第3話 制服をもらって歓迎会もした
訓練生の制服をもらってきた。制服といってもジャージみたいなやつ。それがハンガーにずらっとかけてあって、合うサイズのやつを部屋に持って帰るよう言われたんだ。
訓練生は紺色って決まっているらしく、上下どっちも同じような暗い紺色。正隊員になったら、チームでいろいろデザインも色も選べるらしい。そういえばマロンさんは青色を着ていたけど、もっとカッコ良くて明るい色だった気がする。
ということは、制服のデザインで、どのチームかわかるってことだ。顔がわからなくても、マロンさんを見つける方法がわかった!
ともあれ大切なのはマークだ。
ジャージみたいなのでも、ちゃんと惑星探査プロジェクトのシンボルマーク、メビウスの輪が描いてある。さらにサザンクロス探査隊は、メビウスの輪の回りに小さな星が四つ、上下左右にあるマークなのだ。それが背中に大きなのがバーンとあって、肩と胸のあたりにも小さく入っていた。すごいすごい、最高!
試着したのはトレーニングルームだったんだけど、鏡がなかったから着た姿は見られなかった。でも部屋のクローゼットのドアの裏側に鏡がついていたから、また着替えてみた。ホタルちゃんもいっしょにね。
「似合うね」と言ったら、「ミノリちゃんもね」と、はにかみながら答えてくれた。うれしかったな。
★★☆
晩ごはんも売店で買うことになるのかなって、思っていたら食堂で歓迎会があった。ビュッフェスタイルで料理がいっぱい。先輩隊員たちも集まってて、食堂は人だらけだった。でも全員は来ていないらしい。チームリーダーとか、新隊員に知り合いがいる人たちが参加してたんだって。
わたしはブログで見ていた青系の制服を着ている人がいないか探してみた。マロンさんが来ているかもしれないから。でも部屋着の人もいたし、ほとんどが青っぽい制服だったから、探せそうになかった。
また今度、ブログに出ている写真を細かくチェックしようと思う。
でもできたら、マロンさんのほうから、わたしに会いに来てくれたらいいのにな。こっちから話しかけるのは、相手がスターすぎて緊張するから。
といった感じだったけど、歓迎会に知り合いの先輩が来ているとなると、やっぱり、はりきるのはあの子、シルビアちゃん。おねえちゃんも探査隊員だから。おねーちゃんおねーちゃんと大きな声で言っていた。いっしょにいたリナちゃんはものすごくイヤそうな顔をしてて、せっかくの歓迎会も楽しそうじゃなかった。
で、そのおねーちゃんの先輩隊員は、あんまりシルビアちゃんと似てなかった。シルビアちゃんは背が高くて細い子だけど、おねえちゃんのほうはどっちかというと、ぽっちゃりしていて背は低かった。それで目が細くてずっとニコニコしていた。
シルビアちゃんのことも、「シルビア」って呼び捨てじゃなくて、「シィちゃん」って呼んでいて、妹もサザンクロスに入隊できてとってもうれしそうだった。
そんな二人の様子を見ていたら、ニコニコする感じなんだけどなあ。リナちゃんは「うるさいよねー、ずっと騒いでるよ」とブツブツ言ってて不機嫌だった。
ごはん食べたり、クラッカー鳴らしたり、あとなんでか「歌を歌いましょう」ってなって、『ビリーブ』を歌った。そのあと先輩たちが催しものをしてくれた。手品とアクロバットとクイズ大会。
優勝者は訓練生が食堂で使える食券五日分だったんだけど、ここでもシルビアちゃんが大活躍して優勝したもんだから、リナちゃんが黙り込んでしまった。カレーを食べてたんだけど、ぜんぜん食がすすんでなくて、福神漬けをスプーンでつつくばかりしていた。
リナちゃんって、小学校ではクラス委員もやっていたし、明るくて頼りがいがあって勉強も運動もできた。友だちもたくさんいた。だからこんなに機嫌悪いのは初めて見た。
気分を上げてもらおうと思って、きれいなガラスの器に入っていたゼリーを持ってきてあげた。いろんな色の小さな星型のゼリーがたくさん入っているやつだ。
「ねえ見て、かわいいやつあったよ」
「わあ、ほんとだ。きれいだね」
リナちゃんはニコッとしてくれた。安心した。
それからはシルビアちゃん大活躍の時間はなかったから、おしゃべりしながらすごした。あと初めて生ハムメロンを食べた。しょっぱいのと甘いのが合わさっておいしかった。でもあんまり量は食べられなかった。リナちゃんはシルビアちゃんのことがあったからだろうけど、わたしは緊張していたのか、胃のあたりがモヤモヤしたり、キュッとしたりして、気持ちは食べたくても、胃の中に入らなかったんだ。
せっかくごちそうだったのに、もったいなかった。またこんなパーティーがあるといいけど。正隊員になったら、またお祝いでごちそうがでるかもしれない。その時はたくさん食べられるといいな。
★★☆
そう言えば司会者?みたいなことしてたのは、合格発表の時に来ていた男の人だった。育成本部長のトキタさん。サザンクロス探査隊員全員にとって担任の先生みたいなものらしい。学校の体育館で見た時はきびしい人そうに見えたけど、今日は三角帽子にゲジゲジまゆげの鼻めがねをしていて違う人みたいだった。歓迎会で一番楽しそうだったのは、トキタさんかもしれない。
★★☆
地区本部をあっちこっち歩いて疲れたはずなのに、なかなか眠れなかった。目を閉じていると布団の感じもそうだけど、部屋の匂いがちがうのが気になってくる。
それにママもパパもいない。これから一か月ここで生活するのか。ううん、正隊員になったら大人になるまでずっとなんだ。わたしは正隊員になるぞ。めげるな、ミノリ!
土曜日まであと一日ある。明日がんばったらお休みだ。家に帰れる。
それでウトウトしてきた頃に気づいた。
ホタルちゃんが泣いている。
さみしくなっちゃったのかな。ホタルちゃんも眠れなかったんだね。話しかけようかとも思ったけど、泣いていたのを知られたくないかもしれないと思ってやめておいた。
でも朝起きた時、目がパンパンのホタルちゃんを見て、やっぱり話しかけたら良かったと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます