第10話 臨時のチームメンバーが決まった

 家にいた日曜の夜。マロンさんからメッセージが来た。

『新しい生活にもなれてきた? 今週からチームを組んでの訓練が始まるよ。探査隊らしい授業で楽しいよ!』


★★☆

 シルビアちゃんが転属して、リナちゃんは一人部屋になった。でもすぐに二人部屋に変わった。相手はモエちゃん。モエちゃんは南校出身で唯一の合格者で、今まで人数の関係で一人部屋だったけど、このたびリナちゃんとペアになった。

 で、相性はというと、かなり良いみたい。

 「モエちゃん、面白い子だよ」ってリナちゃん声が弾んでる。

 モエちゃんは、いつもピンク色のマニキュアをしていて、まつげピンピンのメイクもしている子。だからオシャレにうるさいのかと思ったら、それは自分だけの楽しみらしく、他人のファッションや髪型をとやかく言わなかった。少なくとも悪く言うことはゼロ。ほ

 めるのはよくあるけど。あれかわいー、が口ぐせみたい。

 リナちゃんもそうだけど、わたしもシルビアちゃんのことがあったから、少し警戒気味に見ていたんだけど、気さくで明るくて、ひたすら元気な子だった。

「あー、三人おそろいのマグカップいいなあ。モエも同じの買っちゃダメ?」

 シルビアちゃんが見せびらかしたと悪く言ったマグカップ。アルファベットのポーズをとっているパンダの絵がカワイイやつなんだけど、モエちゃんも「欲しい!」って。それで今度の週末、いっしょに買いに行くことにした。


★★☆

 わたしたちは最近四人で行動することが多くなった。

 ホタルちゃんは、シルビアちゃんが転属したのは自分のせいだと気にして、ますます口数が少なくなっていたけど、モエちゃんの明るさのおかげで元気になってきた気がする。

 今日なんてお昼にオムライスを食べていたら、モエちゃん、具に入っていたコーンを前歯にさして「見て、ハムスター!」ってやってるの。

 それを見たホタルちゃん、お茶をブハッとふきだしてたよ。


★★☆

 探査隊のチームが決まった。うすうすそんな気はしてたけど、同部屋ペアはチームでもいっしょだ。だから、わたしはホタルちゃん、リナちゃんはモエちゃんと同じチーム。そこに先輩隊員と男子の訓練生ペアが加わって臨時チームを作り訓練するんだ。

 チームのメンバーの名簿を確認したけど、先輩に知ってる名前はなかった。まあ知ってるのは寮長くらいなんだけど。

 でも男子のほうは、見た瞬間、「げ」と思ってしまった。ハツセくんかー。しかもペアのはずなのに、訓練生はハツセくん一人。この男子、男版シルビアちゃんなんだよねー……。


★★☆

 やっぱり男版シルビアちゃんだった。ハツセくんと同じチームなんて胃痛がする。ホタルちゃんもシオシオになっていた。

 今日は臨時チームで集まって晩ごはんを食べることになったんだけど、ハンバーグを半分残すくらい元気がなくなる食事会になってしまった。

 でも最初の雰囲気は良かった。隊長のマハ先輩は頼りになる感じで、「訓練っていっても楽しむことが大事だから。短い期間だけどよろしくな!」とさわやかなお兄さん。副隊長のユメカ先輩も美人で「緊張しなくていいからね」とやさしかった。

 でも問題のハツセくんがさっそくイヤなことを言ってきた。

「先輩、こいつら、落ちこぼれペアなんですよ。あーあ、お前らのせいで正隊員になれなかったら責任とってくれんだろうな。足引っ張んなよ」

 こっちが「よろしく」と頭下げたのに対して、この台詞だもん。ムカッときた。ホタルちゃんなんて真っ青になってた。

「まあぼくが優秀だから、本部もそれでバランスを取ろうとしたのかもな」

 とも言いやがるハツセくん。

 ハツセくんは今年の新入隊員試験でトップ合格だったらしいから、成績は優秀。でも性格はぜんぜん優秀じゃないんだ。男子の中でも「あいつヤな奴」ってなって友だちはいないらしい。それに寮では相手のイビキがうるさいから、って理由で強引に一人部屋にしてもらったとウワサになっている。男版シルビアちゃんの名に恥じない男子だ。


 さらに我がチームには目立つ人物がもう一人いる。先輩隊員なんだけど、同い年の子。栗須くりすカノコくん。

「お前が優秀? おれより劣るだろ、自慢すんな」

 ハツセくんの偉そう発言のあと、かぶせるようにカノコくんが言ったのがこれ。

 ハツセくんの自信満々なようすも、これにはポキッときたみたい。言い返せずに顔を赤くしていた。

 カノコくんは、普通は小六で受験する試験を十歳で合格してサザンクロス探査隊に入隊したエリートだ。だからわたしたちと同い年でも彼は二年先輩なんだ。

「臨時でもおれはチームを大事にするし、全員が正隊員になれるよう指導するつもりだ。女子でも甘えたこと言うと殴るからな」

「殴るのはダメよ」

「そうだ、殴るのはダメだぞ、カノコ」

「エアパンチですよ、エア。マジでは殴りません」

 先輩にそう返しているカノコくんだけど……、おちこぼれペアとしては、ますます顔面蒼白だよ。あーあ、このチームでわたし、上手くやっていけるかなあ。


★★☆

 マロンさんから返事が来た。臨時チームの中で、わたしは落ちこぼれです、グチったの。

『ミノリなら大丈夫!!』

 バレリーナのチュチュをはいたリスが、応援のポンポンを振るスタンプ付き。

『そうですね! がんばります!!』

 送信、のボタンを勢いよく押したけど……。こうやってコメントのやりとりは続いてるけど、マロンさんには会えていない。やっぱりリアルでの交流はイヤな人なのかな?

 でも会いたいなあ、マロンさん。きっと素敵なおねえさんだもん!


★★☆

 今日、お風呂から出たあとキッチンに行こうとしたら、二階から男子が走り下りてきてびっくりした。しかも見覚えがあった気がしてホタルちゃんと顔を見合わせる。あの人、隊長のマハ先輩だったよね、って。

 男子は夜七時までは女子寮に入ってもいい決まり。もちろん逆もそうなんだけど。

 で、その時は夜七時ぎりぎりくらいだった。だからマハ先輩は大慌てで走り去っていったんだね。わたしたちがびっくりしていると近くにいた先輩がニヤニヤしながら言った。「あの男子、寮長のカ・レ・シ♡」だって。わーお。それはますますびっくりだ。

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