第2話 地区本部に到着した、寮生活は大変そう

 駅ではびっくりした。サザンクロス探査隊ってやっぱりすごい。

 わたしやリナちゃんたちが今年の合格者だとわかると、ホームにいた人たちが全員拍手してリニアモーターカーに乗り込むのを見届けてくれた。発車の合図が鳴ると、バンザイする人まで続出した。「大げさ」とリナちゃん。

 二人してクスクス笑いが止まらなくなったけど、リニアはあっという間に進むから、見送りの人たちはすぐに見えなくなってしまった。あーあ。笑ってないで、もうちょっと、しっかりママに手を振れば良かったな。


★★☆

 リニアの終着駅が、寮がある地区本部の敷地内にあるから、乗り換えなしで、このままずっと乗っていたらいい。初めから乗っていた子や、そのあと乗り込んできた他校の合格者たちとおしゃべりしていたらすぐに到着した。

 ホームはトンネルみたいだった。青白い電灯がついている。女の人が待っていて、地区本部の職員さんだって。黒のスーツを着ている。でも腕章にはプロジェクトチームのシンボルマーク、メビウスの輪がしっかり入っていた。


「ようこそ、新入隊員のみなさん。忘れものはありませんか? それでは寮に案内しますね。がんばってついて来てください」


 職員さんについて細長い鉄製の階段を、カンカンと音を立てて上がっていったら明るいところに出た。まばらにはげかかっている芝生の運動場だ。その端っこをみんなで進む。ハイヒールなのに職員さんは歩くのが早い。元サザンクロス隊員だったのかな? キビキビ歩く後ろ姿はカッコ良い。


★★☆

 地区本部って広い。がんばってついて来てくださいの意味がわかった。

 キャリーバッグを引きずって歩くこと三十分くらい。へとへとになってやっと寮に案内してもらえた。正面入り口からすぐは食堂になっていて、右にいったら女子寮、左に行ったら男子寮だって。男の職員さんが待っていて、男子はそっちについていった。わたしたち女子は引き続きハイヒールの職員さんの案内で女子寮へ向かう。


 廊下を行くと丸い広い部屋があって談話室だと教えてくれた。先輩たちは授業中なのか誰もいない。窓際のホワイトボードに貼り紙がしてあって、「部屋割りですよ」と教えてもらった。でもそれを見る前に、入隊式があるからって、また列になって移動した。荷物は談話室においてきたから身軽だけど、寮から講堂までの道のりも長かった。

 これも訓練かもね、って言ってる子がいた。そうかも。体力はつく。でもそのまえに靴ずれしちゃった。新しいスニーカーをはいてきたのは、失敗だったな。


★★☆

 戦争、環境破壊、異常気象。

 人類が住める場所は日々減っていっています。

 しかし人類は惑星ムゲンを発見しました。

 惑星ムゲンは地球とほぼ同じ環境を持つ、地球の何倍もある大きな星です。

 ですがひとつだけ、問題がありました。空気中の毒です。

 その難点を解決するのが、サザンクロス探査隊です。


 みなさんがいるから、人類は惑星ムゲンで生活できるのです。

 誇りを持ちましょう。

 この任務は子どもにしかできません。

 どうか立派な探査隊員になってください。

 そして人類に新しい土地をプレゼントしましょう。

 みなさんは英雄です。人類を救っているのです。


★★☆

 入隊式の祝辞?の言葉は少しげんなりした。感動している子もいたけど、わたしは「人類に土地を!」って、熱く言われても引いてしまう。

 わたしは冒険がしたい。誰も行ったことのない場所にはじめて行く人になりたいんだ。

 あの先生、今は怖い顔をしたおばあちゃんだったけど、元サザンクロス探査隊員だって聞いた。まだ訓練学校が出来る前、初めて惑星ムゲンに行った子どもたちの一人だって。わたしのすごい昔の先輩。もしかしたら、もう冒険できなくなって、がっかりしているのかな。

 パパは大人になっても惑星ムゲンの空気が吸えるようにできないか研究している。子どもじゃなくってロボットを使って探査活動や空気の浄化できないかの実験もしてるんだって。だから完成すると冒険ができなくなる。そうなる前で良かった。

 はやく任務に出たいな。惑星ムゲンに行きたい。そこの空気は大人には毒でも、わたしたち子どもには安全だ。惑星ムゲンの空気は、とても呼吸しやすくて、スーッとする味だとマロンさんがブログに書いていた。子どもだけが吸える空気だ。

 ううん、サザンクロス探査隊だけが味わえる空気! わたしも味わいたい。早く惑星ムゲンに行きたいな。それで思いっきり深呼吸するんだ。


★★☆

 部屋割りを確認した。わたしは東小出身のホタルちゃんって子と同じ部屋だ。おとなしい子。人見知りしてるみたい。わたしも自分からどんどん話しかける方じゃないから、二人でいると気まずくなってしまった。早く仲良くできたらいいんだけど。

 寮の部屋はアパートのわたしの部屋くらいの広さだ。ベッドと机が二つずつ。本棚がひとつ。それから壁にくっついている(めりこんでる?)クローゼットがひとつ。大き目のクローゼットだけど、二人で使うから分けないといけない。

 わたしは右側を使うから、ホタルちゃんは左ね、って決めたんだけど、それでよかったのか心配してる。ホタルちゃん、「うん」とうなずいたけど、もじもじしてたし、他に言いたいことがあったのかもしれない。

 まだ荷物が少ないからスカスカしてるけど、これから物が増えてきたらケンカすることもあるかもしれない。ホタルちゃんは怒らなそうだけど、泣き出す可能性はあるかも。ホタルちゃんを困らせないよう、きれいに使おう。


★★☆

 重大なことに気づいた。わたしたちは訓練生。一月後にある正隊員試験に落ちたら、寮から出ていく。つまりホタルちゃんが落ちたら、わたしは一人部屋だ。もちろん、わたしが落ちたら、ホタルちゃんが一人部屋になる。一人部屋はさみしいかもしれない。特に夜とか。どっちも合格できたらいいな。二人して正隊員になろう。

 ……って、話しかけようとしたけどやめた。ホタルちゃんは無口。話しかけづらい。


 ★★☆

 ランチはリナちゃんと食べた。

 食堂に行こうとしたけど、先輩たちも来ていて今行っても混んでるよ、と先に行ってきた同期生に聞いたから、売店でサンドイッチを買うだけにした。お金はプリペイドカードで払う。ママが毎週、一週間分の食事代とおこづかいをチャージしておいてくれるんだ。でも正隊員になったらお給料がでるし、食堂と売店は無料だって。すごいや!


★★☆

 寮を出てすぐのところで見つけたベンチで、サンドイッチを食べた。天気が良くて青空がきれいだった。

 そうそう。リナちゃんは東小のシルビアちゃんと同じ部屋で、シルビアちゃんは、おねえちゃんもサザンクロス探査隊員なんだって。

「仕切りたがりだよ」ってリナちゃん。

「おしゃべりだし、自慢ばっかり。ミノリちゃんも東小の子だよね?」

 ホタルちゃんは大人しいよ、と教えてあげると、うらやましがられた。ホタルちゃんが無口すぎてしんどくなってたけど、おしゃべりな子も困るみたい。寮生活って大変だな。

 でもこれも訓練だ。探査隊員はチームで行動するし、惑星ムゲンに行ったら、数日間向こうで生活する。マロンさんもブログでその様子を何度も書いてくれていた。共同生活の練習をやらないとね。マロンさんのブログではとっても楽しそうだったけど、人によるのかもしれない。


★★☆

 はっきり教えてもらったわけじゃないけど、どうやら部屋割りは別の小学校出身の子と組むようになっているらしい。でも南小出身のモエちゃんって子は、人数の関係で一人部屋だとわかった。ランチのあと談話室によったら、中央で叫んでいたからわかった。

 ピンクのマニキュアをしているモエちゃんは、「南小の合格者はモエひとりだったの。でもこっち来たら友だちが出来ると思ったのに、一人部屋なんだよ。だからみんな、わたしのことかまって、さみしいのキライなの!!」だって。元気だ。あとオシャレ。メイクもしてるみたい。まつげがピンピンしていた。

 リナちゃんは「あの子と同じ部屋が良かったなあ」と残念がっていた。よほどシルビアちゃんって子が苦手らしい。

 部屋割りは変えてもらえないのかな。わたしはホタルちゃんで文句ないけど、リナちゃんはさっそく苦労してて気の毒だ。


★★☆

 シルビアちゃんって子は、わたしも苦手かも。

 東小の女子の合格者はホタルちゃんとシルビアちゃんの二人だけらしくて、「ホタルちゃん、うまくやれてるー?」って、おねえさんぶった口調で話しかけてきた。

 一方的にしゃべって、「じゃあねー。うちら二人で、正隊員になろーねー」って。言ってることは良いんだけど。なんかつかれる。

 ホタルちゃんのほうでも同じ小学校出身ってだけで、特にシルビアちゃんと親しくはないみたいだった。話しかけられても笑顔がぎこちなかったし、「うん」とか「そうだね」しか答えてなかったから。その声も小さくて「えー、なにー?」と大声で聞き返されてたけど。でもあの人のおねえさんもサザンクロス探査隊員なんだよね。姉妹ですごいな。

 まあ、わたしはパパとセキヤおじさんが探査隊員だったけどね!

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