第7話 本当はぜんぜん解決してなかったらしい

 お休み終了。今週は五日、寮で生活する。家を出る時、少しさみしくなってしまった。でも駅のホームでリナちゃんと会ったら平気になった。わたしはみんなのあこがれ、サザンクロス探査隊の訓練生。今週もがんばるぞ!


★★☆

 ホタルちゃん、やっぱり土日には家に帰らなかったみたい。シルビアちゃんもそうなんだって。リナちゃんは、シルビアちゃんがホタルちゃんを家に帰らせないようにしたんじゃないか、って思ったみたい。

「あの子ならやりそうでしょ」

 そんなことないよ、とはわたしも思えなかった。正隊員になるまで家に帰らない、そう決めているのかもしれない。自分を追い込むっていうのかな、そういうやり方は聞いたことがある。でもシルビアちゃんはそれでよくても、ホタルちゃんは帰りたかったんじゃないかなあ。夜、泣いていたことを思い出す。何かしてあげたいけど、やっぱり何をしたらいいのかわからなかった。


★★☆

 体育がきっかけでひと騒動あった。シルビアちゃんが、ホタルちゃんを泣かしたんだ。

 きっかけは、今回の授業でもわたしとホタルちゃんが競争でドベになったこと。

 今回の障害物競走は運動より頭を使うパズルゲームや、ペイント弾を使うまと当てが中心だったんだけど、敗因はホタルちゃんがまと当てゲームでつっかえてしまったこと。

 だけどパズルゲームではホタルちゃんはすごく早くクリアしていたから、「ホタルちゃんのせいで負けた」とは、わたしは全然思ってなかった。


 ってのに、授業が終わるとシルビアちゃんが来てわたしに、「ホタルちゃんに足引っ張られてイヤかもしれないけど、怒らないであげてね」って言ってきたのだ。すぐ横にホタルちゃんもいるのに、そんなこと言うなんてびっくりした。だから面食らって返事しないでいたんだ。

 でもそうしていると、ホタルちゃん、うつむいて。しくしく泣きはじめてしまった。するとシルビアちゃん、「泣いたって仕方ないでしょ。ホタルちゃんががんばらないと、唯島さんに迷惑がかかるだけなんだからね」と追い打ち。

 ひどい言い草だ。びっくりしすぎて目がキョロキョロしてしまった。

 と、助けが入った。

「迷惑なのはあんただよ」

 って、リナちゃん。リナちゃん、シルビアちゃんのことは無視するって決めていたけど、この時はちがった。わたしが関わっていたからかもしれない。リナちゃんは堂々と胸張って、わたしとシルビアちゃんの間に割って入った。

 するとシルビアちゃん、目がギュイってつり上がった。

「どうしてわたしが迷惑なの。迷惑なのはホタルちゃんでしょ。運動できないだけじゃなくて、すぐ泣くし。わたし、唯島さんが気の毒だなって思っただけよ」

 う、うわー…って思ってたらリナちゃんがキレた。

「ミノリちゃんを巻き込むな! あとホタルちゃんのことも放っておきなよ。あんた、ぜんぜん空気読めないよね。雰囲気悪くしてばっかり」


 それからリナちゃん、「行こっ」と、わたしとホタルちゃん、両方の手を引いて、ずんずん体育館を出ていく。わたしは連れられるまま振り返った。シルビアちゃん、すごくこっちをにらんでた。でもひとり、ポツンといるだけ。誰も駆けよって声をかけているようすはなかった。同じ小学校の女子はホタルちゃんだけらしいし、同室ペアの相手はリナちゃんだ。いつもきびしいシルビアちゃんには、まだ新しい友だちが出来ていないのかもね。


★★☆

 体育事件のあと、リナちゃんはご飯やお風呂に行くとき、「ホタルちゃんも誘おうよ」と言うようになった。それでよく三人で行動している。相変わらずホタルちゃんの口数は少ないけど、わたしたちといて「泣く」ことはしていない。

 一方、気にして見ていると、シルビアちゃんはいつも一人だ。寮の部屋でも、リナちゃんは無視を続行中のようで「最近じゃ、話しかけてくることもなくなったよ」だって。

 それでもシルビアちゃんって、授業では毎回はりきって質問に答えていたし、リーダーシップをはっきしようとがんばっていた。でもなんだか周りの反応が悪くなってきてるんだよね。そのうち、仕切りたがり屋の面がなくなってくるといいんだけどな。


★★☆

 最近のシルビアちゃんは目立たなくなってきた。授業中はよく問題に答えてるけど、周りを巻き込む?あの命令する感じは減った。孤立しているのが少し気になるけど……。

★★☆

 今回の週末はホタルちゃんも自宅に帰るって。だからいっしょに早起きしてリニアに乗った。日曜にはリナちゃんと三人で待ち合わせして買い物にも行く予定!

★★☆

 雑貨屋さんで三人おそろいのマグカップを買った。寮に持って行くの。パンダがイニシャルの形に体を曲げている、おもしろくてかわいい絵柄のやつ♬


★★☆

 わたしたちは上手くやっていると思っていた。シルビアちゃんも大人しくなったし、良かったなあ、って。でも本当はぜんぜん良くなかったんだ。

 月曜、寮に戻ってすぐだった。リナちゃんが育成本部長のトキタさんから相談室に来るよう呼び出された。

 それで三十分くらいして相談室から戻ってきたリナちゃんは、目を真っ赤にしていた。泣いたんだと思う。心配すると「大丈夫、悔し泣きだから」と顔をくちゃくちゃにした。

「トキタさん、何だって? もしかして怒られたの?」

 わたしが聞くと、うん、だって。

「わたしが悪いんだってさ。説明しようとしたけど言い訳するな、って言われた」

 また悔しくなってきたのか、リナちゃんは目をゴシゴシとそでで拭う。

 この場にはホタルちゃんもいた。戸惑っているのか、ホタルちゃんまで泣きそうな顔してる。それを見ているとわたしまで泣き出したくなった。

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