第15話 マロンさんは寮長!?

 食材争奪戦でたくさん移動したし頭もつかって疲れているのに、今日はなかなか眠れなかった。だって、だって……とんでもないことに気づいたかもしれなくて。それで興奮して何度も寝返りばかり打った。

 臨時チームで夕食の準備をしている時だ。マハ隊長とユメカ副隊長の会話が耳に入ったんだけど、内容はマハ先輩と彼女について。

 恋バナは興味ある。そんでもってマハ先輩の彼女って女子寮の寮長だから、聞いていてなんだかニヤニヤしてきた。ユメカ先輩と寮長は仲が良いみたい。まあそうだよね。しょっちゅう門限ギリギリまで女子寮の部屋に来てるみたいだし。 

 それで、まあいろんな話題が出てたんだけど——寮長の誕生日がもうすぐだから、何をプレゼントするか考えていたみたい——そこで入手した情報のせいで、わたし眠れなくなってるの!

 寮長ってバレエを習ってたんだって。あとリスを家で飼っているそうだ。名前はマロンちゃん。ねっ、こんなのこんなの興奮せずにはいられないよ。だってブログのマロンさん、ファンで大尊敬のマロンさんって、もしかして寮長だったの!?

 いやいやいや。落ちつけ。マロンさんって二年前に入隊してるから、わたしの二個上のはず。だから今、十三か十四歳だ。あの大人っぽくて色気ムンムンの寮長が十四歳とは思えないよ。それに寮長は年長者がするって聞いてるし。

 だけどマロンさんの予想年齢は、ブログにあったプロフィールによる情報から考えただけ。だから身バレ防止のために、わざと入隊時期をごまかしている可能性だってある。


 マロンさんはわたしが合格した日、「サザンクロスで会おう!」ってメッセージをくれた。でもあれからコメントのやり取りは続いているけど、リアルで会ったことはない。け、ど!

 もしもマロンさんが寮長なら……? サザンクロスで会おうって意味もわかるかも。だって女子寮の寮長だもん。すぐ会える。で、でもでも、でもさ。それでもわたしには耳打ちで良いから「わたしがマロンだよ」って教えてくれてもいいんじゃ。うううううう、どうなんだろ、ちがうのかな、そうなのかな、マロンさんなのかな? ちがうのかな?? マロンさんってマハ隊長と付き合ってる? そうなの??? ラブラブなの?????

 で。なかなか眠れない。

 考えれば考えるほど眠れなくなった。それでつい行動に出てしまった。

「ホタルちゃん、起きてる?」

 ベッドに入ったまま、そっと声をかけてみる。返事なし。そ、そっか、寝てるよね。もう消灯してからけっこう経つと思うし。わたしも早く寝よ!

「……どうしたの?」

 うきゃーっ、起こしちゃったかな!??

「え、あ、あのね」

「うん」

 ちょっと迷ってから、いそいそベッドから出る。ホタルちゃんも起き上がると、手もとの灯りをつけた。

「すごく、くだらないことなんだけどね」

「怖い夢でも見た? おばけとか?」

「えーとね。うんとね」

 真剣に心配してくれている。どうしよう。なぜ夜中のこの時間にホタルちゃんに呼びかけたのか、自分でもアホらしくて恥ずかしくなってきた。

「ごめんね、眠れなくて。その、うっかり声が出たというか。起こしたよね?」

「ウトウトしてただけだから」

 いや、そんなことないよ。今日は特に疲れる訓練したあとだもん。へとへとでぐっすり眠っていたはずだよ。ごめんね。

「たいしたことじゃなくて。でも気になって眠れなくなって……そのーあのー」


 わたしは隊長達の話を聞いて推理したマロンさんの正体についての話をホタルちゃんにした。ホタルちゃんはポヤポヤした表情で(眠いよね、ごめん)耳を傾けてくれた。

「そうだね。うん。ミノリちゃんってマロンさんとメールする仲なんだね。すごいな」

 しっ、しまったぁあああ!!

 流れで秘密にしようとしてたことまで、べらべらしゃべっちゃった!!!

「うあっ、えーとっ、うん。合格祝いとか、ちょっとした相談とか、ちょっとね、たまーにちょこっとメールくれるの。マロンさんやさしいから。わたし、熱心なファンだし、それで親しくなった感じかな。ホタルちゃんは見る専門だもんね。そ、そうなるとメールする仲にはなれない……っていうか、そのー、わたし、運が良くて。あっ、リスのスタンプ見る?」

 しどろもどろでいたけど、こっくりこっくりとホタルちゃん。寝てる。座ったままで頭がユラユラしている。

「ホタルちゃん、起こしてごめんね。ほら、もう寝て良いよ、ごめんね、おやすみ」

 ホタルちゃんをゆっくり寝かせてフトンもしっかりかけてあげて。

 わたしは静かにベッドに戻った。フーッ、やれやれ。落ちつけミノリ。とりあえず寝よ!


★★☆

 ホタルちゃんは夜、話したことを覚えてなかった。よ、よかった、の、かな?

 寮長がマロンさんかもって謎は、とりあえず胸に秘めておこう。

★★☆

 またお風呂から出たら二階からマハ隊長が駆け下りてきた。

 寮長のところにいたんだね。

 ……寮長、マロンさんかな。マハ隊長と付き合ってるのかな。

 気になりすぎて、お風呂上りの牛乳でむせちゃった。ハア。

★★☆

 リナちゃんに、「最近ようすがおかしいよ?」と言われた。寮長に話しかけられるとオドオドしているからだって。ホタルちゃんもチーム練習の時、「隊長と何かあった?」と心配してくれた。挙動がおかしいんだって。

 カノコくんにも言われた。お前、変だぞ?

 ……マロンさんに直接、聞いてみることにした。

 って言っても寮長に話しかけるんじゃなくて、メールするんだけど。

『マロンさんってカレシいますか?』

★★☆

 びっくりしすぎてバレリーナのヘアバンドが吹っ飛んでいるリスのスタンプが送られてきた。コメントはこちら。

『カレシっ!? いないですけどっっっ!???』

 なーんだ。寮長説、ハズレか。……でもマハ隊長と別れた可能性もあるな。

★★☆

 今日の訓練でのろけてたから、寮長と隊長はまだ付き合っているみたい。

 なんだ。なーんだ。マロンさんはべつの人か。ホッ。

★★☆

 ……でもまだ疑ってるよ。マロンさん、恥ずかしくてごまかしただけかもだもん。この話は結論は出さないでおく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る