第6話 休日はびっくりすることがいっぱいあった

 到着してリニアのドアが開くとすぐホームの向こうから「ミノリイイイイイ」と叫びながらママが駆けよってきた。

「おかえりぃぃ、元気にしてた? 疲れてない? わたしのかわいいミノリちゃん!!」

 数年ぶりに会ったみたいな歓迎ぶり。ハグしてぽっぺちゅーして耳元できゃーきゃー。まだ隣にリナちゃんがいたから、はずかしかった。ううん、リナちゃんがいなくても、はずかしいか。パパも迎えて来てくれていたんだけど、苦笑しながら周囲にぺこぺこしてた。

「元気だよ。あのね、ゼリーのおみやげがあるよ」って、もぞもぞしてママハグの攻撃から脱出した。おみやげを渡すのは家に帰ってからにした。

 ママは、「ミノリちゃん、大きくなったねえ」とか「しっかり者になってえ」とか、ずっとテンション高くしゃべっていた。数日会わなかっただけなのにこの調子じゃあ、わたしが惑星ムゲンに任務に出るようになったらどうなってしまうんだろう。


 家のリビングに入ると、すごくひさしぶりなかんじがした。何も変わってないのに、何かが変わったような不思議な気持ちだ。自分の部屋に入るとその感情がますますふくらんだ。ぼうっと突っ立ったまま、自分の中で何が変わったのか考えていると、ママに呼ばれた。お昼の時間だった。

 今日のお昼は手巻き寿司だ。好きな具材がたくさんある。パパもママもはりきって用意してくれたみたいだ。サーモンにキュウリ、タマゴとカニカマも入れてかぶりつく。次は梅シソにしようかな。あさりのお味噌汁もあって大満足だ。

 そしてデザートは、おみやげのゼリー!

 帰って来てすぐ冷蔵庫に入れたから、しっかり冷えている。小さな星型のゼリーがきらきらしていて何度見てもきれいだ。ママも感激してくれた。もちろんパパもね。

 それからおしゃべりをした。地区本部が思っていた以上に広かったこと、寮でのこと、同室になったホタルちゃんは大人しいからあまり話せてないけど仲良く出来そうだってこと。それからシルビアちゃんのことが浮かんだけど、これは話題にしなかった。

「大浴場にも入ったんだよ。先輩たちもすっごくやさしいんだ」

 二人ともニコニコして話を聞いてくれた。

 歓迎会で、育成本部長のトキタさんが、面白いかっこうして一番はしゃいでた、って教えてあげると、パパをびっくりすることを言った。


「トキタさんってトキタケンゴって名前かな。もしそうなら、ミノリは赤ちゃんの時にだっこしてもらったことがあるよ」

「そうそう」とママ。「ケンゴくんなら、後輩だものね。パパとセキヤおじさんと同じチームだったのよ」だって。ぴっくり!ものすごくびっくり!!

 でもパパもセキヤおじさんも昔サザンクロス探査隊員だったから、そういうこともありえる。でも同じチームだったなんて驚きだ。あと赤ちゃんの時、会っていたのもびっくり!


「向こうはわたしのこと、おぼえてるかな?」

「それはおぼえてるでしょう、うちに何度も来てたんだし」

「あれで忘れてたら、さすがにひどいな」


 ママとパパは顔をしかめている。ずいぶん仲が良かったみたい。と、急に気づいてしまった。トキタさんがパパと同じチームだった、ってことは、セキヤおじさんの失踪も当然知ってるんだ。パパはそれがきっかけで大人になる前に除隊したけど、トキタさんはそのまま開拓プロジェクトチームに残って育成本部長になったんだね。

 今度話しかけてみようかな。昔のパパやママ、セキヤおじさんのことも聞いてみたい。

 でも、もしかしたら今は失踪のこともあって気まずくなっているのかも。それなら、やめといたほうがいいかな。

 だけどセキヤおじさんが失踪したのは十七歳の時。おじさんはチームの隊長だったはず。パパは副隊長。パパは十七歳で除隊したけど、わたしが生まれたのはそのうんとあと。だから、トキタさんとはそのあとも仲が良かったんだよね?

 今のところ、トキタさんと会うことはあまりないんだけど、育成本部長だから、どんどん顔を合わすことが増えるかもしれない。もしも向こうがわたしを見て何か反応したら話しかけよう。さらっと流すようなら、こっちもそうしたほうがいいのかもしれない。

 リナちゃんは同部屋のシルビアちゃんとのことで、苦労してるな、と思ってたけど、わたしもたいがい苦労しそうだ。なーんて。


★★☆

 満腹でゴロゴロしつつ、マロンさんのブログをチェックしたら、見てない記事が更新してあった。で、これまたびっくりしてしまった。さっきより衝撃的かも。

「マロンさん、歓迎会に来てたんだ!」

 写真にマロンさんは写ってないけど『今日は新入隊員の歓迎会! いつもは見かけないスイーツもたくさんあって最高だった』ってコメントに、デザートコーナーのスイーツたちがいっぱい並んだテーブルの写真をアップしている。

 あー、もっとしっかり探せばマロンさんを見つけられたかもしれない。同じ空間にいたなんて信じられない。今になって緊張してきた。ゾワワって汗が出る。わたしがシルビアちゃんみたいにクイズに正解して目立っていたら、マロンさんもわたしに気づいたかな。

 でも冷静になって考えたら、興奮がヒューと冷めた。新入隊員はみんな参加してたし、わたしを探す気なら、マロンさんはわたしのミノリって本名を知ってるんだもん、すぐ会えるはずだ。マロンさんは顔出ししてないし、マロンって名前も本名かどうかわからない。

 わたしはブログの読者でしかないんだ。でもちょっとはとくべつな気もしていた。

 だってブログでのコメントのやり取りだけじゃなく、個人的なメッセージのやりとりもたくさんしていたから。合格のお祝いメッセージもくれたしね。

 でもリアルでは会いたくない、って人なのかも。だったら気を付けないと。マロンさんに迷惑かけたくないから、ひっそりファン活動を続けようっと。

 でも『サザンクロスで会おう』ってメッセージくれたのになあ。しゃこうじれー?


★★☆

 眠る前にセキヤおじさんのノートを読み返した。何度も読んでいる文字、「無茶をしない、あせらない、冷静でいることが大事!」を見ていて思った。

 わたしの頭の中は、今、どうしてもシルビアちゃんのことが気になって仕方ないようなんだけど、なぜ、あんなに困ったことばかりするんだろう、って理由がわかった気がする。シルビアちゃん、おねえちゃんも隊員だし、めちゃくちゃ正隊員になりたくてあせっているんじゃないかな。それで周りが気を抜いているように見えると腹が立つんだ。

 わたしからするとシルビアちゃんは優秀だから、一か月後の正隊員試験に落ちるなんて想像できない。トップ合格すると思う。でも、もしかしたら不合格になったらどうしよう、って不安でいっぱいなのかもな。

 それに比べたら、わたしはのんきだった。訓練生の期間は常に試験中みたいなもの、って気持ちは全然なかった。訓練生になれただけで大興奮ですごいことだから、すっかり満足していたのかもしれない。


 シルビアちゃんの気持ちが、これが正解かどうかもわからないし、わかったところで、何をしたらいいのかわからない。わからないだらけ。わたしがこんなにウンウン悩むのだ。寮が同室のリナちゃんは、めちゃくちゃ大変だな、と思ってしまった。腹立つことを言われても無視するって決めたみたいだけど。それでうまくいくのかな?

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