第11話 3秒でやられちゃった

 体育がチーム訓練に切り替わった。

 今日は上下白色のウエアに着替えて地下にあるトレーニングルームに集合だ。わたしたちはルーム5で十チーム集まっていたけど、リナちゃんたちとはべつだった。

 先輩たちもたくさんいるから、今までの体育と雰囲気がちがう。緊張した。本格的。訓練生だけどサザンクロス探査隊の一員だって気持ちがわいてくる。

「マハ隊、初陣です。楽しんでがんばりましょう!」

 円陣を組み、隊長の掛け声でオー!! 

 うちはマハ隊長だからマハ隊なんだって。隊長の名前でチーム名がつくらしい。

 でも絶対じゃないから、「ネコちゃん大好き隊、がんばるぞ、にゃー!!」って叫んでいるチームもいた。みんなネコが好きなチームだったのかな?


 今回の競技は、ペイント弾を使ってのハタ取り合戦。1ゲーム15分。コートの両端に三角のハタを立て、相手のハタをゲットしたら勝ち。または相手チーム全員をペイント弾で討ち取ったら終了。制限時間内に残った人数でも勝敗が決まる。

 コートはサッカーコートくらいの広さで、背丈ほどの防御壁があちこちあるから、身を隠しながら、敵陣まで進んでいくことができる。でも、一度でもペイント弾が当たると脱落、コートから出ることになる。コートを出たら声援を送るのもダメ、アドバイスもダメ。黙って観戦する。

「では三分の作戦タイム。開始!」

 先生の笛で、チームの輪がぎゅっと縮まる。マハ隊長が口を開く。

「最初は自由にやってみよう。すぐ討ち取られてもへこまないこと。で、いいよな?」

「いいんじゃない」副隊長のユメカ先輩がうなずく。

「訓練生の性格も知りたいし。特攻するもよし、防御に徹するもよし」

「おれは今回、守りに徹するから。戦力にはカウントしないで」

 カノコくんが小さく挙手してそういう。隊長、副隊長は、オッケー、と大きくうなずいていたけど、ハツセくんがイヤそうに顔をしかめたのを、わたしは見てしまった。なんだかこの二人、早くも対立しそうだ。漂わせている雰囲気がとても悪い。

 先輩とはいえ、カノコくんは同い年。ハツセくんは今年成績トップで入隊したから、ライバル意識があるのかもしれない。

 ……なんて、他人の心配をしている場合じゃなかった。


 開始三秒。


「あっ」

「ピーッ! 16番、退場」

 先生が笛を吹き、コートの外を指差す16番とはわたしのゼッケン番号だ。

「ミ、ミノリちゃん」

「ごめん、すぐやられ……あ、しゃべっちゃダメなんだった」

 あわてて口を押えて、駆け足でコートの外に出る。防御壁からちょっと体をのぞかせたら、即討ち取られてしまった。肩にべったりと蛍光ピンクのペイント弾がついちゃった。

 隊長は「オッケー、気にすんな」と声をかけてくれたし、副隊長も「ドンマイ」と親指を立ててくれている。でもハツセくんは「チッ」と思いっきり舌打ちした。カノコくんは興味なし、って感じで相手側のほうを見ているだけだ。

 あーあ。こんなにすぐやられるなんて。ショックだ。でも。

「ピーッ! 7番、退場」

 相手が討ち取られる。しかも訓練生じゃなくて先輩隊員だ。どうやら隊長だったらしく、「うわー、ごめん。副隊長、あとは任せた」と言っているのが聞こえた。

「カノコ、お前今日は守りに徹するんじゃなかった?」

「隙アリだったもんでつい」

 隊長にカノコくんが涼しい顔して答える。

「ちっ」と舌打ち。誰かと思ったらまたハツセくんだ……。

 カノコくんをにらんでいる。やだなあ。仲間なのにケンカしないでよね。


 カノコくんが本気を出したのはあの一発だけだった。

 あとはハタの近くにある防御壁から動かないで、訓練生に声をかけるだけ。

「ホタル、前の壁まで移動しろ、ほら今だ!」とか「ハツセ、気絶してんのか。さっきから全然動いてねぇじゃねーか」とか。

 ホタルちゃんは、最初の指示には動けずにいたけど、二度目の時にはひとつ前にある壁まで無事に移動した。すごくホッとしたみたい。わたしの方を見て、にこりとしてくれた。わたしも声を出せないけど、ガッツポーズで応援した。

 一方でハツセくんは、自分の判断で一気に二つ壁を移動しようとして失敗。ペイント弾を胸と足に二発くらった。青と緑の蛍光色で白いウエアがハデハデになる。

「ああ、くそっ」

「今出るタイミングじゃねーだろ、良く見ろよ新人!」

「うるせーな」

「ピーッ! 退場者は発言禁止ですよ」

 先生に注意までされてた。ハツセくんはものすごく腹立たしそうにコートから出てくると、なぜかわたしの隣にきた。べつにコートの外に出さえすれば、チームメイトでもバラバラでいていいはずなんだけどなあ。


 しばらくハツセくんと並んで、大人しくチームの対戦のようすを観戦した。 

 カノコくんが最初に相手側の隊長を落としたのが良かったのか、うちのチームが人数ではまさっている。それにカノコくんの指示で徐々に前進していったホタルちゃんが敵陣に入っていて、あと二つほど防御壁を越えていけばハタをゲットできそうなところまで来ていた。

「すごいね」

 思わずハツセくんに話しかけると、彼は「フン」と鼻を鳴らした。

「初戦で勝つのはラッキーなだけだろ。ぼくとお前は不運だったけどさ」

 それからハツセくん、わたしから話しかけたので気を良くしたのか、さらに横に近づいてくると、コソコソと小声で言ってくる。

「あのカノコとかいう奴、感じ悪いよな。訓練生に命令するのはわかるけど、隊長達にまで指示出すのは調子乗りすぎだろ」

 共感が欲しそうな口ぶりだったけど、わたしは「でもそれで勝ってるじゃん」と言い返した。ハツセくんは裏切られたって感じで身を引く。

「なんだ、お前、カノコのファンかよ。女子はこれだからなー」

 いやーな顔して見下す視線を向けてくるハツセくん。

「そうじゃないし」とすぐ言い返したけど、「どうだか」と信じてない。

「あいつ、エリートなんてウソだろ。どうせ親がプロジェクトチームと知り合いだから特例で入隊しただけ。金持ちの親が資金提供してるって話も聞いたことあるし」

「ネットのウワサでしょ」

 わたしはまたすぐに言い返したんだけど、ハツセくんは「女子はこれだから」とまた気分悪くなることを言ってくる。ひねくれすぎじゃない?

 でもネットの噂はわたしも知っていた。親のコネで入隊したって噂だ。十歳で飛び級入隊したカノコくんは、ファンもいればアンチもいる有名人。あこがれている人もいれば、ハツセくんみたいにきらっている人もいる。

「よく考えろよ」

 身を引いていたハツセくんが、また近づいてきてコソコソ言う。

 ちょうどホタルちゃんがカノコくんの指示で、またひとつ防御壁を移動したところだった。集中して応援したかったから、鬱陶しくて仕方がない。

「もしも本当に飛び級制度があるなら、もっと数多く入隊してたっておかしくない」

「……そうかもね。でも知らないだけでけっこうそういう子いるのかもよ」

「そんなわけねーよ。もしそうなら、ぼくだって飛び級入隊できたはずだ」

 なあに、その自信。冷ややかな視線を投げつけたのに、ハツセくんは胸を張って「そうだろ?」だって。

「ウワサなんてどうでもいいよ。カノコくんのおかげで、うちのチーム勝ってるんだし、ふつーに応援したら?」

「だから初戦はラッキーなんだよ。あ、ほら」

 ホタルちゃんが防御壁から出た瞬間、ペチャとペイント弾が当たった。それを見て、ハツセくん、得意げにしている。「あいつの指示、失敗だな」だって。ハア、何この人。

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