第12話 作戦大成功だよ!
三試合して訓練は終了。一勝一負け一引き分けだった。 全勝した猫ちゃんチームは「にゃー!!」と丸めた手をつきあげて喜んでいた。強いなあ。というか全員仲が良さそうでうらやましい。うちのチーム、マハ隊は隊長と副隊長は良い人なのに、それ以外がちょっと問題ありで、よく一勝できたと思う。
ハツセくんはカノコくんの悪口しか言わないし指示にも従わない。ホタルちゃんは一度ペイント弾が当たっただけなんだけどショックだったみたいで、それ以降の二試合、一歩も動けなくなってしまった。
で、わたしはというと、壁から壁に素早く移動しようとしているのに毎回、ぺちゃ! すーぐやられてしまう。そんなチームメイトのぐだぐだに、カノコくんはすっかり不機嫌になって、最後の試合では一言もはっしなくなった。
更衣室に向かう途中、「楽しかったな!」と隊長。ちょっとカラ元気な感じだ。
「わたしは楽しかったけどね」副隊長は苦笑している。
「ごめんなさい」
「ホタルちゃんがあやまらなくても。わたしなんてすぐ退場だし」
「そうだ、あやまるなよ、鬱陶しい」
「カノコ、その言い方は良くないぞ」
「隊長の言うとおりだ。だいたいお前なんて偉そうに命令するだけで何もしてないだろ」
「ハツセも、そういう言い方は——」
「お前だって行くなっていう時に出るばかりして、チームの輪を乱すんじゃねえよ」
「隊長の命令は聞くけど、お前の命令は聞きたくない!」
「ケンカしないの。仲良くしましょう」
「うちのチーム、ダメかもな」
ハツセくんとカノコくんの言い合いに、隊長、副隊長はヘトヘトのようすだった。
あーあ。せっかく本格的な訓練がはじまったのに、これじゃあ楽しくないよ。
★★☆
リナちゃんたちは順調に三連勝したんだって。
二人とも大活躍したみたい。いいなあ。
★★☆
今日の訓練もペイント弾を使ったハタ取り合戦。二回目だから、作戦をしっかり立てることになった。
「攻撃と防御、どっちを重視するか、まず決めようか」と隊長。
副隊長が、「前回のようすからだと攻撃タイプのチームに出来そうだけど、どう?」と訓練生たちの方へ視線をやる。
「攻撃に賛成です」ビシと挙手したのはハツセくんだ。
「最短時間でハタを取りに行く作戦にしたいです」
「ばかっぽ」ぼやいたのはカノコくんだ。
あちゃーと、開始早々、隊長と副隊長が目配せしている。
「カノコ、仲間思いのことが言えないなら口を閉じておけよ」
「そうそう、ケンカ吹っ掛けないの」
先輩二人に責められて、カノコくんも少し反省したのか、肩をすくめ、「思ったことがすぐ口に出ちまうんです、すみません」とあやまっている——と言っても、あやまっているのは先輩たちであって、にらみつけて怒りをこらえているハツセくんじゃない。
「二人はどう、攻撃型でいっても大丈夫そうか?」
隊長の言葉に、わたしとホタルちゃんは視線を交わす。互いに「できたら防御で」と思っているのが伝わってきたんだけど、ハツセくんをこれ以上刺激したくないから、「攻撃で大丈夫です」とわたし。ホタルちゃんも「はい、大丈夫です」と弱々しくこたえている。
「じゃあ、作戦は——」
★★☆
攻撃型の作戦はうちのチームに合ってないよ。突撃ってなった瞬間にバタバタ撃たれちゃうんだもん。今日は三戦三敗、ボロ負け!!最終戦なんて、開始二分で全滅しちゃった。
「無理だと思ったんだよな。短絡男とどんくさ女子二人の訓練生をかかえてて攻撃型はねーよ。しかも攻撃型っつっても、特攻するだけのアホ丸出しの作戦だし」
カノコくんの言葉に、ヘトヘトだったわたしとホタルちゃんは「どんくさ女子かあ」と内心思うだけだったけど、ハツセくんは全身ペイント弾だらけ、顔にまで真っ青な蛍光色がついているまま、「お前なんて何の役にも立ってなかっただろ!!」と大噴火だ。
「おれの指示は受けたくねーんだろ。だから大人しくしてたら、今度はご指示を仰ぎたいってことでちゅか、ぼくちゃん?」
「はあ!?」
「カノコ、だからケンカすんなって言ってるだろ」
「マハくん、無駄だって。あきらめよう。うちのチームはこれで行くしかない」
副隊長の力ない声に、隊長も肩を落としてた。
★★☆
マロンさんに相談したら、あっさりしたコメントが返ってきた。
『ボロ負けしてたって正隊員試験には関係ないから。ゲームだよゲーム。楽しもう』
勝つ方法を聞いてみたかったんだけど。そんな簡単じゃないかあ。
★★☆
今日の訓練は一勝二敗。防御中心のチームにしてみたんだけど、効果あり?
とりあえず、わたしは一度だけだけど退場せずに時間切れまで残れた。ホタルちゃんは三戦とも最後まで残る。でも残った理由はずっと壁の後ろにいたからなんだよね。
相手チームもあまり強くなかったみたいだし。この結果は判断しにくいなあ。
★★☆
「もっとしっかりした作戦を立てないとダメだと思います!」
四回目の訓練で、ハツセくんがそう言い出した。これまで、作戦は実はほとんどハツセくん主導で決まっていた。隊長も副隊長も、「どうしたい?」「どうすればいいかな」と訓練生にこたえさせようとするだけで、「こうしましょう」みたいなのは一度もなかったから。
で、そうなるとわたしとホタルちゃんは「うーん」と口ごもってしまい、ハツセくんがあーだこーだと張り切って発言していたのだ。
「お、やっと自分の無能を認める気になったか」
またはじまるカノコくんとハツセくんのバトル。
「なんだと!!」と真っ赤になって怒鳴るハツセくんに、
「カノコー、お前もいい加減、口の悪さを直せー」隊長は力なく制止している。
けど、
「むりむり。わたしはカノコより、ハツセくんのスルースキルを期待する。そうすぐカッカしないの、ね?」
「で、でも」
「それで、今日の作戦はどうすんすか? たまには女子も何か言えよ」
急にこっちに話が向き、わたしはカノコくんをまじまじと見てしまった。
「そんな驚く? お前らも訓練生だろ。これまでの訓練で何か感じたことはなかったのか」
「それはー……ね?」
ホタルちゃんを見やる。ホタルちゃんもキョドキョドしていたけど、「ひとり前に出る人を決めて、あとは防御とか、どうでしょうか」としっかり答えていた。
「え? 何、聞こえない」
もうっ、カノコくん! せっかくホタルちゃんが勇気出して言ったのに!!
「ハタを奪いに行く人はひとりにして、あとは防御したら、って」
わたしが言うと、ホタルちゃんは、こくこくうなずく。
「それだと勝てない」
ハツセくんが言う。でもハツセくんの作戦であの成績でしょ。今回はわたしたちの作戦でいかせてよ、と思ったら、同じことをカノコくんが言った。
「お前、今日は女子にしたがえ。いつも勝手に前に出すぎなんだよ。だから負ける」
「そんなことお前に言われたく——」
「よし!!」隊長が大声を出して手も打ち鳴らす。
「今日はホタルちゃんの提案を中心にチームを組んでみよう。でも攻撃はひとりで大丈夫かな。もうすこし戦略を練ってみないか?」
というわけで、わたしも意見を出して、それぞれに役割を決めてみることになった。
★★☆
大成功!! 二勝一引き分けで勝ち越したよ。
わたしたちの作戦はこう。いつも勝手に前に出てペイント弾の餌食になるハツセくんは陣営のハタを守る役に徹してもらった。もしも敵が入り込んできたら撃つ。あとは声も出さずに隠密してて、ってお願いした。ものすごく不服そうだったけど、隊長が「うん、ハツセ任せたぞ」と肩を叩いたから、仕方なく納得してくれた。
ホタルちゃんとわたしは防御に見せかけて、実はハタを狙う攻撃ペア。
敵の目を引き付けるおとり役をまかせたカノコくんが、目立つ動きをしている裏で、着実に前進していく作戦。隊長、副隊長には、全体の人の動きを見て、わたしたちが前に出るタイミングを合図してもらった。それだけでなく援護もしてもらったけど。
何度も相手のペイント弾をくらいそうになったけど、その前に隊長たちの援護がきてギリギリで助かった。ハタをゲットした時は、すっごくうれしかったな!
「よくやった」とカノコくん。偉そうだなあ、と思ったけど、作戦成功がうれしくてニヤニヤしちゃった。ハツセくんは「次の訓練ではぼくも前に出たい」と文句を言っていたけど、「勝ち越しはよかった」とホッとしたみたい。きっとあまりの成績の悪さに正隊員になれなくなるんじゃ、と心配していたのかもしれないね。
マロンさんは訓練での勝率は関係ない、って言ってたけど、わたしもあまりの負けすぎに心配になっていたから安心した。よかったー!
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