく」と溜息をつきながら、乱れた髪を整えた。
素っ気ない態度を取っているが、リヒトから褒められたのは正直嬉しい。いつも勉強を見てもらっていたから、結果を出したことで恩返しができたような気がした。
「一位になれたのはリヒト様のおかげです。ありがとうございました」
素直にお礼を告げると、リヒトは表情を輝かせる。
「そうか! 僕のおかげか! ならばこれからも、どんどんお兄様を頼りなさい!」
リヒトは、トンと胸を叩きながら宣言する。調子が良いなと思いながら、アイネは苦笑した。
~❀~❀~
「アイネ、聞いたわよ! 試験で一番だったんですって?」
寮に戻ると、エレーナが目を輝かせながら飛んできた。こっちも一体どこから情報を仕入れてきたんだ?
「エレーナ、落ち着いて」
「落ち着いてなんていられないわよ! 今日はお祝いをしましょう!」
エレーナはアイネの手を取りながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。無邪気にはしゃぐ姿は、とても可愛らしい。
一緒に寮に戻って来たリヒトは、アイネとエレーナが手を取り合っている姿を見て足を止める。しばらくはピシッと石のように固まっていたが、我に返ると二人の間に割って入ってきた。
「エレーナ嬢。僕の弟に気安く話しかけるのはやめてくれないか? 彼が惚れてしまったら大変だ」
顔は笑っているが、背後にはどす黒いオーラが漂っている。おかしな誤解をしているのは明白だ。
訂正をしようとしたところ、エレーナがむくれた表情でリヒトに抗議する。
「私だって、アイネと仲良くしたいんです。お話する時間を頂いたっていいじゃないですか?」
「駄目だ。二人の交際は認められない」
エレーナとリヒトはバチバチと睨み合う。間に挟まれたアイネは、困ったように目を細めた。
(色々おかしなことになっているな)
どうしたものかと悩んでいると、エレーナがアイネの耳元に顔を寄せてこっそり囁いた。
「ここだと邪魔されちゃうから、消灯時間が過ぎたら私の部屋に来て。私、アイネともっとお話しがしたいの」
内緒話を終えると、エレーナはぱちんとチャーミングにウインクをする。その愛らしさに、同性でもキュンとしてしまった。
アイネが無言で頷くと、エレーナは「やった!」とガッツポーズする。
「それじゃあ、またあとでね」
エレーナはひらひらと手を振りながら調理場へ走って行った。可愛らしい背中を眺めていると、リヒトから真顔で肩を掴まれる。
「駄目だからな。不順異性交遊は」
やっぱりおかしな誤解をしている。リヒトが心配しているようなことなど、起こるはずがない。
「しませんよ。不順異性交遊なんて」
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