第13話 マロンさんの聖地がたくさんあった

 今日の授業中、とんでもない発見をした。今まで思いもしなかったのがおかしいんだけど、敷地内をじっくり見る余裕がなかったんだろうな。ともかく、びっくりして感激の悲鳴をあげそうになった。 

 マロンさんがブログであげていた写真の数々。そこに映っていた場所が、地区本部のあちこちにある!! うわああああああ!!!!

 今日の授業ってのが、地区本部の敷地内を歩き回って自分で地図を描く課題だったんだけど、あちこちうろちょろしているうちに発見したんだ。

 あの木! 一本だけドーン生えてる葉っぱが細い木(あとで調べたらネムノキだとわかった)。マロンさんがチームの仲間と集合写真撮ってた場所だ!!

 顔出しNGのマロンさんは、毎回画像の顔部分はリスのスタンプになってるけど、マロンさんはマロンさんなのだ。

 水色のベンチも知ってる。仲間とお弁当食べている写真があった!! 丸い花壇だって知ってるよ。ブログで何回も出てきた場所だもん。チューリップ咲いていたりサルビアが咲いていたり。今はオレンジのジニアが咲いている。

 わーわーわー!!

 あちこちに聖地がある!!!

 授業中だからなるべく呼吸を整えて大人しくしてたけど、興奮で地図を描く手が震えた。熱発火しそうなくらい体がカッカする。

 でもリナちゃんに「ねー、あれってマロンさんのブログでよく見かけるベンチだよね?」となるべくクールに落ちついて話しかけてみたけど、「えー、そうだっけ?」と反応はイマイチだった。

 まあ仕方ない。リナちゃんはブログを「たまに見る程度」。マロンさんのことは知ってるけどファンとは言えない。わたしみたいに更新がないか毎日チェックし、新着記事には必ず反応を示してコメントも書き込み続けてきたわたしとは、熟練度がちがう。

 今日もピンクのネイルが決まっているモエちゃんも、残念なことにあまりマロンさんに関心がないみたい。「マロンさん? 誰だっけ。聞いたことある気がする」ってさ。

「サザンクロス隊の日々をブログに書いている先輩だよ」と教えてあげたけど、「そーなんだー」って反応で、話題はすぐ変わっちゃったし。

 でもわたしは見たんだ。 ホタルちゃんのほっぺが赤くなって、目がキラキラしたのを。

 わかるよ、マロンさんファンなんでしょ。わかるよ!!


★★☆

 お昼はいつも四人で食べてたんだけど、今日はリナちゃんたち、臨時チームのメンバーで食べようって約束があるらしく、べつべつになった。

 リナちゃんとモエちゃんたちのチーム、全員、仲が良いんだって。どこかのチームみたいに、「どんくさい」や「ドベコンビ」とか言ってイジワルしてくる人はいないそうだ。まあリナちゃんたちは優秀だからかもしれないけど。でもケンカはないし、みんなニコニコで、毎回訓練で集まるのが楽しみなんだって。

 隊長は知的でかっこいいおねえさんだそうで、「あんな先輩になりたい!(とリナちゃん)」って人。副隊長はやさしくてカワイイ系のイケメンで「あんな彼氏がほしい!(これはモエちゃんが言った)」って人なんだってさ。

 いいなあ。うちのチームはさ……ハア。思わずホタルちゃんと顔を見合わせちゃうよ。

 もちろん、うちだって隊長と副隊長はカンペキだよ。かっこよくてやさしくて二人とも大尊敬できる先輩。でも他の男子二名がねー。エリートと合格者一位のはずなのに、チームの雰囲気を悪くするばっかりなんだもん。あのメンバーでお昼食べても、なーんにも楽しくありません!

 ……というわけで、ホタルちゃんと二人きりのランチだった。

 はじめてのことだ。それでわたしは思いついたんだ。これはマロンさんファンのしんぼくを深めるぜっこうの機会だ、って!

 それでお昼は売店でおにぎりとフライドポテトを買って、マロンさんがブログで座っていた例の水色のベンチに直行した。マロンさんもあのベンチでおにぎりとフライトポテトを食べていたからマネっこ。本当はそのあとマロンさんはシュークリームも食べていたんだけど、今日はそれはなしで。次の聖地に向かわないと行かないといけないから、まったりはしてらんないの。 

 で買ったおにぎりの具は昆布。ホタルちゃんは梅干し。マロンさんは何だったのかなあ。それはブログに書いてなかったからわかんないや。フライドポテトは二人ではんぶんこした。ばっちり写真も撮る。セルフタイマーにして二人でピース!

 そして移動して丸い花だんでもパシャリ。ネムノキでもパシャリ。校舎裏の階段でもパシャリだ。いっぱい撮った。「何してるの」と先輩や同期生に不思議がられたけど「授業の続き!」って説明した。う、うそじゃないもん。地図作りにも役立つからね。


 でもカノコくんと遭遇したのはびっくりしたな。「お前ら何やってんの」って。

 聖地の一つ、惑星を手玉に取る女神の像(本当は惑星を抱きしめてる像らしいけど、そうは見えない)があるコミュニティ広場Sにいた。マロンさんも手玉に取る女神像と同じポーズでバスケットボールを抱くポーズをとって写真を撮っていたから、そのマネをしようとしてたんだけど。

「カノコくん、ちょうどよかった。そのボール、借りてもいい?」

 カノコくんの足元にあるのはサッカーボール。お昼休みに遊ぶ予定でいたのかな。カノコくんって飛び級するだけあって頭脳だけじゃなく運動神経もいいから何でもこなしちゃうんだろうね。ハア、それに引き換え、どんくさ1号のわたしときたら……ってそんなことはどうでもいいんだ。

 サッカーボールはバスケじゃないけど似たようなものだ。借りたボールでさっそくやりたかったことをやる。カノコくんの視線は気になったけど、マロンさんと同じポーズでホタルちゃんに写真を撮ってもらうのだ。と、ボールは惑星だと役にのめり込んでいたら、カノコくんがまた口を挟んできた。

「何やってんだ?」

 あきれている。バカにしてるのかも。そのせいで、次はホタルちゃんの番だったのに「わたしはいいや」って写真撮るの、あきらめちゃったじゃん。

「マロンさんのマネ。わたしファンだから」

 ここは素直に言ったほうが話は早いと思ってそう言ったんだけど、カノコくんは食べていたチョコバーがのどにつかえたのかゲホゲホむせはじめた。

「誰のマネだって?」

「マロンさん。ファンなんだ」

 カノコくん、真っ赤だ。ゲホゲホしすぎて苦しいのかもしれない。大丈夫かな? 水飲んだら、と言ってあげたら「いいっ」と突っぱねてくる。

「カノコくんも、マロンさんのこと知ってるよね?」

 だって有名人だもん。

「知ってるも何も……、お前、本気でファンとか言ってんのか?」

「そうだよ、大好きだもん」

 それからマロンさんがいかに素晴らしいか、尊敬しているか、あこがれているか、理想の隊員像であるか、熱心に語っていると、「ストップ!!」と制止してくる。

「止めないでよ。ねえ聞いて。マロンさんって、とってもやさしくて」

「わかったから、もう黙れよ」

「黙れはないじゃんっ」

「うるせーんだよ!!! やさしいだ素敵だ、くだらねえ!! 同じサザンクロス隊員なのに、ファンとかおかしいだろっ。聞いててハズいんだよ、バーカ!!」

 バカですと!! なによ、フンッ!

 マロンさんの良さがわからないなんて、全然だめ、話して損しちゃいましたっ!


★★☆

 ホタルちゃんは一年くらい前にマロンさんのブログを知って、それからずっと更新を楽しみにしてるんだって。わたしと同じだ。でもコメントをしたことはないんだって。恥ずかしいみたい。そのへん、わたしはズカズカしてたかも。でもその結果、個人的にマロンさんとメッセージのやりとりをするまでになったんだけど。

 だけど、このことは、自慢に聞こえるかもしれないから、ホタルちゃんには話さなかった。マロンさんが送ってくれるかわいいリスのスタンプを見せてあげたかったけど、今は秘密にしておく。

 まだまだ敷地内にはマロンさんの聖地スポットが見つかるかもしれないから、また探そうねと約束した。今日はホタルちゃんと共通点が見つかってうれしかったなあ。


★★☆

 マロンさんに「同部屋のホタルちゃんも、マロンさんのファンです!」と送ったらすぐに返事があった。ポッとぽっぺを染めているリスのスタンプ。それからこんなコメント。

『ファンはやめにしなさい。同じサザンクロス仲間だよ!!』

 マロンさんって、謙虚だなあ。

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