第4話 授業がはじまったのとカップラーメンの話
今日から授業がある。朝は七時起床だけど、六時半ごろにはみんな寮の廊下にぞろぞろ出てきていた。全員訓練生だ。おはようって言いながら戸惑っていると、眠そうな顔した先輩が二階から降りてきて食堂にいかなくても簡単なものなら自分で作って食べてもいいんだよ、と教えてくれた。談話室のところからいける青いドアの部屋はキッチンなんだって。名前が書いてないものは好きに食べたり飲んだりしていいそうだ。
リナちゃんとキッチンに行ってみた。同部屋のホタルちゃんも誘うかな、と思ったんだけど、迷っているうちにリナちゃんが先に行ってしまいそうになったから、言い出しそびれてしまった。
キッチンには銀色のロッカーが一面にあった。でも違った。それはロッカーじゃなくて冷蔵庫なんだって。このあたりに入っているものは好き食べて良いやつばかりだよ、とさっきとは違う先輩隊員が説明してくれた。寮長なんだそうだ。
同じサザンクロス隊員だから年長でも十八歳くらいだと思うんだけど、身長はわたしとあまり変わらないのに、ものすごく大人びて見えた。美人で色っぽかったからかもしれない。
寮長が教えてくれた場所の冷蔵庫を開けると、いろんなものが入っていた。シリアルに牛乳、リンゴやオレンジのジュースもあった。ゼリーとプリンもあった。奥の方にあったヨーグルトを見つけたリナちゃんは「朝はヨーグルトだよね」とよろこんでいた。
わたしはパンが食べたかったんだけど見つけられなくて、代わりにシリアルを食べることにした。牛乳を入れてしゃくしゃく食べていると、チンッと音がした。香ばしい匂いがする方を見たらトースターからパンが出てきていた。
食べようとしているのはまだ名前を覚えていない子だったけど、新入隊員だとはわかったから、「どこにパンがあったの?」と聞いてみた。「あっち」と指差したのは、わたしが見た冷蔵庫のドアより、さらに右側にあるドアだった。
明日はあっちのドアを開けてみよっと。小さいロッカーみたいなドアがいっぱいの冷蔵庫はおもしろかった。
★★☆
授業は学校と変わりなかった。算数もあるし国語もある。今日はなかったけど、時間割を見ると音楽や図工もある。でも教科ごとに先生が違う。いち早く中学生になった気分。
でも体育だけはちょっと雰囲気が違ったかもしれない。訓練って感じで今日やったのは障害物競走。寮の同部屋でペアを組んで二人の合計タイムで競うルールだった。
最初は平均台。それから高さが違う跳び箱をみっつ飛び越えると、吊るされたロープがある。結びこぶがついているけど、一番上までのぼり、隣にあるポールに移って滑り降りてくる。体育館を一周走ったら、また平均台。今度の平均台はジグザグになっていてバランスがとりにくいのだ。
わたしはまずまずの記録だった。悪くない。良くもなかったけど。ホタルちゃんはロープのやつが苦手らしく、なかなかのぼれなくてタイムロスした。
それで結果は最下位になっちゃった。ホタルちゃん、すごく気にして「ごめんね」って。小さい声で泣きそうになっていたから心配した。授業だけど、べつに試験でもないし。正隊員になれませんってことならびっくりするけど、そうじゃない。
本当にわたしは気にしてなかったから、そんなに悲しそうにしてて慌ててしまった。こんなことなら、わたしがすっころんでドベになったほうがマシだった気がする。
一方でリナちゃんとシルビアちゃんペアは優勝してた。もちろん男子もいる中で、ぶっちぎり。どっちもカッコよかった。でもぜんぜんよろこんでない。シルビアちゃんが、リナちゃんに、「何度か手を抜いたよね」と言ったからだ。
リナちゃんはあれだ、フンガイしてた。カアって顔を真っ赤になって目が飛び出るくらい見開いていた。ずっと真剣な顔をして取り組んでいたシルビアちゃんと違い、たしかにリナちゃんは何度か笑顔を見せていた。楽しそうに障害物に取り組んでいたんだ。
それがいけないことだとは思わない。ううん、そっちのほうが良くない? 先生だって怒ってなかったのに。でもシルビアちゃんは「そんなことじゃ、正隊員になれないよ」だって。うっとうしい、ってリナちゃんが言い返したのが良くなかったんだろうな。二人の仲は最悪になった。黙ってにらみ合って、動かないのだ。体育先生も困っていた。終了のチャイムが鳴ってほっとしたんじゃないかな。
同じ小学校だったホタルちゃんに、「シルビアちゃんって前の学校でもああだったの?」と聞いた。でも聞かなきゃよかった。ホタルちゃんは言いにくそうにして、「わからないよ」って。それからわたしをさけるみたいにして更衣室に行ってしまったから。
同じ小学校のシルビアちゃんを悪くいわれて怒ったのかな。わたしもリナちゃんの悪口言われたら良い気持ちにはならないかも。
あとで、あやまっておこうとこの時は思った。でも今のところまだあやまっていない。だって、「さっきシルビアちゃんを悪く言ってごめんね」と言いたくない気分だから。どうみてもシルビアちゃんの方が悪いよね? わたしはリナちゃんの味方だなあ。
★★☆
ランチはまた売店でサンドイッチを買おうかと思ったけど、売店にシルビアちゃんがいるのを発見したリナちゃんがイヤがったから、朝と同じで寮のキッチンに行ってみた。
誰もいないかと思ったけど、数人の先輩隊員がいた。三期年上の先輩たちだって。みんなでカップ麺を食べてて、わたしたちにも食べるか、って聞いてくれたから、そうすることにした。いつも給食を食べていたからお昼にカップラーメンを食べるのは、悪いことをしているみたいでおもしろかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます