第14話 食材争奪戦で夕飯を作った

 仲良し四人組で大浴場を出てキッチンに行くところで、また二階から駆け下りてくる男子に遭遇した。よく知っている先輩。臨時チームのマハ隊長だ。そんでこの人、寮長のカレシ。隊長は飛ぶように走り去ろうとしてたんだけど、わたしとホタルちゃんに気づいて急ブレーキした。

「あっ、二人とも明日の訓練もよろしくな!」

 じゃっ、とこっちが返事する間もなく猛ダッシュ。

「おもしろい隊長だね」とリナちゃん

 うーーん、訓練のときは頼りがいのある人に見えるんだけど。転がるように下りてきてピューッて去っていく隊長は、たしかに面白い人だった。


★★☆

 今日のチーム訓練は食材争奪戦だった。

 300問あるクイズに答えて表示される場所に食材が隠してあり、それを集めて今日の夕食を作りなさいって訓練だ。

 300問のクイズってたくさんあるように感じたけど、各チームがいっせいに問題を解くから、ゆっくりしていると夕食抜きのチームも出てくるかもしれない、って。隊長と副隊長がそんなこと言うからソワソワした。

 だって今日は前の授業の片付けに手間取っちゃって、小さいコロッケパン一個しか食べてなかったんだもん。スタートの合図の時から、お腹に余裕がたっぷりの状態。このまま夕食なしだと腹ペコすぎてひもじくなるよ。

 隊長が持っているタブレットに、獲得済の食材と場所が表示されるから、せっかく問題を解いたのに行ってみたら空振りって失敗はないみたい。でも次々と「済」のスタンプが表示されるからあせってしまう。みんな問題を解くの早すぎっ。まだスタートしたばかりなのに!

「どの問題を解けば何が手に入るか、最初からわかってるんですか?」

 ハツセくんが隊長に質問する。

「無理」と答えたのは隊長じゃなくて、カノコくん。

「問題を解いたら食材がある場所がわかるだけ。何があるか行ってみないとわからない」

 支給されたクーラーボックスに腰かけてだるそうにしている。夕食がかかっているのに本気を出すつもりはないようだ。

「まずは簡単なのから行ってみるか」マハ隊長がはりきった声を出す。

「ハツセ、この問題の答えならすぐわかるだろ?」

 で、ハツセくんは即答。言っておくけどわたしだって答えられたよ。

「サザンクロス探査隊のシンボルマークはどれが正解?」だもん。超簡単。メビウスの輪とその周りに小さな星が四つ。三つの絵から正解を選ぶものだったけど、どれかなんて聞かれなくても自分で描けって言われたとしてもすぐに描けたよ。


 でも簡単な問題だけあって手に入ったのはカツオ節だった。しかも小分けパックが一袋だけ。男子寮の談話室にあるロッカーの中にあったんだけど、チーム六人分の夕食には絶対たりないよ。でも、ばったり出くわした猫ちゃんチームの隊長が、「カツオ節は入手したいです、交換しましょう!」とネギ一本と交換してくれた。ルールで物々交換はオッケー、我々はネギを入手したぞ!

 それからは、わたしが解いた問題でコーンの缶詰一個、ホタルちゃんの正解でトマト一個を入手した。コーンの缶詰は花だんのポールの上、トマトは食堂の職員さんのエプロンポケットの中だった。

「この調子だと、まともな夕飯になりませんよ。ガツンとしたものは手に入らないんですか?」

 不満げなハツセくんが隊長の持つタブレットをのぞき込む。で今回も答えたのは隊長じゃなくてカノコくん。

「難易度の高い問題を解けば、主食が手に入る。米とかパンとか」

 と言ってるそばから、ピコンって音。

「お、米は取られたな」と隊長。

 済のマークが表示されたみたい。済の場所をタップすると何の食材を入手したのかもわかる。今回は職員室の机の上で、米とあった。

「うわっ、じゃあ絶対パンを入手しましょう、難しい問題ってどれです、すぐ考えないと」

 あせるハツセくんに、カノコくんはバカにした笑いを漏らしている。この人、一食くらい抜いても死なねえとか言い出すタイプ? わたしはイヤです!!

 すると副隊長のユメカ先輩が言う。

「お米は取られても、冷凍ご飯や、ごはんパックとかまだ残ってるはずだから。米だと宅前の生米なんだよ。前は玄米ってのもあった。ね?」

 隊長が「そうそう」と笑っている。

「精米してあるだけマシ、ってか」とカノコくん。

「んで」と隊長が仕切りなおした。

「難しい問題、挑戦するか? 主食はやっぱ欲しいもんなあ」


★★☆

 手分けして食材を手に入れることになった。それで女子チームと男子チーム分かれよう、ってユメカ先輩。

「うへ、そっち楽じゃん」とマハ隊長。だって、あっちカノコくんとハツセくんだもん。今だってにらみ合ってるし。ユメカ先輩は「マハくん、がんばってー」と笑っている。

 ユメカ副隊長のタブレットにもクイズのデータを送り、もうひとつクーラーボックスをもらってくると準備完了。女子チームは中級問題をクリアして、着実に食材の数を増やしていくことにした。

★★☆

 中級問題、むずかしいよ。わたしはひとつもわからない。

 でもホタルちゃんがパズル問題をクリアしてくれたから、新たな食材が手に入った。美術室でアボカドをゲット!

★★☆

 作戦変更。初級でコツコツ食材集めした。スライスチーズはなかなか良かったと思う。三枚あったから。味付け海苔一袋にはがっかりしたな。五枚しか入ってないから、六人だとケンカになるよ。

 でも校舎を移動してたらリナちゃんとモエちゃんがいるチームとすれちがった。おもちをゲットしたんだって。それで、モエちゃんが「海苔欲しい!」って言うから、しめじと交換した。ぺらぺらの五枚と一株分の交換だから得したと思う。

★★☆

 男子チームに連絡してみたけど、まだ収穫ゼロだって! 何やってんだか。

 上級問題にこだわりすぎて動けないでいるみたい。せっかくわかったと思ったら、先を越されたのもあるとか。

「ハツセのせい」とカノコくん。向こうでケンカがはじまり、隊長の「まあまあまあまあ」ってなだめる声が聞こえてきたところでユメカ先輩がプツンって通信を切っちゃった。

★★☆

 奇跡が起こった。上級問題が解けた。わたしが解いたんだよ!

『トキタ育成本部長がサザンクロス隊員だった頃、大切にしていた言葉は?』

 ハイハイハイ!!!!!!

「無茶をしない、焦らない、冷静でいることが大事!」

 セキヤおじさんがノートに何度も書いていた言葉だ。昔、同じチームだったトキタさんもそうかも、って答えてみたら大正解。やったー!!


 育成本部長室に行ったら、トキタさんがいてローストビーフを手渡ししてくれた。クーラーボックスにしっかり保管するよ。トキタさんはわたしを見て、意味ありげな笑みを浮かべた。思わずセキヤおじさんのノートのことを話しそうになったけど、この人にはシルビアちゃんの件でうらみがあるから、他人行儀にえしゃくして終わり!

★★☆

 男子まだ収穫ゼロ。この役立たず!!

 隊長、ハツセくんにばかり任せないで、何かゲットしてください!!

★★☆

 終了時間が近くなってきたから、男子チームと集合した。

 わたしたちがローストビーフを自慢すると、カノコくんが「こっちにも弾はある」と、もったいぶった仕草でクーラーボックスを開けた。中から出てきたのは……。

「パックご飯六人分」

 ハツセくんは「ぼくが正解したんだ」と自信満々だったけど、よくよく話を聞くと、カノコくんがちょっと強引に他のチームと交渉してマカロニの乾麺と交換したみたい。

 そのマカロニは中級問題でゲットしたらしいよ。ハツセくん、「正解は正解だ!」と真っ赤になってたけどね。女子には言わない約束だったみたい。あーあ、またケンカしてるよ。


★★☆

 夕食はローストビーフ丼になった。アボカドにしめじも乗せてあるよ。サラダにトマトとスライスチーズ! デザートは残りの食材を使って隊長が謎のジュースを作ってくれた。真緑だったけど、飲めなくはなかった。どうなるかと思ったけど満腹になってよかったー。

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