第9話 今週はいろいろあった

 トキタさんは人の話を聞かない。リナちゃんの言う通りだ。

「ぼくは唯島さんのご両親と親しかったんですよ」というムダ話から始まった面談は、何の意味もなかった。

 というか、わたしも怒られた。イジメ首謀者のリナちゃんと結託して、シルビアちゃんからホタルちゃんをうばった悪党なんだそうだ。

 わたしはそういう役どころらしい。首謀者の子分ってわけ。

 しかも今日持ってきたばかりなのに、三人でおそろいのマグカップを買ってシルビアちゃんに見せびらかせたことになっていた。


「新しい友だちができて、うれしいのはわかりますが、他の人の目にどう映るか、しっかり考えなくてはいけませんよ」


 トキタさんの中で、わたしはものすごくイジワルな子になっている。もちろんわたしだって説明しようとした。シルビアちゃんを無視しようなんて号令を、リナちゃんはかけてないし、わたしも、ホタルちゃんをシルビアちゃんからうばったりもしていない。

 マグカップだって見せびらかしたんじゃなくて、寮のキッチンにおそろいのマグカップをおきに三人で行っただけだ。その姿をシルビアちゃんはどこからか見てたんだろうけど、自慢なんかしてないんだ。

 そもそもホタルちゃんとうんと仲が良かったら、シルビアちゃんもショックだったろう。でも実際はホタルちゃんを泣かしていたのはシルビアちゃんだ。それで友だちをうばわれたなんて言われたくない。


 ……ってことをトキタさんに訴えようとしているのに、「なれない生活で大変でしょうけど」とか「小学校がちがうといろいろあるとは思いますが」とか、はたまた、自分が訓練生の時は——と昔話まで始まって、わたしの言い分はまともに聞く気がない。

 わたしはがんばって、「シルビアちゃんはホタルちゃんにキツイこと言ってたんです」と話をさえぎってまでして訴えたけど、「そのことは本人から聞きます」とバッサリ。「唯島さんが何か言われたわけじゃないんでしょう?」と言われてしまった。


 言われた、イヤなことたくさんあった。でも、それを具体的に伝えるのがむずかしくて、「みんな困ってました」とか「聞いててイヤなことたくさんありました」って、ぼかした言い方しかできなかった。それだと結局、わたしが、ただシルビアちゃんの悪口を言っているだけみたいになってしまった。

 で、最後は「みんなで仲良くしましょうね」で終わり。

 そもそもわたしから、相談があります、ってトキタさんに話しかけたのに、逆に説教されちゃったみたいで不満だ。

 でもよーくわかった。トキタさんに期待したらだめだって。

「ありがとうございました」

 わたしはプンスカしながら会釈して相談室を出た。態度の悪さで評価が下がるかもしれない。このままでは正隊員になれないかも。でも自分の中で腑に落ちないものがあったんだ。良い子は無理。トキタさん、嫌い。嫌い、嫌い、嫌い!!


★★☆

 リナちゃんはシルビアちゃんを無視するのをやめた。また何を言われるかわからないから。でもあまり意味がないんだって。

「今度は向こうがわたしを無視してるから」

 だけど、シルビアちゃんとの関係も、これでうまく収まるだろうって気もした。

 シルビアちゃんだって、自分の何がイヤがられてたのか自覚あると思うから。

 嫌味を言わないとか、人の意見を無視して仕切ろうとするのはやめるとか。

 ホタルちゃんをバカにしない、っていうのもね。

 シルビアちゃんが、またわたしたちに絡んでくるかと思ったけど、それはなかった。たまにこっちをにらむように見ていることはあるけど、声はかけてこない。

 ともかく、リナちゃんの提案で、おそろいのマグカップはしばらく各自の部屋で保管しておくことにした。見せびらかしてるなんて言われたくないもんね!

 でもせっかくのかわいいマグカップ。飾っているだけは残念だ。アルファベットのポーズをしているパンダの絵、すごくかわいいのになあ。


★★☆

 ぜんぜん良くなかった。いい加減みんなで仲良く出来ると思ったのに。

 シルビアちゃんの指示で、今日から、わたしとリナちゃんが女子に無視される番になった。あいさつしても誰も返してくれないし、近づくと逃げるようにさけられてしまう。

 シルビアちゃんのせいだってわかったのは、ホタルちゃんが教えてくれたから。

 ホタルちゃん、今、板挟みだ。

 わたしたちと仲良くしたらダメ、悪い影響受けて正隊員試験に落ちるよ、って、シルビアちゃんに言われて、わたしたちのところに行こうとすると「ホタルちゃん、こっち来て!」と鋭い声で止められている。それで、ホタルちゃん、どうしたらいいかわからなくなって、夜にわたしに泣きながら相談してきたんだ。だから言ったよ。

「この部屋以外で話すのやめたらいんだよ。シルビアちゃんにうるさく言われるのイヤだからさ。外に出たらわたしのこと無視してくれていいよ」

 リナちゃんにも話したら、「それで正解」だって。


 それにしても周りから無視されても、ほとんどダメージない。というか周りのほうがシルビアちゃんの目を気にして大変そうだ。わたしたちと話すとよほど怖い目にあうんだろうか。笑っちゃうな。

 まあわたしは一人ぼっちじゃないしね。リナちゃんがいるし、部屋ではホタルちゃんと話せる。むしろ最近のほうがホタルちゃんとよく話すようになった。彼女はおっとりしたペースで話す。それが新鮮。わたしもつられておっとりしてくる。

 それに当たり前だけど、先輩たちは無視ルールになんて入ってないから、普通に話しかけてくれる。訓練生女子の中で変な空気になっているのはさすがにわかるらしくて、寮長からは「どうにかしようか?」と言われてしまった。

 リナちゃんは「気にしてませんから、大丈夫です」って。わたしも隣で大きくうなずいたんだ。寮長、「よし、なら見守りましょう!」だって。かっこいいなあ。


★★☆

 今週はシルビアちゃん騒動で終わってしまった。明日帰ったら、ママに教えてあげよう。トキタさん、イヤなおじさんになってたよ、って。


★★☆

 学校来たらまたシルビアちゃんでいろいろあった。

 シルビアちゃん、全員に無視されるようになったんだ。そうなると思った。みんな、イヤになるよね。リナちゃんたち無視しよー、なんて。

 だけどシルビアちゃんはまたトキタさんに相談した。みんながいじめるって。

 でも今回は寮長が動いた。わたしたちが頼んだんじゃないよ。

 いい加減、ほっとけなくなったんだって。

 それで、結局、シルビアちゃんは地区本部を移動することになった。

 転属ってことになるのかな? まだ訓練生だけど。

 シルビアちゃんのお姉ちゃんもいっしょに転属するんだって。

 お姉さんも大変だなあ。まあ姉妹で仲が良さそうだし、これでいいのか。

 新しい場所でうまくいくといいけど。あのシルビアちゃんだからなあ……。


★★☆

 パンダのマグカップが三つ、キッチンの棚に並んでいる。

 毎朝、これでココアを飲むの。仲良し三人組でね!

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